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それは禁句です! 〜私の想いはだだ下がりましたので、私から身を引かせて頂きます〜  作者: 悠木 源基


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20 蛇男(アランティス)視点

この章と次章で、この小説の核となるリリースリー公爵の視点を描きます。濃厚な内容となりますが、一部残虐な表現がありますので、嫌いな方はお避け下さい。

 私はアランティス=リリースリー。身分は公爵だ。しかし、現在、王家筋の人間としての血が一番濃いのは、この私ではないだろうか。

 

 何故なら、私は金銀メッシュヘアーに黄金色の瞳をしている。これは、王家の血筋にしか現れない特徴なのである。そして、現在の王家には誰も持っている人物はいないのだから。

 そう、現在の王も黄金の瞳をしているが、髪の色はどこにでもいる金髪だ。それに元々母親は他国の姫なのだから、そもそも問題外だ。

 

 そう。私は幼い頃から、周りから注目され、人気があった。まあ、王家特有の遺伝だけでなく、容姿も頭脳も飛び抜けて優秀なのだから当然の事だが。

 

 元々私の結婚相手は王家の姫が相応しい筈なのだが、運悪く、私とは年齢的に釣り合う者がいなかった。

 そこで同年代の高位貴族の娘として一番先に思いついたのが、ローゼン公爵家のマリエッタであった。

 彼女は幼い頃から大変愛らしく、将来は国一番の美人になるだろうと評判であった。しかもかなり頭がよく、勉強だけでなく、ダンスもマナーも一流であった。

 

 彼女こそ私の妻に相応しい令嬢だったが、あいにく我がリリースリー家と彼女のローゼス家は敵対関係にあった。

 彼女はそれをわかっていたのだろう。決して私に近づこうとはしなかった。

 

 しかし、簡単に彼女を諦める訳にはいかなかった。彼女ほど私に釣り合う令嬢はいなかったのだから。それに、彼女とは十歳年が離れていたので、彼女が年頃になるまで、まだ時間がある。それまでに何か方法を考えようと思っていた。

 

 とはいえ、いつまでも一人でいる訳にもいかず、マリエッタを妻に迎えるまでのつなぎとして、とりあえず別の伯爵家の令嬢と結婚した。二十歳の時だ。

 しかし、妻にはわからぬように避妊をして子供は作らなかった。何故なら、我がリリースリー家の高貴な血に伯爵家なんぞの血を混ぜたくはなかったからだ。

 

 そして結婚して五年後、子供が出来なかった事を理由に妻とは離婚した。マリエッタが十五歳になり、そろそろ結婚適齢期になってきた為に、私も独り身になっておいた方が良いだろうと考えたからだ。

 

 ところがだ。彼女は相変わらず私の側へは近づかない。偶然出会えば素晴らしいカーテシーは返してくれるが、いくら話しかけようとしても避けられてばかりいた。

 

 いくら親に言いくるめられていたとしても、さすがに腹が立ってきた頃、私は思いもよらない噂を耳にした。マリエッタに恋人が出来たというのだ。

 

 まさか、そんな訳はない。

 このリリースリー家嫡男があの手この手でアプローチしても振り向かないあの令嬢が、私以外の男を相手にする筈がない。

 

 ところが家の者に調べさせてみると、マリエッタは教会で知り合った地方出身の男爵と、仲睦まじく奉仕活動をしているというではないか!

 

 私とは話さえしようとしないのに、男爵ごときと談笑しているだと! 私はそれを聞いて腸が煮えくり返った。そして可愛さ余って憎さ百倍とばかりに、マリエッタに対する憎しみが日毎に大きくなっていった。

 そして彼女に目にもの見せてやると思い始めた頃、意外な人物から思いがけない話を持ちかけられた。

 

 それは我が家と敵対しているローゼン公爵からの結婚話だった。彼は娘のマリエッタが親の言う事をきかない事に困り果てていた。彼女は見かけ通り天使のように自由奔放な少女らしい。

 私には理解できないが、彼女は貴族も平民も区別していないらしい。地位などには全く興味が無いらしい。そうか、それなら私がきちんと調教してやろう、と思った。貴族なら貴族としての誇りを持つべきなのだから。

 私はローゼン公爵からの婚約の申し込みを受けた。

 

 しかし、私がそれを承諾した事を知っている者はいない。何故なら、私が婚約証明書にサインをしたその日に、彼女は姿を消したのだから・・・

 

 ローゼン公爵は保身の為にマリエッタは重い病にかかって北の領地で療養生活をしていると、デマを流した。そしてその二年後、回復しないまま、二十歳になる前に亡くなったと。美人薄命を地でいったマリエッタへ、世間の同情は集まった。

 

 ふざけるな!

