5.風鈴よ 歌を写して ナツノゴゴ
今日は祝日で学校は休み。祝日なのに何も嬉しくない。めでたくない。
……本当ならば、今日、良樹と行く予定だったんだ。花火大会。
臥したまま、ぼんやりと窓の外を見つめる。緑色の風鈴が鮮やかに太陽の光を反射しているのがなんだか憎らしい。
このまま私も風となってしまいたい。そうすれば、あの人のところまでいけるのに。
チリン、と風鈴が鳴る。
空を写した風鈴が。
「あの……和葉、ごはん……」
母親が心配そうにドアの外から声をかける。
「…………」
もうずっと食べていないが、食べても吐いてしまう。それに、何も口にする気が起こらない。水を飲むだけだ。
彼女はしばらくそこにいたようだったが、いつか気配が消えていた。
寂しい。
空虚だ。
こんな気持ちは初めてだ。
彼と恋をした、あの日々の気持ちも初めてだったように、彼はまた私を初めての気持ちにする。だけどそれはもっと後でもよかった。こんなに早くこんなに辛いことを味わわなければならないなんて思いもよらない。
気が滅入りそうだ。
もう何もかも嫌になりそうだ。
首を傾ける。何か枕元でグシャリと潰れる音がした。
不思議に思ってそれを取り出して見る。紙だ。こんなものさっきまでなかったはずだ。
折りたたまれているそれを広げると、懐かしい文字がそこに表れた。
「風鈴の 夏を写して 空静か 我と見えむや 今宵の花ぞ」
「……よ……良樹……っ……」
喉から枯れた声が出る。
彼は、彼はまだいる。私の中だけじゃなくて、まだここに。
「良樹、ねえ、良樹。いるんでしょ。出てきてよ、ねえ」
チリン、と風鈴だけが返事をした。
私はそっとベッドから降りて風鈴にそっと触れる。
「冷たい、ね」
私はその冷たい風鈴を温めようと優しく両手で包み込んだ。




