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1.

 初めて会った時に思ったのは「やさしい声」なんだなぁということだった。「優しい」じゃなくて「やさしい」。表情が乏しい割に、ほんのりと温もりを感じさせる穏やかな声で、耳にすっと馴染んだ。私は今まで特に声を意識したことはなかった。だから、きっとその時から彼の「特別」は決まっていたのだ。そう、彼が「神谷沙織(かみやさおり)さん?」と呼んだ時から。それだけ印象的だった。


 よく訊かれることがある。「彼のどこが好きなの?」と。私は決まって「声かなぁ」と答える。そう、私は彼の声に滅法弱い。


 何故いの一番に思い浮かべるのが「声」なのか…深く考えていなかった。


 人はコミュニケーションする時に言語では7%しか伝えられないという。残りの93%は非言語。つまり、身体言語と呼ばれるもの、表情や身ぶり手ぶりや姿勢、視線、呼吸、服装と準言語と呼ばれるもの、話し方や声の調子らしい。そして、身体言語と準言語では55%と38%で身体言語の方が多く占めている。つまり何が言いたいかというと、私の恋人、中岡和宏(なかおかかずひろ)という人は伝わりにくいということだ。彼は表情が乏しく余り身ぶり手ぶり等もない上、決してお喋りではない。声の抑揚がほんの僅かにあるだけだ。注意深く聞いていないと受信できない。私は彼の声が好きなのもあって、彼とのコミュニケーションにおいて、声を重視するようになった。

 そうやって彼と係わっていく中に、最初は全然分からなかった彼の人となりが分かってきた。彼はとても誠実で温厚、そして実は感情豊かな人だったのだ。

 でも、それに気付くのはだいぶ先の話…。



 女の子が集まれば必ずと言っていい程挙がるのは恋の話題だ。他人様の恋愛模様を聞いて何が楽しいのだろう…と少し思わなくもないが女の子はこの手の話題が大好きだ。斯くいう私も、放っておいてと思う反面、話したいし聞きたい。愚痴と惚気を繰り返し、盛り上がる。楽しい時間の幕開け。



 平日の水曜日の夕方。この時間帯から女子会が始められるのも学生の特権だろう。その日の講義が終わった午後6時の居酒屋で「乾杯」の声が響く。気の合う4人での女子会は、始まったばかりだ。

「あ~、生き返るわぁ」

ビールを一口飲んで一言。

「開口一番それなの!?」

「それ以外に何かあるの?ビールは命の水だよ??」

「沙織、酒癖悪いんだから飲み過ぎないでよ…」

 最初のツっこみと有り難い忠告をくれたのは、石川知世(いしかわちよ)。幼稚園、小学校、中学校と一緒に過ごした私の幼馴染だ。時に友であり、姉であり、母親である、そんな存在。因みに私の向かい側に座っている。アッシュベージュのほんのり内巻ショートボブと、一重瞼の涼やかなアーモンドアイの黒い瞳が印象的な美人だ。

「お酒は程々にね」

 そう言ったのは、宮田萌(みやたもえ)。同じ学部で入学当初からの仲。ほんわかしていて場が和む。私の左隣りに座っている。胸上まで伸びた黒髪の緩くふんわりとした無造作パーマ、垂れた奥二重の焦げ茶の瞳で愛らしい顔立ちだ。

「この前も酔っぱらって面倒臭くなったんだから」

 ばっさり言い放ったのは、佐々美由紀(ささみゆき)。一緒に学園祭の実行委員に所属していて仲良くなった。言葉に配慮が足りないのが玉に瑕だ。私の斜向かいに座っている。黒髪のマッシュラインのショートヘアで、やや吊り目勝ちの二重で黒い瞳、中性的な顔立ちをしている。


 …皆口々に言っているけど、私はそんなに酒癖悪いだろうか?



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