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親父が魔法少女で俺まで巻き込まれた件  作者: フジオ
紅の魔法少女篇
13/63

おとうさんパニック!!


「ふぅ……」


 物自体が美味い。量はあったが、出された食事の殆どを平らげていた。余程空腹であったかのように、余程疲れる事をしたように、体が求める感覚があった。


「ごちそうさん……」

「はい、お粗末さまでした」

 そう言い、空いた皿を片づけるアキラ。その姿をぼうっと眺める。


 幼く見えるその身体を、だぼっとしたシャツで隠し、その上にエプロンを着けるラフな格好。

「あっ、シューくんお風呂入っちゃって」

 そう言い、皿を水に浸けるアキラ。洗い物は少し待つと言う事か。おおよそ理解する(だいたいわかった)、立ち上がり、風呂場に向かった。


「ん……じゃあ、先風呂入ってくるわ」

「うん、すこしね」

 そう言い、俺を見送るアキラ。

(……『すこしね』?)


 その一言に奇妙な物を感じる。

 何時もなら背中流そうか? なんだと言ってくるんだが……。


 別にそうして欲しい訳ではない。だが、酷い違和感に襲われる。まぁ、わからない事は考えない。思考を停止させ、服を脱ぎ、風呂場に入った。


「はぁ……」

 疲労感からか、風呂椅子に座る、それだけで溜息が。この疲労感が何に依ってもたらされた物か、どうしても考えたくなかった。


「……だりぃ」

 身体を動かすのがどうにも辛い。特に右腕の調子が良くない。椅子に座り、カランのハンドルをシャワーの方向へ倒しこむ。熱湯が高所に設置されたシャワーから放たれ、頭から背中を流す。


「かったりぃ……」

 どうにも身体が痛むが、先まで寝ていたためか、眠ろうと言う気にはなれないで居た。


「お湯加減どぉ?」

 風呂の外からの声、背筋が伸びる。驚きからだ。そういえば脱衣所の鍵を閉めていなかった……。


「あ、あぁ大丈夫だ!」

――真逆、真逆!?

 思考を埋め尽くす二文字。ありえない話じゃない。何時もであれば同意を求めるが、それが必要無いと思ったなら? 何かが背中を押したとしたら?


「お、お背中……お流ししますっ!」


 その言葉と共に、風呂場の戸は開かれた。


 白絹の如き長髪が揺れる。白陶磁器の肌は羞恥に燃え盛り、紅く染まって居る。キッと鋭く、強い意志を示すその黒曜石の瞳からは、羞恥に耐えようと言う努力が見える。その身はただ一枚、タオルによって隠されていた。バスタオルでは無い、唯のタオルだ。故にちらり、ちらりと、際どい。集人はその姿を眺め、息を飲み――そこで正気に戻り、視線を外す。


「アキラ! なんのつもりだ!」


「そ、そのっ! 疲れる様だったからね……昔みたいに、洗ってあげようと……」

 言葉を続けるたび、だんだんと消え入りそうな声に変わる。目尻に涙を浮かべ、嗚咽が漏れ始める。そんなアキラの姿に、居心地の悪さを覚える。


「……迷惑だった?」

 縋る様に、呟くアキラ。もし、ここで拒絶すれば、二度と戻ってこないだろう、そんな予感がする。


「――そんな事、言ってねぇよ……洗ってもらって良いか?」

 ぷいと、アキラに背を向けながら言う。その言葉に、鏡越しのアキラがぱあっと表情を明るくする。


 しょうがないだろ、あんな顔されて無下にできるかよ。


「うんっ! じゃあ、すぐにでも背中流すねっ!」

 そう言い、ボディソープを手に塗りたくると、アキラは俺の背中を撫でる様に、弄る様に、その手を這わせる。

「ひゃぁっ!?」


 間の抜けた声を上げる。急いでアキラの手を止めようと、自らの腕を伸ばそうとするが、相手は真後ろ、そう簡単に届くはずも無い。


「シューくんかわいー声上げちゃって……気持ちー?」

 耳元で、甘えるように、甘やかすように、甘い甘い声がする。その吐息が、耳をくすぐり、また刺激を与える。


「あ、アキラッ!?」

 上ずり、裏返った声で言う。続ける筈だった言葉、前に伸びたアキラの手に止められた。


「かわいーなぁ、シューくん。昔を思い出すねっ」

 こんなアブノーマルな昔に覚えが無い。


「ふふふ……かわいがって、あ、げ、るっ!」

 耳を軽く噛まれる集人。アキラが背中に抱き付く。そして熱く、堅く、細長いが何処か存在感を強く示す『何か』がその背にあてられている事に気が付く。



「……な、何かが……あたって居るのですが……」

「あっ……あててるのっ!」



 その時点で俺の意識は大分吹き飛んだ。されるがままに、全身を隈なく洗われ、湯船に湯けられる。ああぁ、介護演習用の人形ってこんな感じなんだ。



 一線を越える事は無かったので、ぼくはげんきです。



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