15話:救世主
エルフの里――臨時王城【鉄喰】内、リクレットの自室。
「なあ、リクレットさん」
「ん? なんだ。ほら、肉を食えルイン。だからそんなに貧弱なんだぞ」
俺とミウはリクレットさんの自室で食事を頂いていた。
分厚いなんかの獣肉のステーキに、果実酒。その他諸々。
豪華だし美味しいしで言う事はないんだが……
「ううう……エルフのイメージと違う……」
「ん? おいおい、まさかエルフは薬草や果実しか食べないみたいな事を想像してないか?」
「してたよ! しかも鉄だらけで全然イメージが違う……」
「なぜだ? 鉄も自然物で精霊が宿っているぞ。ならば我らエルフの仲間だ」
「そういう解釈もあるのか……勉強になった」
「このお肉美味しい!」
ミウが嬉しそうに肉を頬張っている。ミウはいつもニコニコしていて可愛いね。
「とにかくだ、ネコ様が降臨したのだ! 愚かな蛮族共への反撃を行う日が来たようだな!」
ミウを見て、リクレットさんが鼻息荒くそう宣言する。
そうそう、そこなんだよね。ミウがなぜかネコ様と呼ばれ、救世主扱いなのだ。
「ん? なんだネコ様を知らないのか?」
「いや、知っているよ。ミレネシウス神のことだろ?」
「はあ……」
うわ、露骨にため息をつかれた。
「それは、あの蛮族どもが勝手にねじ曲げた宗教の神だ。人間よりも遙か昔から生きてきた我々エルフの教えでは、この世界を創造したネコ様、そして世界の管理を任された精霊神ルクス様の二柱が信仰対象なのだが……人間共をそれをねじ曲げ、ネコ様だけを都合の良い神へと仕立てたのだ」
まあ、ありがちな話だ。
ふーん、しかしネコ様が先だったとはね。ミレネシウスという名前が後付けだったとは思わなかった。
「んー、でもミウはミウだよ?」
「その尻尾と耳がネコ様である何よりの証拠だぞ」
リクレットさん曰く、ミウのこの独特の耳も尻尾も、ネコ様の特徴に当てはまるらしい。
「神託によると、この世界に暗黒がもたらせると同時にネコ様が降臨させるという。暗黒とはつまり人間共の侵略。そしてネコ様の降臨が……つまり貴女なのだ!」
食べ終わったリクレットさんがワインを飲みながら饒舌に語った。
「そういえば、魔王とか勇者とか、そういうのはエルフ達の間ではどういう感じに伝わっているんだ?」
「ん? ああ、そんなものはどちらもただの英雄に過ぎない。魔王とはすなわち、魔物を束ねる力を持った人間で、歴史を振り返る限り、野望を持って悪側に傾いていることがほとんどだな。勇者はそれに対抗する為にネコ様が力を与えた、いわば神の抑止力ってところか」
ふむ。勇者や魔王がジョブということを考えると、間違ってはいなさそうだ。
しかし、魔王が大体悪側に傾くのって十中八九、あの四天王共のせいな気がする……。
「いずれにせよ、不当に迫害され、虐殺された我々の同志の為にも、ネコ様にはぜひお力添えをしていただきたい」
「ミウ、そんなの出来ないけど……」
「降臨されただけで、既に救いなのだ。見よ」
そう言ってリクレットさんが自室の窓際へと向かった。
俺とミウが窓から下を覗く、そこには何百人というエルフ達が集まっていた。
「うおおおお!! ネコ様がいるぞおおおお!!」
「これで勝てるぞおお!!」
「ネコ様万歳! リクレット姫万歳!!」
なんかめちゃくちゃ盛り上がっているな。
「皆、怒りを抱いていたのだ。我々の里は本来もっと森の浅いところにあったのだが、人間共に燃やされて、民は虐殺された……生き残った我らは復讐を誓い、こうして戦力を蓄えているのだが、正直士気は低下する一方だった。だから私は単独で降臨されているはずのネコ様を捜す旅に出たのだ」
「んで、やられてアリアに助けられたってところか」
アリアはリクレットさんのベッドでスヤスヤ寝ている。
「あの黒い服を着た神官共にはなぜか精霊魔術が効かなくてな」
「あー、なんか一部いたなあそういうやつ」
となると、俺の魔術で吹き飛ばしたあいつらもピンピンしてそうだな。よし次からは別の方法で攻撃しよう。
