天才王子とおりがみ 12
次の日、今日は、珍しく僕はヘレン邸には行かない。
その代わり、逆にローズが城に来てくれる約束になっている。
…フィンセントも一緒に、だが。
「さ、坊ちゃん。お着替えを」
僕の事を坊ちゃんなんて呼ぶのは1人しかいない。
…いや、先にも後にも1人しかいない。
ハウススチュワートであるエヴァンだ。
凛々しい顔と赤い髪と瞳が良く合っており、メイドからも随分と人気がある。
エヴァンも魔力持ち…と言うか、フィンセントにあげた魔力制御アクセサリーを作ったのは彼、エヴァンである。
エヴァンは、精密な魔力制御に長けており、実用的なものから、護衛に必要な高度な術まで、難なく熟す。
「…うーん。やっぱり坊ちゃんに黄色は似合いませんね…青にしましょうか」
「…ああ」
分かってるなら着せるな!
僕は、何回も着せ替えられて山になった服を見て思う。
女子ではないのだけら、こんなに着せ替えられて遊ばれる要素はないと思うのだが。
「いえいえ! 坊ちゃんはお綺麗ですから。私も着替えさせがいがあります」
そう伝えると返って来たのがこれ。
僕は女ではないのだから、綺麗と言われても嬉しくはない。
…というか、男に言われても気色悪いだけなんだが。
結局、青と紺のストライプ柄のブレザーに、薄い水色のシャツ、白と黒のボーダーのネクタイになった。
…エヴァンにしては珍しく無難だ。
「…珍しいな」
「?…ああ、服のことですか。流石に婚約者であるロゼッタ様が来られるのに、私の趣味で着替えさせてしまうのはいささか…あれですので」
「なら、いつもしないと言う選択をすればいい。いや、むしろしろ」
「それは無理でございます♪」
……顔が美丈夫だから、女の真似をしても別に大丈夫って言うのが逆に気持ち悪い。
エヴァンは、首をこてんと傾げ、上目遣い…といっても頭一つ分ほどエヴァンの方が慎重が高いので上目遣いと言えるのかは微妙だが…をして、僕を見つめて来た。
…やめろ。切実に。
「はぁ、支度は終わっただろう? エヴァン、行くぞ」
「…御意に」
そうして、待ち合わせの場であるサロンに来たのはいいのだが…。
エヴァンとヘーレーはいつものことなのだが、オーウェンまで連れていると、なんだかバランスが合わない。
護衛のためにオーウェンを連れて来たのだが、と言うか別に、ローズと会うのに護衛がいるのか?という疑問を飲み込んで、代わりに溜息を吐き出した。
「わー、でんかー、おひさしぶりです」
「フィンセント…殿下、ご機嫌よう」
そうこうしているうちにローズ達が到着したらしい。
「ああ、ロゼッタ嬢にフィンセント、座ってくれ」
「「ありがとうございます」」
ローズは僕の左側に、フィンセントはその隣に座る。
この並びだと、なんだか、父と母…王と皇后が座る玉座に似ている気がする。
いや、まぁ、きがするだけなのだが。
ヘーレーが運んで来た紅茶が僕らの前に置かれる。
ケーキと、今日はジャスミンティーらしい。
「それで、ディック、銀行などはどうなったのでございますか?」
さっと砕けた口調になって、ローズが聞いてきた。
余程気になっていたのだな…。
「ああ、今父に目を通してもらっている。明日には結果が出るだろう。…僕の父も愚王では無い。まぁ、賢王とも思わないが……この国の未来に繋がる答えを出してくれるだろう」
「ふふ、ディック。貴方の聡明さに比べればすべてのものが愚と化してしまいますわ」
「…ローズ、流石にそれは僕も気恥ずかしいのだが」
「あら、ごめんなさい。ディック」
ローズも随分と柔らかく話してくれるようになったな。
初めはディックと呼びながらも敬語だったり謙遜だったり…ああ、あの時のローズも美しかったがな。
「でんかたちはなんのおはなしをしているのですか?」
「ああ、フィンセントごめんなさいね。話の内容が難しすぎたわね」
…いや、流石にそうだろう。
僕もこの内容を僅か7歳のフィンセントに理解されたら流石に凹むのだが。
「そうね…面白いこと…そうだわ。マリン私の作った『おりがみ』を持ってきてくれない?」
「あ、あれだよね。おってかたちつくるやつでしょ、」
「ええ、あれですね〜」
「馬車にあると思うから、…取ってきてもらってもいいかしら」
「わかりました〜、行ってまいります〜」
「まりんー、ありがとー」
…これは聞いていいものなのか?
『おりがみ』って何?…って。