BAWLING BLADE
自分の産まれた場所は、無数のバインダーラックと一台のコンピュータ-が置かれただけの殺風景な場所だった。
「で、だ。悪いが、テキストベースで何かないか?」
「……意外だ、誰が死んだ?」
「サヨコさん、わかんねぇんで話飛ばさないでゆっくり進めてくれ」
何だってこの人は会話が壊滅的なんだ。頭を抱えながらも、俺は周囲のバインダーを手に取り、斜め読みを始める。
が、情報は読み取れない。むしろ横文字がなく、専門知識を前提とした単語の組み合わせによる名称や、聞いた事も無い動詞、形容詞の数々。ちょっとは横文字を使ってくれよ。
「お前の事だ、馬鹿を言うなと切り捨てても仕方ないと思っていた」
「……そうだな」
そうなる可能性は確かに高かった。そこまで読まれているとは。
――しかし、だ。今の俺は話を真剣に聞こうと考えている。完全に魔法少女の件が理由だ。
「だから、誰が死んだかって?」
「そうだ、覚えがあるのだろう?」
”穢れ”に、そうサヨコは言う。
「さっき見た、それで十分だろ?」
正直には言いたくないんで、お茶を濁す。
ため息とともに、サヨコさんがコンピューターの置かれた机を見る。そこから、ホチキスで簡単にまとめられた資料をナギが取り出し、俺に手渡してくれた。
「にぃ、コレ」
「ありがとう、ナギ……さん?」
「ナギで良い。確かに年齢はお姉さん、だけど私は家族で妹」
「そうか……」
お姉さんって年じゃねぇだろ数千歳って。そうは思ったが黙っておく。
「……にぃは顔に出やすい。失礼だけど言わなかった所を誉めてあげる」
むすっとした顔でナギが言う。鋭いんだよなコイツは。
「はい、ごめんなさい」
「さて、資料をめくって見てくれ」
サヨコさんの言葉を聞き、資料のページを開く。
「見て貰えばわかると思うが、『穢れ』は――」
「――さよこ」
二人が顔を見合わせる。よくよく耳を澄ませば、カタカタと何かが揺れる音がする――剣か?
「実技の方が先になるようだな」
「にぃ、行こう。初陣」
ナギの赤い、紅い、鬼灯色の瞳がギラリと光る。どこか嬉しそうなその表情。喉の奥底から、カラカラと乾いた笑いが漏れていた。
ピリピリとした空気が張り詰める、居心地の悪いエレベーター。
サヨコの持つ剣、天之尾羽張は堪え切れないと吠えたける様に、叫びを上げる様にその刀身を揺らし、鳴き続ける。
「……剣にはわかるのだ、討つべき敵が」
そう言い、サヨコは剣を強く握る。
「敵が、わかる」
刃が震え、鳴き、叫ぶ。同様の事がナギにも起こっている、と言う事か。
「にぃ、にぃ、倒そ、やっちゃお、やっちゃお」
ナギの呼吸が荒い。異常な興奮からかその顔が赤く染まる。何が理由かは知らないが、俺の手を強く握って放さない。
「にぃ、呼んで、呼んで、ナギを呼んで、殺そ、殺ソ」
怖いんだけどこの妹。
助けを求めようと、サヨコさんに視線を向ける。と、そっちはそっちで、眼が血走り、今にも飛び掛かりそうな、今すぐにでも戦えるような姿勢だ。
――エレベーターが出来るだけ早く、地上に到着しますように。
それだけを祈りながら、俺は静かに、到着の時を待った。




