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親父が魔法少女で俺まで巻き込まれた件  作者: フジオ
蒼の剣姫巫女篇
55/63

女装ブラック



――何故、こんな事になっているのだろうか。

 これは、二回目のモノローグ。


 周囲に居るのは女性だけ。甘ったるい香りが充満する。


「にぃ、何故言わなかったの?」

 これも二度目。しかしながら、意味合いは大きく異なる。


 ナギがメニューを置き、俺に訊く。


「恥かしいからですよ」

 三度目の、二度目(・・・)。ケタケタと笑うエイダの言葉。


 答えたくない、視線をズラし――ガラスに自らが映る。


 黒い長髪。黒い瞳。その黒は鮮明で、力強い。毛先、偽物の黒色(ウィッグ)がどこか浮いて見える。鮮やかなその肌は、更にメイクにより彩られる。見違えるようだ。


 肌、特に首と言う首を隠す服装。ゴシック寄りの黒い洋服。まるで、人形のように見える。


 なんて、可愛らしい姿だろうか。


――自らの姿だと言うのに。



 俺たちは今、パンケーキ屋に来ていた。

 家近くの繁華街。その中にあった店だ。俺が何か喰うとなると、m字のハンバーガー屋に向かうのだが、ナギやエイダは良くこういう店を知ってるもんだ。


 まぁ、食欲が無いので、コーヒーを一つ指さして頼んだだけ。


 それを片手に、パンケーキを食べる二人を見る。


 本当にはやく帰りたい。


「ところでナギさん、”にぃ”はダメですよ」

 エイダがフォークをナギに向けながら言う。行儀が悪いぞお前。


「ん、失敗。何か考える」

 頬にクリームを付けながらナギが答える。

 俺はその頬を拭いてやると、満足げにナギはまた一口。


「むぅ……」

「んだよ」

 唸り声のエイダ。わざとらしく大きな口でケーキを頬張る。


「ん、ん、ん」

「何だよ……」

 そうしてケーキを飲み込むと、何かを求めて声を上げる。が、何だよお前は。



「しゅうちゃん、拭いてあげて」

「はぁ?」

 なんで俺が拭いてやんなきゃいけねぇんだ。しかもしゅうちゃん呼びは何のつもりだ。


「お兄ちゃんは欲しいけど、お姉ちゃんは要らない。妹の方が欲しい」

「だから、”しゅうちゃん”?」

 しぶしぶエイダの口を拭きながら訊く。俺の質問には満足げに頷くことで答えるナギ。


「お姉さんを、敬うこと」

「まぁ、そうだな」

 実年齢はトンデモねぇお姉さんだもんな。そんな事を考えているとナギの瞳が鋭く輝く。


「悪かった、謝る」


 しかしながら、居心地が悪い。溜息と共に外を見る。

 そうして、今更に気が付くが、外を歩く人々と妙に目が合う気がする。


「まぁ、見た目が良いですからねぇ、しゅうちゃん」

「同感、美人さん」


 目が合うのはソレのせいだって言うのか。

 というか、外見たほうが顔見られるじゃねぇか。


 それに気が付き、視線を二人に合わせようとし――外に居る一人と目が合う。


 黒いナイフのような瞳。濡羽色の長髪。俺を見て、ハッとした表情をしたその美少女。

 血相を変え、急ぎ足で、建物に入る彼女を、俺は知っている。



「シュートそういうのは私とするって約束だろう!?」

 肩で息をしながらも、声を上げる彼女――六花が俺を恨めしそうに睨む。


 最悪だ……。


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