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滅びの手前で、君の名をまだ呼ぶ  作者: しげみち みり


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第9話 十三の数え歌

 電光掲示板の赤い数字は、雨の翌日にまた点灯した。校庭脇の陸上トラックに面した掲示板は、もうタイムもラップも映さない。配線は半分死んでいて、気まぐれに目を開けると、同じ数字を繰り返す。十三。昼前の薄曇りの下、赤い棒がゆっくり滲んで、はっきりと形をとる。十三――海斗は無意識に喉の奥で数を継いで、止めた。胸のどこかが先に応じる。聞いたことのある調子。昔の台所。味噌の匂いと糸で吊るした唐辛子。祖母が指先で机を叩きながら歌っていた、あの数え歌。

 「十三で踊り場、十四で扉」

 祖母の声は、今朝もはっきりしていた。避難所の片隅、毛布を二枚重ねて敷いた簡易ベッドの上で、祖母はまっすぐ座って、両の手を胸の前でくるりと回した。踊り場の手振り。手を止め、扉を叩く仕草。海斗は隣で笑って、笑いながら背すじが寒くなるのを誤魔化した。

 「ばあちゃん、それ、前にも歌ってた?」

 「そりゃあねぇ。おまえがまだ背中で寝てた頃から。忘れないようにって、ここの人は皆、歌にしたんだよ。忘れると、死ぬからね」

 「忘れたら、死ぬ?」

 「忘れないように歌うのさ。歌は、体が覚える」

 祖母は指を一本ずつ折りながら、低く唱えた。

 「一でいとまの合図、二で荷をおろす、三で水くみ、四で火を絶やす、五で戸を閉め、六で縄なう、七で名を呼ぶ、八で針取る、九で供える、十で灯を消す、十一で耳を澄まし、十二で息潜め、十三で踊り場、十四で扉、十五で……」

 祖母はそこで言葉を切った。眉間にしわを寄せ、ほんの少し笑う。

 「十五で戻って、また一から」

 海斗は、電光掲示板の数字を思い出した。雨の夜、掲示板の赤は「13」で止まって、消えた。十三で踊り場。胸の奥で、意味が勝手に並び始める。走り続ける日々。止まることは、逃げることの裏側のように扱われてきた。止まるたびに罪悪感が生まれる。でも、十三で踊り場。ここで意図的に止まれ、という言い方に似ている。

 「宙、ちょっと来てくれない?」

 祖母の歌の調子が抜けきらないまま、海斗は体育館の反対側で人形の糸をほどいていた宙を呼んだ。宙は指を休め、すぐにやってきた。祖母は初めて会う彼に目を細め、あいさつ代わりにまた一節歌った。宙は手帳を出して、歌詞をゆっくりと文字にした。歌の間合いは、言葉の長さよりも指の動きで決まるのだと、宙は悟る。踊り場――ここで一度止まる。止まって、階段の角に手を置く。扉――握り玉を回し、軽く叩く。軽く叩くと、中から返事がある。なければ次へ。次へ行くにも、踊り場がいる。

 「終わりを階段にする……」

 宙は口の中で呟き、頭の中で台本の骨組みを組み替えた。これまでの短い人形劇は、地面の上での移動だった。嘘の橋を並べ、渡してきた。でも、これからは上に行く。上に行くなら、落ちる危険が増える。だから、踊り場が必要になる。踊り場があると、人は目線を水平に戻せる。水平で一度、笑える。

 宙が図書室に向かうと、先に茉莉がいた。窓辺の机に積み上げられた古い本の山。紙は黄ばみ、背表紙は割れている。茉莉は一冊の郷土誌を広げ、指で文字をなぞっていた。図の脇に小さな注釈。毛筆で書かれた古い歌。

 「あったよ。ほら」

 茉莉はページをこちらへ倒した。そこに、確かに歌があった。祭り唄の隅に書き込まれた注意の歌。台風の前、地震の後、川が増水した時。地域ごとの言い回しが混ざっているが、芯は同じだ。十三で踊り場、十四で扉。

 「これ、災害の伝承として残ってたんだ」

 「歌は予報、って書いてある」

 茉莉は本の端を指で叩いた。歌は予報。予報は外れることもある。外れても、助かることがある。歌は外れても、体に残る。残ったものは、次で役に立つ。歌は、予報。

 宙はじっと歌詞を見た。台本の終盤、王子と羊の雲が「終わりの町」に入る順序を、この歌に重ねよう。王子は階段を上る。一段ずつ、指先で段の角を確かめながら。十三で踊り場。そこで観客席の呼吸を整える。本当の踊り場と同じように、過去の段と未来の段が同じ広さで広がっている場所。十四で扉。叩く。返事がある夜、ない夜。叩き方を変える。弱く、強く、リズムをずらして。扉が開かない夜は、扉の前で歌う。歌は予報。歌うことで、扉の中の人に「います」と知らせる。

