女装ブラック
――何故、こんな事になっているのだろうか。
これは、二回目のモノローグ。
周囲に居るのは女性だけ。甘ったるい香りが充満する。
「にぃ、何故言わなかったの?」
これも二度目。しかしながら、意味合いは大きく異なる。
ナギがメニューを置き、俺に訊く。
「恥かしいからですよ」
三度目の、二度目。ケタケタと笑うエイダの言葉。
答えたくない、視線をズラし――ガラスに自らが映る。
黒い長髪。黒い瞳。その黒は鮮明で、力強い。毛先、偽物の黒色がどこか浮いて見える。鮮やかなその肌は、更にメイクにより彩られる。見違えるようだ。
肌、特に首と言う首を隠す服装。ゴシック寄りの黒い洋服。まるで、人形のように見える。
なんて、可愛らしい姿だろうか。
――自らの姿だと言うのに。
俺たちは今、パンケーキ屋に来ていた。
家近くの繁華街。その中にあった店だ。俺が何か喰うとなると、m字のハンバーガー屋に向かうのだが、ナギやエイダは良くこういう店を知ってるもんだ。
まぁ、食欲が無いので、コーヒーを一つ指さして頼んだだけ。
それを片手に、パンケーキを食べる二人を見る。
本当にはやく帰りたい。
「ところでナギさん、”にぃ”はダメですよ」
エイダがフォークをナギに向けながら言う。行儀が悪いぞお前。
「ん、失敗。何か考える」
頬にクリームを付けながらナギが答える。
俺はその頬を拭いてやると、満足げにナギはまた一口。
「むぅ……」
「んだよ」
唸り声のエイダ。わざとらしく大きな口でケーキを頬張る。
「ん、ん、ん」
「何だよ……」
そうしてケーキを飲み込むと、何かを求めて声を上げる。が、何だよお前は。
「しゅうちゃん、拭いてあげて」
「はぁ?」
なんで俺が拭いてやんなきゃいけねぇんだ。しかもしゅうちゃん呼びは何のつもりだ。
「お兄ちゃんは欲しいけど、お姉ちゃんは要らない。妹の方が欲しい」
「だから、”しゅうちゃん”?」
しぶしぶエイダの口を拭きながら訊く。俺の質問には満足げに頷くことで答えるナギ。
「お姉さんを、敬うこと」
「まぁ、そうだな」
実年齢はトンデモねぇお姉さんだもんな。そんな事を考えているとナギの瞳が鋭く輝く。
「悪かった、謝る」
しかしながら、居心地が悪い。溜息と共に外を見る。
そうして、今更に気が付くが、外を歩く人々と妙に目が合う気がする。
「まぁ、見た目が良いですからねぇ、しゅうちゃん」
「同感、美人さん」
目が合うのはソレのせいだって言うのか。
というか、外見たほうが顔見られるじゃねぇか。
それに気が付き、視線を二人に合わせようとし――外に居る一人と目が合う。
黒いナイフのような瞳。濡羽色の長髪。俺を見て、ハッとした表情をしたその美少女。
血相を変え、急ぎ足で、建物に入る彼女を、俺は知っている。
「シュートそういうのは私とするって約束だろう!?」
肩で息をしながらも、声を上げる彼女――六花が俺を恨めしそうに睨む。
最悪だ……。




