BREACH
「いただきます」
一家の声が揃う。
家族会議はお流れとなり、俺たちはケーキを堪能する事となった。
シンプルなイチゴのショートケーキ、どうも有名らしいチーズケーキに、ティラミス、ミルフィーユ、タルトだなんだと、知識の薄い俺には名前もわからないようなケーキが山盛り。そのうえ、もう数箱がアキラの個人用として隠してあるのを俺は見つけている。
いや、良いよ、そんな申し訳なさそうに隠さなくても。そんな量俺たち食えないし。
さて、名前もわからぬケーキ群だが、選んだのは甘い物には目の無いアキラ。そんなアキラが用意したものだ、それはもう満足のいく、美味いケーキだと言うのは分っている。
が、まぁわかりやすいチョコケーキを一口。
《おぉ……集人さん、このケーキは、いい物ですねぇ!》
確かにこれは美味い。かなり手が込んでいるのだろう。だが、お前は食べてもいないだろ……。
《契約していますからね。感覚を統合する、つまりは同じように味わう事ができるのですよ!》
それって、なんか、いやだな。自分の感覚が全部理解されるってなんか気持ち悪くない?
《「ん」だの「あれ」だのの一言で分りますよ、ツーカーです!》
声色から、俺の見えないところでドヤ顔してるのが見えるわ。
「……ん」
「ああ、悪い」
ナギ様は俺が妙なのと話すのはお気に召さないらしい。俺としても話す気はないので、もう良いだろう。
《んもーーーっ!!》
うっせぇ!!
ともあれ、俺は静かにケーキを一口。やはり美味い。が――
「うん、これならできそうっ!」
――だろうな。
アキラが外で何かしらを買ってくる事は珍しい。と、言うのも自前で作ってしまうからだ。
こうして買ってくるというのは、レパートリーを増やすだとか、もっと上手く作る参考にするだとか、そういう事だ。
「明日には更に美味しいケーキが頂けるようだな」
サヨコさんが言う。才能があるんだろうな、アキラは。
「大変なんだよっ! おいしいケーキを作るって! すぐには出来ないよっ!」
アキラが少し怒り気味で答える。
作った職人を思ってのセリフだろうが、少なくとも三日あれば間違いなくこれに並ぶだろう、あんた。
まぁ、そういうところも含めて、笑い話として処理される。俺とナギも笑いながらケーキを食べる。
そうして、家族の団欒が続く……はずだった。
ナギがピクリと震え、部屋の片隅を見る。いや、その方角の先を見ている?
それを確認したサヨコ。彼女の携帯が鳴る。いや、鳴らした。
「すまない、少し席を外す」
《――えっ!? 現在地から北北西に二十キロ!?》
エイダの声が脳裏に響く。北北西?
もしやと思い、携帯のコンパス機能を働かせ――ビンゴ。ナギの見ていた先とは、つまり。
「にぃ、行こ?」
《『The END』です!》
大したもんだな、剣ってのは。
俺は、ここを出ていくのに、どう言い訳をしたものかと考えた。