 「燈に知らせる」

 「燈は、きっと時間を変えるね」

 茉莉は笑い、宙の肩を軽く押した。宙は頷き、歌のメモを胸ポケットに滑り込ませた。

 体育館では、避難計画のボードの前で燈が腕を組んでいた。昼の便、午後の便、夜の巡回。バスの編成。名簿の空欄。紙の端に残る水の跡。燈はペンを取り、時刻表の列の中に、小さく丸を描いた。丸の中に「N」。計画Nの巡回時間。さらにその横に、また別の丸を描く。丸の中に「13」。

 「十三時に、踊り場を入れる」

 「踊り場?」

 御影が壁に寄りかかって、眉を持ち上げた。頬の火傷の縁は薄いが、冷たい青がまだ残っている。彼は数字を頼る。頼りながら、最近は数字の外も持つようになった。

 「『十三で踊り場』って歌がある。ばあちゃんの歌で、郷土誌にも残ってた」

 宙が説明する。茉莉が「歌は予報」と付け足した。燈は頷く。

 「一日のうちに、止まる時間を意図的に作る。配給も、巡回も、修理も。十三時に動きを薄くして、立ち止まる。点呼、再確認、呼吸の修正。五分でもいい。十分でもいい。ここで止まるって、地域全体で決める。決めたら、動きやすくなる」

 「偶然に引っ張られるのは好きじゃない」

 御影は小さく言った。けれど、次の瞬間、ボードに近寄って、自分で「13」の丸を二つ増やした。配電チェックのスロット、酸素濃度の測定、アンテナ角度の点検。彼は数字を嫌うと言いながら、数字の並びを美しく整える。

 「偶然に見えるものの中に、身体の都合ってやつが隠れてる時がある。午後一に止まるのは、悪くない。止まるって決めておけば、『止めた』って罪悪感が減る。罪は軽くしないと、すぐ溜まる」

 燈は丸に矢印を添え、各班に小さなカードを配った。カードには、時刻と「踊り場」。踊り場では、必ず三つのことをする。水を一口飲む。隣の顔を見る。今日の残りを短く声に出す――声が出ない人は、手で示す。それだけでいい。足を止めるための手順。止まるにも、段取りがいる。

 苑は後ろの列でそれを聞いて、胸の前で正方形を作った。両手の親指と人差し指で四角を作り、小刻みに上へ上へと重ねる。階段。「踊り場」は手を開いて水平を示す。「扉」はノックの形。苑の指先は滑らかで、見ているだけで体が少し緩む。彼女の横で、子どもたちが真似した。手を開き、閉じ、コンコン、と叩く。声がなくても、動きの中に言葉がある。

 柊はその列を斜めから捉えた。ファインダー越しに、手と手の間、指と指の間の空気を見る。押さえつけず、切り取らず、ただ置く。シャッターは軽く、一度だけ。タイトルは、最初から決めていた。「歌が地図になる」。写真の下に小さな文字で印字する。印字した紙を、明日の置き配に混ぜる。地図の代わりに、人の手を配る。

 午後一の「踊り場」は、まず体育館で始まった。鐘を鳴らす代わりに、宙が指揮棒代わりの鉛筆を掲げ、軽く振る。苑が前に立ち、手で階段を描き、水平を示し、扉を叩いた。叩くリズムに合わせて、みんなが手のひらに軽く一度ずつ触れる。触れて、離す。水を飲む。顔を見る。短く言う。

 「大丈夫」

 「午後は内陸」

「三丁目は止水済み」

 「戻ったら、無線」

 「受け側に徹する」

 「配る写真、二十枚」

 「十四で扉」

 言葉は短い。短いのに、空気の密度が上がる。踊り場での会話は、階段の角に腰を下ろして交わされる休憩の会話に似ている。目的地の話ではなく、靴の紐の話、足の裏の話。今はそれが強い。強いものは、次の段まで運んでくれる。

 踊り場の間、御影は配電盤の前で針の揺れを見続けた。いつもなら作業を足し算してしまう時間に、彼は引き算を選んだ。やらない。やらないで、見る。見ると、見えてくるものがある。たとえば、照明の微かな脈。微妙な負荷の変化。人の通り道の息の長さ。十三時の五分間は、数字では測れない情報を拾うためにあるのだと、彼は腹で理解した。

 凪は掲示板の前で、兄の似顔絵の横に、新しい紙を貼った。宙が書いてくれた「踊り場」の説明。茉莉が見つけた郷土誌の引用の抜粋。柊が撮った、手話の階段の写真。三枚を並べて貼ると、それ自体が小さな地図に見えた。左上から右下へ、視線が階段を下りる。降りながら上っていくような錯覚。地図は、方向を一つに決めないほうがいい。

