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親父が魔法少女で俺まで巻き込まれた件  作者: フジオ
紅の魔法少女篇
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魔法少女の弟子


 俺はエイダに引き連れられていた。


 魔法の力で生み出されたらしい、見えない足場を歩いて進む。空中はどこか心地よい物で、流れる雲と、人の群をぼんやりと眺める。


「いやぁ~似合ってますよぉ~?」

 ニヤニヤ笑いを辞めずにエイダは言う。その言葉を受け、とっさに腹部を隠す。その様が、面白いのだろう、またエイダは笑う。


「うるせぇ!!」

 叫んだのは朱髪の女――そう認識する、されるだろうよ。

 脳裏に投影される、一カメの映像。「物語の世界から抜け出した」そんな歯の浮く様な形容が似合う顔付き、化粧による物としても、かわいらしい。メイド服を思わせる装束を綺麗に着飾るその人。髪と眼と同じように顔を紅く染め、言葉に怒りを込めている。


「いやぁ、本当お綺麗ですねぇ、集人さん」

 その朱髪の少女にしか見えない、レッドフレームのメガネを付けたこの者こそが俺、折井 集人その人であった。


 エイダが言うには魔法の力に依る整形や体格変更は為されていないらしい。だからこそ、恥ずかしい。怒りにも震える。


「お顔もそうですが、お腹も綺麗ですねぇ、てっきり割れてるとか、ギャランドゥだので汚い感じかと思ったんですがねぇ~」

 そう言い、俺の手を撥ね退け、腹を撫でる。柔らかに、優しく《やらしく》。


「遺伝だよ! 遺伝! あの親父見ればわかるだろ!」

「脚もお綺麗で、ハイヒールがここまで似合う男性初めて見ましたよ……」


「う、うるさい! もう黙ってろ! 目的地はまだかよ!」

 そう言い、俺はスカートを無理矢理に引っ張り、脚を隠そうとする。が、裾の長さからそんな事が出来る筈も無く、バランスを崩すだけ。


「まぁ、適当に雲を数えたり、人を数えたり、天井の染みを数えていれば着きますよ」

 そんなものか。エイダの言葉を受け、言われた通り人混みを眺める。そうでもしていなければ、自分の今の姿に絶望し正気を保てないであろうと言う確信があった。


「しかし、ずいぶんとゆっくりしてるなぁ」

「気がつきましたか」

 エイダは口を挿む。そんな彼女にまた嫌な物を感じながらも尋ねる。


「『気がつきましたか』? どう言う事だ?」

「ゆっくりだと思ったのでしょう? 御明察、と言う奴ですね」

 足元を指差し、語りを始めるエイダ。


「今私たちは『第一次魔法少女速度』で行動しています」

「はっ? ……第一……あ? なんだって?」

 日常生活では決して用いない日本語を持ちだされては、オウム返ししか出来ない。


「『第一次魔法少女速度』。そうですね、時速で言うと四百五十~六百km、すなわち音速ですね」

「え? まって俺達ってそんな速度で動いてるの?」

 そんな感覚は一切無い。驚く俺に指を一本ピンと立て、舌打ちと共に左右に振るエイダ。その態度苛立ちを覚える。


「私達の作り出した別の次元と、この次元を融合させるんです。そうしてN次元とでも呼ぶべき次元を疑似的に作成する事で、通常から見ればおよそ四十五万倍の速度で動いている様に見えるんですよ」

 そうして胸を張るエイダ。なかなか肉付きが良いため、その胸部を強調する形になる。


「でもさ、普通は時間の方をカウントしねぇ?」

「ん? どう言う事ですか?」

「通常の四十五万倍速とか言えばいいのに、何だって単位がkm/hなの? おかしくね?」


「……んー」

 エイダはそれを受け、ぼんやりとした返答をする。

「あ、ちなみに、時速十億八千万kmが『第二次魔法少女速度』です」

 話を逸らす事に決めたようだ。


「無視かよ。って、約時速十一億……? 光の早さだったか?」

 第二次でそれなら、第三次はどうなる事かと考える。


「っとあれ? 音速って340m/sだよな、えーっと、360掛けると……」

「さぁ、見えてきましたよ」

 またも無視を決め込むエイダ。そんな態度にもだんだんと慣れてきた。


 エイダが歩みを止める。そこは石切り場だった。この様な場所、俺の住む近辺では見た事が無い。そんな距離まで、近所のコンビニへ向かう様な足取りでたどり着いたのか。


 『第一次魔法少女速度』の有用性と、四十五万倍は流石に言い過ぎなのでは無いか、と言う思いが湧いてくる。


「あれが、貴方の、私達の敵『The END』です」

 そうして、エイダの指差す先に見える、黒い影。揺らめき、定型を持たぬその存在。前回の『何か』を思い出した。


《気が付いたようですね、アレこそ『The END』、世界を、次元を終わらせる者です》

 エイダは続ける。

「『The Enemy from a Non-Dimension』奴らは名の通り、次元外からの敵です」

「次元外……? アイツらもお前らの演出とか、その手の奴じゃないのか?」

 驚きつつ尋ねる。先までの物言いであれば、敵も身内かと思っていた。


「違います。奴らは一種の自然現象。今の次元から、一つ上の次元へ浸食し、その次元も『零』へと変える。世界を終わらせる現象です」

「はぁ……」

 そうは言われても良く分からないと言うのが感想だ。

 そんな俺の返答に不満があるのだろうか、エイダは言う。


「別に敵が何であっても関係ないです。とりあえず倒してさえいただければ、こちらとしても問題はないんで」

「シューティングだとかの敵と同じで良いってことか」

「貴方の仰せられる意味が良く分かりませんが、Search & Destroyと同意の言葉であれば、それは肯定です」


 エイダは苦虫を噛み潰したような表情で『The END』を睨みつける。何があったんだ?


「で、なんだ? 戦うのか?」

「ええ、お試しなので、危険になれば逃げてくださっても結構です。折角なのでその魔法少女の力と言う物を体感して頂ければ」


「『少女』じゃぁない……」

 だが、超常の力がぽんと降って来たと言われれば、正直興奮を覚える。


「まぁ、こんな服装じゃ無ければな……」

 溜息を吐きながら、軽く体を伸ばし、準備をする。


「さて、行ってらっしゃいませ」

 その準備が終わる頃合いを見計らい、エイダは先までの足場を崩す。

「うぉおぉぉおおおおおお!?」

 まるで睡眠中に脚を踏み外したかのような、恐ろしさと落ちる感覚。落下怖い!


 落下、落下、落下。


「うわぁああああああ!!!!」

 叫びと共に、地面との接触。爆音を鳴り響かせながら、土煙を上げる。そこには一人の魔法少女が立っていた。というか、俺が立っていた。


「た、助かった……?」

 膝をつけ、手を地面に、スーパーヒーロー着地の姿勢を取り、安堵していた。何せ衝撃が殆ど無いのだ。


《安心してください、今回の件でどうのこうのと言うつもりはありません》

 脳裏に響く声。エイダの優しい言葉が俺に向けられる。なるほど、つまりは魔法の力か……。


「これはテメェの所為じゃねぇか!?」

《今回の件については、私に助けてもらった、それだけを覚えて頂ければ結構です。お返しや、お礼なんて必要ないですよ~?》

 ニタニタと言うエイダの笑いが脳裏に鮮明に描かれる。


「Shit!」

《縺翫・繧医≧縺斐*縺・∪縺吶》


 俺の呟きに答えるように、『The END』が吠える。


――さぁ、戦いだ。


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