 

 私は腹立たしさで、頭がおかしくなりそうだった。何が美人薄命だ! 何がお気の毒だ! 貴族の立場や役目を放棄して男と駆け落ちした、ただの淫乱女ではないか!

 

 ローゼン家とマリエッタ、そしてその駆け落ちした男に復讐してやる!

 私を蔑ろにした事を死ぬ程後悔させてやる! そう私は誓った。

 

 妻とは離縁した。マリエッタもいなくなった。早く次の結婚相手を見つけなければならない。

 私は執事に、公爵家、侯爵家、後はとりあえず辺境伯も不本意ながら加え、そこから私に釣り合いそうな令嬢をリストアップさせた。そして数名の令嬢の家に打診した。

 

 ところがだ。打診した家の全てから丁重な断りの手紙を受け取った。その内容は、リリースリー公爵家と我が家ではとても釣り合いが取れません。娘も公爵家夫人になれる器ではありません、という、自分達を下げ、恐れ多いのでご辞退します、という体をなしていた。

 しかし、一人二人ではなく、打診した家から全て断られるなんて、尋常ではない。とは言え、さすがに腹を立てているばかりでは埒が明かないので、影の者を使って調べさせた。

 

 そして、その報告を受けて、私は計り知れないダメージを受けた。なんと、私の評判がかなり悪かったのである。特にご令嬢からの。

 最初私はそれを信じる事が出来なかった。私は自分が何故これ程までに疎まれているのかと、執事に詰め寄った。暫く執事は無言であったが、やがて彼は覚悟を決めたようにこう言った。

 

「旦那様は血統だけを重視し、人間そのものの価値を認めていらっしゃいません。人として、相手を思いやる心、優しさがございません。そんな方と生涯を共になさりたいと思う女性はいらっしゃいません」

 

「なんだと!」

 

「世間様は皆、旦那様が妹君のエレン様や、最初の奥様になさった、非人道的行為を知っていらっしゃいます。ローゼン公爵家のマリエッタ様が旦那様から逃げ回っていたのもそのせいです。

 高位貴族のご令嬢でこちらに嫁いでこようなどという奇特なご令嬢は、まずいらっしゃらないでしょう。お金に困っている下位貴族か平民のご令嬢くらいしか、もはや旦那様にはお相手は見つからないと思います!」

 

 こう言われた瞬間、私の頭は激しい怒りで煮えたぎり、訳がわからなくなった。ドサッという音で我に返ると、執事が血飛沫を飛ばしながら倒れていた。そして、私の頭や顔からも真っ赤な液体が滴り落ちていた。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 私は幼い頃から冷酷な男だった。それが生まれ持ったもののせいなのか、それとも育ちのせいなのかはわからないが。しかしそれでも、昔はまだ私は人間だったと思う。

 

 しかし、善良なあの執事を切り捨てた瞬間から、私は人ではなくなった気がする。

 もしそうでなかったら、王妃を脅すという卑怯な手段を使って、十五も離れた王女と無理やり結婚したり、幼い少女から両親を無惨に奪ったり、王妃が黒幕と思わせて教会に火を放って、聖女を焼き殺したり出来る筈がないのだから・・

 

 それでもエリザベート王女と婚約してからは、彼女が十五になって結婚式をあげるまで、表沙汰になりそうな事はせず、陰で人を使って悪事を働いていた。まあ悪事と言っても、憂さ晴らし程度の些細な事だったが。例えば、私からの結婚の打診を断ってきた家や娘への嫌がらせとか・・・

 

 そんな一見するとまともになりかけていた私の、内なる悪魔が再び表に出てきたのは、本当に偶然の事だった。

 