 「歌は予報」

 茉莉がぼそりと言って、図書室の方へ戻っていった。紙を束ね、古い歌をもう少し探すのだろう。歌は予報。予報は、間違っても良い。間違いを想定した上での合図。合図があるだけで、人は迷う時間を少し短くできる。短くなった分、泣く時間がとれる。泣いた後の歩幅が揃う。

 午後の巡回。燈は腕時計を見て、十三時の丸の上に指を置いた。止まる。配給車の速度を落とし、路肩に寄せ、窓を開ける。外の空気は湿っていて、塩の匂いは薄れていた。洗われた木の匂いが強くなる。運転席の父親が、こちらを見る。燈は頷いた。彼は水を一口飲み、目を閉じてから、再び目を開ける。目を開けた時、その瞳の焦点は前よりも遠くを見ていた。踊り場が、目の高さを戻す。戻った目に、細い道の先が一本で続く。

 丘陵側の住宅地で、ひとり暮らしの老人が縁側に座っていた。風鈴の輪だけが揺れて、舌は失われている。燈は玄関先に箱を置き、「踊り場」の紙を手渡す。老人はしわの深い目で紙をなぞり、嘴のような口で「うたいながら、待つ」と言った。歌は予報。待つことの言い訳であり、方法であり、願いでもある。

 港の倉庫街で、凪は足を止めた。掲示板の若者が言っていた倉庫番号。シャッターは半分開き、奥で誰かが無線機をいじっている。顔は見えない。幻のように、兄の肩の形が見えた気がして、凪は扉の前で二回叩いた。コン、コン。十四で扉。返事はない。なければ次へ。凪は息を吐き、踊り場のない扉は開けないと決め、背を向けた。決めることが、前を向かせる。決めてしまえば、足は勝手に次の段へ進む。

 学校に戻ると、宙の台本が新しくなっていた。階段のスケッチが端に描かれ、場面ごとの言葉が短く切られて並ぶ。王子は羊の雲の背で、一段ずつ上る。段と段の間は、観客席の呼吸で埋める。十三で踊り場。宙はそこで一度、王子に嘘をつかせる。ここまで来たら、もう大丈夫と。嘘は橋。橋の上で人は笑える。笑った後で、扉が閉まる。その時の顔を、宙は書く。閉まった顔を、どうやって開くか。開け方はあとで書く。今は、閉まる顔を書くだけでいい。

 リハーサル。幕の裏で、真帆が糸を指に掛ける。苑は前に立ち、手話で階段を描く。観客席の子どもが真似をする。御影は照明の角度を、階段の影がきれいに見える位置へ調整する。影の段差が、実際の段差よりもはっきり見える。見えすぎる段差は、怖がらせすぎる。だから、光を少し柔らかくする。

 柊はファインダー越しに、苑の手と影を重ねた。影の階段は、現実をなぞる。なぞることで、現実の輪郭が太くなる。輪郭が太くなると、人は足を置きやすくなる。押したシャッターの音は静かで、すぐに消えた。消えた後で、写真は鳴る。鳴る写真を、彼は明日の朝、配る。

 燈は会議室で、十三の丸を増やしながら電話を回した。学校以外の避難所、市の福祉会館、商店街のボランティア拠点。十三時に踊り場。水を飲む。顔を見る。短く言う。十以上の拠点が、同じ時刻に同じことをする。離れている場所が、一瞬だけ同じ高さに並ぶ。並ぶと、町の見取り図が頭の中に灯る。灯った図は、暗くても消えない。消えない図がある夜は、眠りやすい。

 夕暮れ、電光掲示板はまた十三を示した。海斗は祖母の手を取り、二人で掲示板を見上げた。十三で踊り場。祖母は小さく肩を揺らし、踊るみたいにその場で足を踏んだ。海斗は笑って真似をする。踊り場の踊りは、派手でなくていい。足の裏の角度がわずかに変わるだけで、全身の重心が戻る。戻ると、呼吸が浅くなる。浅い呼吸は、長く続く。長く続くほうが、遠くまで行ける。

 夜。宙の人形劇は、階段から始まった。王子は一段、羊の雲はふわり。段の角で立ち止まり、上を見上げる。観客席の呼吸がそろう。十三で踊り場――宙はそこで、台本の余白に挟んだ便箋を思い出した。未来の自分からの手紙の言葉。嘘が救うのは一瞬。けれど一瞬の橋で向こう岸へ渡れる人がいる。宙は観客席を見ずに、その言葉を王子の背中に貼った。背の木が、軽く鳴った気がした。

 十四で扉。宙は糸をわずかに引き、王子の手を上げる。コン、コン。扉は開かない。開かない時の客席の静けさは、開く時よりも濃い。濃い静けさは、嘘に負けない。宙は予定より三拍長く待った。待つあいだ、苑の手のひらが水平を描き、茉莉の目が本の余白に書き足し、柊のシャッターは降りない。御影の指が配電盤のスイッチの上で動かず、燈の腕時計の針が進む。進みながら、止まるふりをする。

