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親父が魔法少女で俺まで巻き込まれた件  作者: フジオ
蒼の剣姫巫女篇
37/63

BAWLING BLADE


 自分の産まれた場所は、無数のバインダーラックと一台のコンピュータ-が置かれただけの殺風景な場所だった。


「で、だ。悪いが、テキストベースで何かないか?」

「……意外だ、誰が死んだ?」

「サヨコさん、わかんねぇんで話飛ばさないでゆっくり進めてくれ」


 何だってこの人は会話が壊滅的なんだ。頭を抱えながらも、俺は周囲のバインダーを手に取り、斜め読みを始める。

 が、情報は読み取れない。むしろ横文字がなく、専門知識を前提とした単語の組み合わせによる名称や、聞いた事も無い動詞、形容詞の数々。ちょっとは横文字を使ってくれよ。


「お前の事だ、馬鹿を言うなと切り捨てても仕方ないと思っていた」

「……そうだな」

 そうなる可能性は確かに高かった。そこまで読まれているとは。

――しかし、だ。今の俺は話を真剣に聞こうと考えている。完全に魔法少女の件(アキラとエイダ)理由(トラウマ)だ。


「だから、誰が死んだかって?」

「そうだ、覚えがあるのだろう?」

 ”穢れ”に、そうサヨコは言う。

「さっき見た、それで十分だろ?」

 正直には言いたくないんで、お茶を濁す。


 ため息とともに、サヨコさんがコンピューターの置かれた机を見る。そこから、ホチキスで簡単にまとめられた資料をナギが取り出し、俺に手渡してくれた。


「にぃ、コレ」

「ありがとう、ナギ……さん?」

「ナギで良い。確かに年齢はお姉さん、だけど私は家族で妹」

「そうか……」

 お姉さんって年じゃねぇだろ数千歳って。そうは思ったが黙っておく。


「……にぃは顔に出やすい。失礼だけど言わなかった所を誉めてあげる」

 むすっとした顔でナギが言う。鋭いんだよなコイツは。

「はい、ごめんなさい」

「さて、資料をめくって見てくれ」


 サヨコさんの言葉を聞き、資料のページを開く。

「見て貰えばわかると思うが、『穢れ』は――」

「――さよこ」

 二人が顔を見合わせる。よくよく耳を澄ませば、カタカタと何かが揺れる音がする――剣か?


「実技の方が先になるようだな」

「にぃ、行こう。初陣」

 ナギの赤い、紅い、鬼灯色の瞳がギラリと光る。どこか嬉しそうなその表情。喉の奥底から、カラカラと乾いた笑いが漏れていた。



 ピリピリとした空気が張り詰める、居心地の悪いエレベーター。

 サヨコの持つ剣、天之尾羽張は堪え切れないと吠えたける様に、叫びを上げる様にその刀身を揺らし、鳴き続ける。


「……剣にはわかるのだ、討つべき敵が」

 そう言い、サヨコは剣を強く握る。

「敵が、わかる」


 刃が震え、鳴き、叫ぶ。同様の事がナギにも起こっている、と言う事か。


「にぃ、にぃ、倒そ、やっちゃお、やっちゃお」

 ナギの呼吸が荒い。異常な興奮からかその顔が赤く染まる。何が理由かは知らないが、俺の手を強く握って放さない。


「にぃ、呼んで、呼んで、ナギを呼んで、殺そ、殺ソ」

 怖いんだけどこの()


 助けを求めようと、サヨコさんに視線を向ける。と、そっちはそっちで、眼が血走り、今にも飛び掛かりそうな、今すぐにでも戦えるような姿勢だ。


――エレベーターが出来るだけ早く、地上に到着しますように。


 それだけを祈りながら、俺は静かに、到着の時を待った。



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