ドリフター
ふと気付くと、俺はサヨコに連れられ、ソコにたどり着いた。
それは、見上げるような大きさで、一目では特別である事に気がつかないような、そんな建物。
しかし、俺には分かる。これは特別な場所だ。
――そう、俺の家だ。
「どうした、付いて来い」
サヨコはきょとんとした顔で俺を見る。
「にぃ、はやく帰ろ?」
ナギも眠たそうにこちらを見てる。
「いや、よぉ!? 俺の出自だとか、その剣姫騎士とか話す流れじゃないのかよ!?」
「だからこそ、家だろう?」
「いや、そう……か?」
確かに駅前のチェーン喫茶店で話されても困るが……。
《私も話をするときは、家でしたね……》
そうだな。だが、俺お前の事が一番困ってるよ。
そんなことを考えていると、サヨコは納得しただろうという表情で家に入っていく。
しかし、ナギは目を真ん丸くして俺を見ると、口を開いた。
「……にぃ、”憑いてる”。さよこ、下で話そう?」
「何……? そうか、そう調整されているものな。わかった下に行こう」
え、なに? 何の話?
ともかく追いかけると二人は家の奥、書斎に入る。狭くて話せたもんじゃないだろう。
「たしか、これだな」
そういい、本棚の一画、本を押し込み、取り出し、押し込み、取り出しを繰り返すサヨコ。
《え? 何してらっしゃるんですか?》
俺にもぜんぜんわからん……。
どれほどそんなことをしていただろうか、突然――「あぁ、設定を変えたんだった」と言い出すと、サヨコは折り畳みの携帯を取り出し、一文字一文字入力し、メールを送った。
「これでよい」
「ん」
二人は満足そうだが……。そんな二人を眺めていると、ゴゴゴと机が吊り上げられ、その足元の床が開かれ地下への階段が。
「はぁ!?」
「付いて来い、シュウ」
《うわぁああ!! 隠し階段ですよ! 隠し階段! 初めて見ましたよ!》
俺もビックリだよ。まさか自分の家に地下室があったとはよ……。
そうして階段を下りると、そこは……小さな個室?
俺とサヨコ、ナギの三人が立てばそれだけでわりと窮屈なスペースだ。更には薄暗い。
「うむ、もう少しだ」
サヨコが言うと、目の前の壁が開く――否、扉だったようだ。その先にも小さな空間。
この空間に比べて明るいそれは、一目でわかった。エレベーターだ。
「おい、おい」
どんだけ地下が深いんだよ。
ガラス張りのエレベーター。外は開けて見える。
「……しっかりとあたりを見ておけ」
ゆっくりと降りるエレベーターの中。サヨコが小さくつぶやいた。
「はぁ?」
辺り一面を埋め尽くす無数のガラス筒。一つ一つ、何かが入れられているのはわかる。
「それを、知る必要がある」
エレベーターが下る。だんだんと近づくにつれ、それが何かは理解できた。
――人間だ。
そうでない様に見える者も居る。しかし、どこか人間性を残しており、元がそうであった事が見て取れる。
視線をゆっくりと移していけば、変化を追走するように見ることが出来る。腕より進む、黒い金属のような皮膚疾患はだんだんと広がり、全身を変えて行く。
――異形の怪物へと。
そうして、それには覚えがあった。それは、『The END』の姿だった。
「彼女たちは我らが先達、護国の戦士、英霊」
ガラス筒に入れられた女性達を慈しむ様に、サヨコは言う。
「――私たちの行く末だ」