 扉は結局、少しだけ開いた。隙間ができる。隙間から風が入る。風の匂いは、海でなく、乾いた紙の匂いだった。歌の紙。郷土誌のページがどこかでめくれ、紙の粉が空気の中に浮かぶ。粉は光を持っている。粉の光が、王子の木の顔に一瞬だけ溜まって、消えた。

 終演後、拍手は短く続いた。子どもたちが階段の手を真似し、手を合わせて扉を叩くふりをし、笑いながら寝転がる。寝転がった背中が、床の木目の段差を感じて、安心する。段差は嫌われるけれど、段差がないと上へ行けない。上へ行かない夜もある。行かない夜のぶん、次で二段、上れる。

 深夜。雨は止んで、空は黒いまま落ち着いた。光条は数を増やさず、遠くで震えているだけだった。御影は配電盤の前で、十三の丸に小さなチェックを入れた。今日、踊り場は回った。事故はなかった。走りすぎることも、止まりすぎることもなかった。明日も、十三で踊り場。十四で扉。扉は開くか、開かない。どちらであっても、十五で戻って、また一から。

 廊下の窓際で、燈と苑が立ち止まった。苑は手で階段を作り、扉を叩く。燈は腕時計の十三の位置に指を置き、目を閉じた。目を閉じて、今日の残りを短く言う。

 「無線。朝いち、受け」

 苑は頷き、口の形で「歌う」と言った。声は出ない。出ないけれど、手が鳴る。鳴った手が、空気を震わせる。震えは、壁に伝わり、体育館の天井に触れ、やがて夜の外へ出ていく。外には、扉がいくつもあって、たぶん、いくつかは開いている。

 柊は暗室代わりの理科準備室で、写真を現像した。白い紙の上に、苑の手が現れる。階段の形。水平。扉。もう一枚には、祖母の手が写っていた。節くれだった指。踊り場の手振りは、若い手のそれよりもゆっくりで、確かだった。写真の下に小さく、タイトルを入れる。「歌が地図になる」。下に、日付と十三時の印。

 海斗は祖母の寝息を数え、数えながら目を閉じた。十三で踊り場。十四で扉。十五で戻って、一でいとまの合図――心の中で繰り返す。繰り返すほど、呼吸は浅く、長くなる。浅く、長い呼吸は、走る前の合図だ。明日、走るかもしれないし、止まるかもしれない。どちらでもいい。踊り場があるかぎり、次に上がれる。

 凪は掲示板の似顔絵を見て、軽く指で叩いた。コン、コン。扉を叩く音。返事はない。返事がないことにも、意味はある。返事がなくても、扉の向こうに明かりが点いていることがある。明かりが点いていなくても、人がいることがある。人がいなくても、次の夜が来る。次の夜が来れば、また十四で扉。

 茉莉は図書室の灯りを落とし、郷土誌を抱えて扉を閉めた。背表紙に指をかけると、紙の匂いがした。歌は予報。紙は地図。地図は、夜の中で折り畳める。折り畳んで、ポケットに入る。入れたまま走れる。走って、十三で止まる。止まって、扉を叩く。叩いて、返事を待つ。待つ時間は、歌が持ってくれる。

 明け方、町の角々に、見えない踊り場が置かれているような気がした。誰かがそこで水を飲み、顔を見て、短く言う。「大丈夫」「午後は内陸」「戻ったら、無線」。扉の前で、誰かが二度叩く。返事がある夜と、ない夜が交互に来る。どちらの夜にも、階段は続いている。続いていくかぎり、人は上へ行ける。上って、踊り場で笑える。

 電光掲示板は、朝の薄灰の中で一度だけ、赤く瞬いた。十三。海斗は祖母の手を握り、そっと一段、足を上げるみたいに歩き出した。背中の筋肉が、その高さを覚える。覚えた段差は、忘れない。忘れないものを増やすには、歌が役に立つ。歌は予報。予報は外れる。外れても、階段はそこにある。踊り場も、扉も、そこにある。扉の向こうに誰がいるかは、開けてみないと分からない。分からないから、叩く。叩いて、聞く。聞こえなければ、また上る。

 十三で踊り場。十四で扉。十五で戻って、一でいとまの合図。町のどこかで同じ歌が短く口の形になり、手の形になって、配られていく。配られた歌は地図になる。地図になった歌は、今日の足を、明日の足を、見えない段に正しく置いていく。その一歩先で、誰かが返事をする。コン、と小さく。聞こえるか、という声の代わりに。聞こえる、と返す声の代わりに。音のない、扉の向こうの合図として。

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