無斬
かくして、広がる空。地球が戦場だ、って感じ。
「――むン?」
降り注ぐ瓦礫と下着の雨を受けながら、わからないと言った表情で首をかしげる赤い靴の女。
こちらも同じように受けているが、さすが剣姫騎士だ、何ともないぜ!
むしろ、下着であったりが触れる方が色々な意味できつい。
「ャはり、面倒でスね貴方のォ相手は」
そう言い、困ったように笑う彼女。
「俺も面倒だよ。アンタみたいなヤベーと戦わなくちゃいけない、なんてさ」
そう言い、構える。例え相手との力量差があろうとも、俺の取れる構は一つ。
――蜻蛉の構。
元よりこれは死ぬか、生きるかの構。
故に、示現流の掛け声はチェスト。知恵を捨てよと言うのだ。
戦場においては、一瞬の差が生死を分かつ。考える時間すらも惜しい。
俺は構を作り、大きく息を吸う。
剣姫騎士と化すことで別人のように変わる自らの身体能力。肺活量に関してもそうらしく、自分ですら驚くほど深い呼吸。
吸い込み、吸い込み、止める。もう吸いもしない、吐きもしない。
見に徹する。相手の呼吸を読み、その動きを読む。
――深い集中。
理解できる。相手は呼吸をしていない。俺と同じ集中――の為ではない。恐らく、不要なのだ。
呼吸、ナシ。心拍、ナシ。気配のたぐいは無く。殺意も無い。
こうして対峙してなお、戦う意思の様なものが読めない。
ゆえに、見るしかない。
本当に、小さな指の動き。それに合わせる様に瓦礫が飛び、俺を襲う。
しかし、それらは両肩の位置に付いた巨大な肩当、日本の鎧でいうところの大袖が往なしてくれた。
「ォや、おャ。その位じゃだめデすヵ」
何とかお返しをしてやりたいものだ。そんな、俺の意思を汲み、大袖の先が手の様に分れると周囲の瓦礫を掴み、投げる。
ありがとう、ナギ。おかげで随分とやりやすい。
「三倍返しでスゥか、頼んじャイマせンがねぇ!!」
大袖の先、サブアームで岩を投げながら、ゆっくりと近づく。
相手の動きは早く、大きい。避ける動作で俺の真横まで回り込まれるほどだ。それでも”見る”ことでそれを逃さぬように、そして遠距離からの投石を止めぬように対峙する。
動きを読むのは不可能に近い以上、こうして、後手後手になりつつも待つしかない。
勝利条件が違う。俺の勝利条件は、被害者を出来る限り出さずに、三分待つこと。
どれほど続けただろうか、赤い靴の減らず口と、足が止まる――来た!
増援ではない、”あの攻撃”だ。何故かはわからないが、掛かる力を消し去る異能。
指の動きで小さな対象には使えるようだ。しかし、人に向けて使う際、極度の集中を要する。
それを今までの僅かな戦いの中で見出した。
赤い靴は能力を使う際、決して口を開かない。
アイツが口を開くのは、能力を使ってからだ。使う前は静かに黙る。むしろ、黙っても不自然じゃない様に軽口を吐き、こちらの言葉を引き出しているのかもしれない。
こうして俺が言葉を返さなければ、突然黙りこくる事になるのだから。
初めて、赤い靴の意思らしい意思が俺に向かう。俺は、それに合わせる様に《1→4=1》を――
ナギを地に突き刺し、何かを手にしようと、虚空を掴む。
――俺は今何をしようとした?
吹き飛ばされる身体。全身が四方八方へと引きちぎられるように痛む。
ナギを手放したばかりに、逆位相の力を掛けることが出来なかった。受けるダメージが前回の比ではない。
視界が高速回転し、血涙が流れる。地に落ち、三半規管が自らの在り様を理解して少しばかりしてから視界が開けた。
「ィやぁ、何してるンですヵ?」
ニタニタ笑いの赤い靴の顔が一面に広がる。
地に付した俺の頭を片手で掴み、起き上がらせくれている。自らも地面に寝ころび俺と顔の高さを合わせているようだ。
むかつくぜ。込み上げる血を彼女の顔に向けて吐き出す。内蔵のダメージが一番デカい。
それを受け、更に笑みを深める赤い靴。
「コレだけ、実力にサがァるンですョ?」
「だからどうした」
強がりで返す。笑顔がさらに深くなる。
「なノに、その態度」
「それがどうした」
死にそうだからか? 背筋が凍るような感覚。ヤバいと感じている。
「スゴぃ、気に入ッてシまィました」
「何が、何とやら……」
仮面の無い、彼女の顔は紅く染まり、蕩ける様な表情を浮かべる。
冗談や、見せかけではない。本当に、恋する少女の顔だ。
俺を殺そうとした奴が、俺に女の顔を見せている。
本当に、ヤベーなコイツ。




