6.聞こえねど 心に届くは ナツノコエ
夜になった。
夏祭りの時間も近い。
僕は色紙にだけは文字が書けることに気づいた。だから、彼女を花火に誘おうと書いたのだ。わかってくれただろうか。
そう思ってそっと彼女の部屋を覗くと――
「うわっ?!」
慌てて目をそらした。
和葉は着替え中だった。
見てない見てない。八百万の神に誓います。僕は決――して何も見ておりません。
ただ、彼女の表情は幾分良くなっているようだ。
多分行けるだろう、花火大会。
僕と彼女の最後の花火。もしかすると――最後の夜になるかもしれない。
なんとなく、そんな予感がする。
それでも最後に彼女とこうやって思い出を作れることは多分、人生で一番良かったと思えることなんじゃないだろうか。そんな風に思う。
***
待つこと三十分、彼女は玄関から出てきた。
そして玄関のぼんやりとした明かりと、沈みかけた紫色の空に照らされた彼女の姿に僕は無い目を見張った。
「……綺麗だ」
彼女は薄い青色の浴衣に身を包んでいた。
「ありがと」
「え?」
思わず聞き返した。彼女は今、なんて――?
「良樹の声、わかるよ。聞こえなくてもわかる。そこにいるんでしょ」
「……うん」
「じゃあ、そろそろいこっか。早く行かないと始まっちゃうよ」
「わかった。行こう」
僕らは闇に飲まれていく村を後にして、臨時のバスに乗り込んだ。
「ねえ、あのさ」
彼女が言う。
「似合ってるかな」
「うん。よく似合ってる」
「そっかそっか。お世辞じゃないといいんだけどなぁ」
「…………そんなことないよ」
彼女は無理をしている。
彼女に僕の声が聞こえるはずがない。
何よりの証拠に彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
本当はその儚く愛おしい涙も拭ってやりたいのに。
「花火大会さ、行くの久しぶりだよね」
構わず彼女は話を続ける。
「そりゃー、去年は台風で中止になっちゃったしさ。仕方ないよ」
「……うんうん」
よくわからないまま、頷いている。
それでも僕の話を聞こうとしてくれる――その思いやりが何よりも嬉しい。
やがてバスは賑やかな街の中へと進んでいく。
僕らが住んでいるようなところじゃない、華やかな街。
道沿いにはたくさんの屋台が並んでいるのが見える。人もたくさんだ。
いろんな色の浴衣が道を行き交う。
「あっ、もう時間――」
和葉が言うか言わないうちに、屋台の向こう側に大きな花が咲いた。
少し遅れて轟音がバスの窓を震わす。
そしてしばらく走った後、バスは停車した。
「降りるよ」
まるで自分に言い聞かせるかのように彼女はそう言ってバスを降りた。




