我慢乱 〜TAMARAN〜
嘘をつきました。
「にぃ、似合ってる」
「そうかよ」
力なく答える。
その手に握るは、黒い刃。身の丈をゆうに超えるほどの直刀。その刀身は光を喰らい、今か今かと血を望み吠えたける。
その身に纏うは、蒼き鎧。金の縁取りをされた甲冑は余りに巨大。その装甲は光を放ち、きらめく姿は燦々と。
それが全身鎧であれば胸を張り、肩で風を切り、戦いに臨んだであろう。
――またこんな格好か!
装甲は肩や四肢の先、腰回り、胸元には存在するが、基本的にはほぼ無防備。ビキニアーマーに比べれば防護は高いが、何の気休めにもならない。頭は王冠を乗せただけで、完全に防御を捨てている。フリルの多い、ドレスのような服装は異様な程に短いミニスカ、肩周りはノースリーブ。どうかしている。
本当に、姫騎士の格好だ。髪も伸び、その色が青く変わって居る。見ろよ、風になびくとキラキラして見えるぜ。
呪われてんのか俺は。
《……心中お察しします》
黙れ、頼むから。
しかし、肥大化した装甲が無防備な部位を隠しており、弓矢などには強そうだ。また、巨大な肩当は背中から伸びており、ノースリーブなのもあって肩周りは自由であるし、巨大な籠手やすね当ても重さを感じない。動きやすさはかなりの物だ。
「にぃ、はやくヤろ?」
横を見れば、どこかぼんやりとしたナギが浮いて居た。漫画とかアニメで合体したキャラが話す時とか、超能力のヴィジョンが浮いてる時みたいな映像表現だ。
手に握る刃は随分と大振りだが軽い。しかし、振るえば適度な重さを感じる、手に馴染む、程よい重さだ。
「……剣なんて使ったことねぇぞ」
見るからに日本刀では無い。直刀、無理に当てはめるなら苗刀が近いか?
何にせよ日常で使う物でもなく、訓練もしてない人間がおいそれと使えるものではないだろう。
「大丈夫、にぃが望めばナギは、答える」
ぐっ、とナギが親指を立てる。
目がぐるぐるで、顔は上気し赤く染まる。呼吸も荒く、浮ついた様子。何時もの眠たそうにしているナギとは思えない程の興奮具合だ。そんなに戦いたいのかお前は。
その熱に俺も浮かされたのか、無意識のうちに、刃を握る力が強くなる。
「んっ……。にぃ、ヤろ、早く、強く、ね?」
「そうだな」
構える。無意識のうちに、体が動く。
――蜻蛉の構。
なるほど、これなら剣の種類なんて関係ない。
両の手で刃を握り、右肩に合わせ、その手を顔の高さに。左足を一歩前へ進ませる。示現流に伝わる蜻蛉の構。その本質は――
大地を強く踏み込み、眼前に映る『穢れ』に向け自らの体を突き進ませる。
「チェェエエエエエエエスゥウトォオオオオオオオオオオオ!!!」
届く、その時に刃を振り下ろす。
――近づいて、叩きつける。
シンプル故に強い。
斬りつけた『穢れ』の死を確認することもせず、次の『穢れ』に向かい突き進む。コレだけの威力、重さ、生きているわけがない。
「もっと、もっとだ!」
「もっと、もっと、ヤろう! 全部、全部を!」
振り下ろす刃の重さ、風を斬るがゆえに、空気が弾け、周囲の家々が震え、ガラスがひび割れる。
いくらの敵を切り伏せたか、足元のアスファルトはひび割れ、砕けている。そうして出た残骸を一切無視し突き進むこの肉体。
強化されている。身体も軽く感じるが実際には異常なまでの重量。踏み込みの一歩で道路は砕け、マンホールの蓋を踏もうものならひしゃげてしまう。
気が付けば、周囲に『穢れ』の姿は無い。呼吸を落ち着ける。周囲はまるで廃墟のようで。
「シュウ、ナギ。何かいう事は?」
俺の目の前には、未だに変身を解いていないサヨコの姿が。
「俺、ヤっちゃった?」
「さよこ、ナギ楽しかった」
思い思いの言葉を話すと、サヨコが俺の頭を強く叩いた。糞痛い。横を見ればナギも頭を押さえて涙目になっている。
「加減しろ馬鹿者共め!」
サヨコさんはすごく怒っていた。