「とにかく、奴らがここまで侵略してくるのは目に見えている。だからネコ様には我らの戦いを見守ってほしいのだ」
「あいつらが悪いやつだってことはミウにも分かるけど……ミウは何もできないよ?」
「構わない。こうして居てくれるだけで、我らの力となっているのだ。エルフ二千人総火の玉となって奴らに裁きを与える!!」
力強くそう言い切るリクレットさんだが、精霊魔術を防ぐ力を持ったやつらに果たして勝てるのだろうか。
「そういえばさ、リクレットさん。仮にミウがそのネコ様だとしたら、勇者も復活するんだよな?」
「ん? ああ、そうだな。だが勇者も所詮は人間だ。悪を倒したからと言って、正義とは限らん。どこかで覚醒しているのかもしれんが……我らエルフの中にいないだろう」
ですよねえ。んー。しかし、リクレットさんの話を信じるならば、ミウが神の化身ということになるし、ミウが勇者を捜さないといけないと思ったことも、自然だ。
そう、ずっと不思議に思っていた。
なぜミウは独り、あんな空の上にいたのか。
高いところが苦手なミウが独りであんなところに行くとは思えない。となれば、何らかの外的要因で意図せずあそこに辿り着いたと考えると、色々としっくりくる。
ルクスの流した噂によって、通常とは違う降臨をしたかもしれないミレネシウス神。
ミレネシウス神と同一存在であるネコ様と同じを特徴を持つミウ。
つまり、ルクスによって通常の降臨を阻害されたミレネシウス神は、ちゃんと降臨出来ず結果として、記憶や使命を失って、レギエ浮遊諸島に落ちてしまった。
それを僕が助けた。
ということなのだろう。だから、ミウは勇者という言葉を聞いた時に、微かに覚えていた勇者を捜すという使命を思い出した。
今思えば、ルクスとレーヴェがミウに対して冷たかったのは、その可能性に気付いていたからかもしれない。レーヴェは魔獣の長であり、あらゆる獣の頂点だ。そんなレーヴェすらも知らない獣の特徴を持つミウ。そして当然ネコ様のことを知っているルクス。気付いてもおかしくない。
しかしそうなると、話が変わってくるというか、やることが変わってくるな。
ミウが神の化身だとすると……ミウについていけばいずれ勇者が見付かるのだろうけど、今回の降臨がこれまでと色々と違い過ぎて、本当にそれで良いのか分からない。
ミウが何かの拍子で記憶を取りもどしたら……どうなるのだろうか。
ニコニコとリクレットさんと話すミウを見て、僕はほんの少しだけ、今のままでいてくれたらな、と思ったのだった。
いずれにせよ、勇者を捜すことには変わらない。もし、勇者がミレネシウス教団や王国側にいるのなら、リクレットさんが言う、奴らの侵略に参加しているかもしれない。
「……ミウ」
「なに?」
「リクレットさん達を助けよう」
「うん、でも……ミウにそんな力」
「大丈夫、俺も力を貸す。もしかしたら勇者が侵略側にいるかもしれないしね」
「そっか。ルインが手を貸してくれるなら百人力だね!」
「ん? ああ従者である君も戦ってくれるのか。ありがたいな」
リクレットさんが純粋に嬉しそうにそう言って笑った。
「任せてくれ。こう見えて、力はそこそこあるんだ」
「ふ、期待しておこう」
そういって笑うリクレットさんは、言動はともかく、確かにエルフの姫のような美しさがあった。
そんな時に、扉を勢いよく叩く音が日響いた。
「リクレット姫! 大変です!!」
「どうした!?」
リクレットさんが扉を開けると、そこには慌てた様子の兵士が立っていた。
「や、奴らが!! ついに侵攻を!!」
俺は、咄嗟に窓の方を見た。
窓の向こうに広がる鬱蒼と生い茂る森が――紅蓮に燃えていた。
というわけでエルフに助太刀することに
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プロ自宅警備員、魔王城に転生す ~自称魔王の幼女が住むボロ小屋に転生したんだが、セキュリティがガバ過ぎるので、守ってやることにした~