 十八年程前、当時、私は王女エリザベートと結婚し、自分に瓜二つの娘のシャルロッテも生まれていて、全てが上手くいっていた。なんの不満もなかった。

 

 そんなある日、私はある商売相手の侯爵の招待で、北の国境近くの町へと出かけた。そしてそこの屋敷に招待された客数名とで、町の酒場へと繰り出した。

 私は市井のそういう安酒場などへはそれまで行った事がなかったし、行きたくもなかった。しかし相手は私より十以上離れた年配者ばかりで、さすがに断る事が出来なかった。

 

「人生なんでも経験が大事なんだよ。貴族様だと偉ぶって市井を全く知らないでいては、到底商売など上手くやれないよ!」

 

 もっともだと思った。

 我がリリースリー家の商売はトントンの状態だった。それに比べて、ライバルのローゼン家の方は順調に業績を伸ばしていた。現公爵が自分の実績を自慢しているが、あの男は私と同じタイプの人間だ。そんな商才がある筈はない。嫡男シャルドネの功績である事は誰が見ても明らかだ。

 

 あの男は才色兼備と評判で、容姿だけでなく、庶民派のところも姉によく似ていると言われている。

 しかし温和そうな雰囲気は見かけだけだという事に、大分前から私は気付いている。

 彼はあまあまの理想主義者だった姉とは違って、かなりしたたかな男だ。

 

 あの男に対抗する為には、もっと市井に出て庶民を知らねばならない、ちょうどその頃の私はそう思っていた。しかし、それが私の人生を破滅へと追い込む事になるとは、全く思いもしなかった。

 

 とある酒場で私達は、最初のうちは商売の事を話し合っていた。しかし、酔いが回ってくると、彼らの話はご多分に漏れず、女性に関する事になっていった。

 

 そしてなんと彼らは、私がこの店にいる女性を口説けるかどうかで賭けを始めてしまった。私はこんな田舎の場末の酒場にいる女と関係を持つなんて、冗談ではないと席を立とうとした。すると、彼らのうちの一人からこう馬鹿にされた。

 

「地位と権力をちらつかせて、従順な女を力まかせに言う事をきかせるしか能のない男って、本当に情けないよな。

 本来魅力のある男というのは、簡単に自由にならない気まぐれな女を、自分に振り向かせる事が出来る奴をいうのに」

 

 私はカチン!ときた。まるで私自身にはなんの魅力もない男だと言われた気がしたのだ。よし、私がいかに魅力のあるもてる男なのかを、こいつらに見せつけてやる!

 

 多分飲み慣れない安酒に酷く酔って、まともな判断能力がなくなっていたのだろう。

 朝目が覚めると、私は裸で酒場の雇われ女主とベッドの中にいた。二日酔いなのか、それとも下賤な女と関係を持ってしまった嫌悪感からなのか、私は酷い吐き気をもよおした。しかし、死ぬ気でそれを堪えながら衣服を身に着け、いくらかの金をサイドテーブルの上に置いて、女を起こさないように細心の注意を払って、その部屋を後にした。

 

 それからふた月程経った頃、私は王都にあるレストランで、偶然に例の酒場で一緒に酒を飲んだ伯爵と出会った。せっかく会ったのだからと一緒にランチしながら商売の話をしていた時だった。

 

 何気ない話の流れで、ふと北の国境近くの町の酒場の女主の話題が出た。なんと、あの女が妊娠したのだが、本人も誰が父親がわからなくて困っているのだという。

 

 まさか・・・と冷や汗が流れた。母親自身がお腹の子の父親がわからないと言っているのだから、相当の人数の男と関係を持っていたのだろう。私の子供の筈がない。そう思いながらも、その事が気になってたまらなくなった。

 

 余計な事はしない方がいいとわかっていながら、私は再びあの町へ向かった。そしてその時、その街中で、私はついにあの憎い女を見つけてしまった。

 

 私をコケにして駆け落ちしたマリエッタが、その駆け落ち相手の夫と娘と一緒に歩いていたのだ。それはそれは幸せそうな顔をして。その笑顔を見た時、私の中の悪魔が顔を出したのだった。

 

読んで下さってありがとうございます。

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