表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親父が魔法少女で俺まで巻き込まれた件  作者: フジオ
紅の魔法少女篇
23/63

デート・オア・ダイ


 甘い、甘い、砂糖菓子のような匂いが鼻孔を擽る。


「シューくん、シューくん、朝だよ?」

「んぁ……?」

 何度も何度も自分の名を呼ばれているような感覚。しかし、どうにも意識が定まらない。

 俺はなんとなく、自らの側に在る、その甘い匂いの源を抱き締めた。


「ひゃんっ!?」

 暖けぇ。ってか熱い。辛い――ん?

「あ、朝から駄目だよっ! シューくんっ!」

「アキラじゃねーか!!」


 抱き締めたそれの暖かさから、目覚めた俺は、直ぐ様ベッドから起き上がる。


 そうして、視界に収めたのは、アキラその人であった。無理矢理と言う言葉が良く似合う、そんな状態だった。その九十九髪を散らし、身に纏う服を乱したその状態、襲われてしまったのでは無いか、そんな悪い想像をさせる。上気したその顔は、強く雌を感じさせる。


 そうして、そんな事を考えてしまう自分に軽く自己嫌悪。でもこれは俺の何時もの事だ。

「シューくん……駄目だよ」

「あぁ! そうだな! 駄目だな! 悪かったよ! 危ないから俺に近づくなよ!」

「――それは駄目っ!」

 アキラはバッと、起き上がると、ぺたんと座り込んだ状態で俺に言う。


「めっ!」

「そう言われてもなぁ……おはようアキラ」

「おはよう、シューくん」

 そう返事をすると、ぴょんとベッドから飛び降りるアキラ。その際、ブカブカのTシャツがめくれ上がり、少々際どい位置まで足が見えた。


「えっち……」

 そんな俺の視線に気がついたのか、Tシャツを伸ばし、足を隠すアキラ。ジトッとした目付きで責めてくる。

「バカ言え。で、なんだってこんな時間に起こしたんだ? というか、地下闘技場は?」

 昨日行ったなら、二日は帰ってこないはずだが……。

 そんな言葉に、思い出したかのようにアキラが口を開く。


「シューくん! デートしよっ!」

 魔法少女活動三日目、土曜の朝。その一言から、その日は始まった。


 学校の在った位置が焦土と化し、ここ数日は緊急休校。直されなかったのは仕方ないと納得し、静かに眠っていようと考えていたが、朝から起こされ少々ご機嫌斜めな俺。その言葉を聞き、自らの耳を疑った。


「はぁ? でぇとぉ?」

「うんっ!」

「俺と?」

「ボクでっ!」

 集人は元気よく答えるアキラを見ると、静かに箪笥を開き、着替えを見繕った。


 別に家出ることもないし、適当な服で良いか……。

《いやいや、現実逃避したって変わりませんよ? 答えを出しちゃって下さいよ》

 またエイダの差し金か。溜息を一つ吐き、答える。


「行かない」

「えッ!?」

 答えを聞き、瞳を潤ませ、縋る様にアキラが言う。その表情に、多少良心が痛む。

《泣かせるんですか? いーけないんだーいけないんだー、せんせーにいっちゃーおー》

「うるせぇんだよッ!!」

 囃し立てるエイダに、苛立ちを隠せず、叫びを上げる。


「……ごめんね」

 そして、エイダの声は今は俺にしか聞こえて居ない。

 叫びは、アキラに対しての物にしか聞こえなかった。涙を浮かべ、俯きながらも気丈な声を作り謝るアキラ。


「ごめんねシューくん、迷惑だったよね……ごめんね」

 そう言い、泣き顔を見せぬように、駆けて逃げ出そうとするアキラ。そんな姿を見て、考えるよりも先に手が伸びた。右の掌が、何処かへと逃げ出そうとするアキラの左手を掴む。


「――っ!?」

 アキラはとっさの事に、その掴まれた手を大きく回し、掴みを外そうとする。意識でなく、無意識で掴んでいた彼。その勢いに飲まれ、ぐるりと半回転、アキラの足元に倒れこむ。


「しゅっ、シューくん! ごめんね!」

 倒してしまった俺を気遣い、アキラは身体を支え、起こそうとする。

「ごめんね……本当にごめんね……」

 段々と声色が弱弱しい物へと変わる。長く付き合いのある俺にはわかった。


 あ、これ泣くな。


 俺とて人の子だ。更に言うならアキラの子だ。自分の家族を泣かせて、それが良いなどとは思えない。

《アダルト!? アダルト展開!?》


 変な声も聞こえるし。だから、これは仕方のないことだ。


「――アキラ」

「……なぁに、シューくん?」

「今日、どこかに出かけるか?」

 それを聞き、アキラの表情が、先までの暗い物から一転、花開くように明るく変わる。


「でも行かないって……」

「ちょっと恥ずかしかっただけだ、こう天気も良いんだ、どっかに行きたくなるだろ?」

「う、うんっ! 行こう! どこ行こっか! ボクねっ、ボクねっ」

 明るく笑うアキラを見て、この方が良いか、そんな事を考えて居た。

《……ちょれー、アキラさん超ちょれー。そして、それ以上に集人さんちょれー》

 エイダは呆れ気味に呟いた。もう、こいつは無視しよう。


 何時もダボダボのTシャツしか着て居ないアキラだが、デートとなった途端、気合いの入れ様が違った。

「えへへ、似合うかな?」

 そう言いくるりと目の前で回って見せるアキラ。


 その長い白髪を束ね、ポニーテールを作ると、その上にハンチング帽を。白のワイシャツの上、大きめのサスペンダーで服を押さえ、ハーフパンツを穿く。まるで、ボーイッシュな少女の服装だ。まぁ、ボーイって年でもないんだけどな。くりくりと大きな眼は、期待に溢れ輝いていた。

 心なしか、何時も以上に可愛らしく映った。


「似合う……んじゃねぇか……?」

 可愛らしい少女にあのような表情をされれば、きっと誰もが顔を赤に染めるだろ。

 しかしながら、俺はアキラを可愛いと思ってしまった事が何よりも恥しかったが。


「ありがとうっ! シューくんっ!」

 そんな俺の様子を見れば、アキラは自分の恰好が好印象だと言う事はわかるのだろう。

 だからこそ、アキラは笑みがこぼれ、声が大きくなる。


 こうして感情を直接ぶつけてくるのはアキラの得意技だ。


「――ぅうう」

 それが俺には一番効く。


「で、今日は何処に行くつもりだ?」

「シューくんは何処に行きたい?」

「……質問に質問で返したら駄目じゃねぇのか?」

 あきれ顔で言う。アキラはどうした物かと、考えを巡らせる。だがその思考は答えを導き出せないで居た。


「ボクはシューくんと居られればそれで良いから、何処に行くでも良いよ?」

 苦し紛れの返答の様にアキラは言う。しかしその言葉に嘘偽りはなく、本心からの言葉だろうな。

「……そうか」

 何とか上手く丸め込めないかと考える。

《流石にそんな非道な事をさせる訳ないでしょう。ちゃんと何処かに連れて行って下さい。最悪私がエスコートのお手伝いはしますんで》


(……テメェにデートのDの字が理解できるのか?)

《今すぐにでもこのデートをDestroyしようって人よりはマシですよ》

(これをさ、例の時間感覚短縮の魔法で……)

《集人さんって本当に屑ですよね……》


 かくして一日(デート)がはじまる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