第27話「【覚醒】柊斗から届いた、声にならない声」
学校までの道は、思っていたより静かだった。
静かすぎた。
眼力を絞ったまま歩いた。物陰、路地、駐車場の隙間。視界に入るあらゆる場所を確認しながら進んだ。
母さんが俺の腕をきつく握っていた。父さんは無言で、腰を庇いながらも遅れずについてきた。
何度か、遠くに小さな影が動くのが見えた。近づいてはこなかった。
それでも、気は抜けなかった。
歩きながら、式神の様子を確認した。
常盤先輩、巌先輩、霧島さん、剣持さん。
それぞれに貼った式神に意識を向けたが、何も見えなかった。暗いだけだった。
ポケットの中か、カバンの中か。
仕方ない。プライバシーを優先すると言ったのは自分だ。
宵待先輩のものだけ、視界が開けた。
白い紙が見えた。メモを映していた。
そこに、几帳面な文字が並んでいた。
「所用で合流が少し遅れる。皆のことを頼む」
それだけだった。
何の用事なのか、どこにいるのかは書かれていなかった。
あの人らしいといえばらしかった。でも、今は少し不安だった。
早瀬と柊斗のことも気になった。
スマホを取り出して、何度か画面をタップしてみた。
繋がらない。
当たり前だった。さっき確認したばかりだ。
それでも、確認せずにはいられなかった。
二人とも、学校に向かうとは言っていた。
無事に着いているといいが。
学校が見えてきた。
校門はすでに開かれていて、地域の住民たちが次々と中に入っていた。
子供を抱えた親、杖をついた老人、リュックを背負った中学生。誰もが不安げな顔をしていた。どこに行けばいいのかわからない人たちが、とりあえず広くて頑丈そうな場所に流れ込んできている。そんな感じだった。
母さんと父さんを連れて、体育館の方へ向かった。
体育館の隅に腰を下ろしたところで、視界の右上に通知が浮かんだ。
ずっと保留にしていたものだった。
【スキル選択】
集中力100超え
①予見:相手の次の動きをわずかに先読みできる
②照準:動く対象を正確に捉え続けられる、見失わない
③静寂:周囲の雑音・情報を遮断して極限まで集中できる
迷わなかった。
今の状況で、何が起きるかわからない相手と対峙する以上、先が読めることに勝るものはない。
①を選んだ。
【予見を取得しました】
続けて、次の通知が浮かんだ。
【スキル選択】
知力100超え
①眼力解析:眼力と連動し、対象のステータスが視認できるようになる
②記憶:一度見たものを完全に記憶する
③看破:嘘や偽装を見抜ける
これは、悩んだ。
これからの世界で、嘘や偽装を見抜ける力の価値は高い。危険を事前に察知できる。騙される前に気づける。
でも。
相手の力量がわかれば、戦う前に判断できる。逃げるべきか、戦えるか。その判断が、これからは命に直結する。
眼力と組み合わせたとき、アナライズの方が応用が広い。
そう結論づけた。
①を選んだ。
【眼力解析を取得しました】
最後の通知。
【スキル選択】
魅力100超え
①威圧:相手の動きを一瞬止める
②カリスマ:周囲の人間が自然と従いたくなる
③気配消し:存在感を消して認識されにくくなる
これも、悩んだ。
気配消しは純粋に生存能力が上がる。異界の存在に気づかれなければ、そもそも戦わなくていい。
カリスマも捨てがたかった。人が集まり始めたこの状況で、周囲をまとめる力は価値がある。
でも、いざ戦うことになったとき、相手の動きを一瞬止めることができれば決定的な差になる。
これからは、そういう場面が増える気がした。
①を選んだ。
【威圧を取得しました】
三つのスキルが、静かに自分の中に馴染んでいった。
そのとき、体育館の入り口がざわついた。
振り返ると、巌先輩と常盤先輩が、それぞれ家族らしい人たちを連れて入ってきた。
巌先輩の両親と、妹らしい小さな子供。常盤先輩の母親と、犬を抱えた弟。
「大丈夫でしたか」
「途中、二体に襲われた。問題ない」巌先輩が短く言った。
「問題ない、で済む話じゃなかったでしょ」常盤先輩が苦笑した。「巌くんが一人で叩きのめしたけど、私たちは生きた心地しなかったよ」
巌先輩が黙って視線を逸らした。
その話を聞いて、改めて不安が押し寄せてきた。
道中で襲われるのが、特別なことじゃないとしたら。
宵待先輩は無事だろうが、他は。
霧島さんと剣持さんは。
早瀬は。
柊斗は。
その瞬間だった。
頭の中に、声が響いた。
『おい、聞こえるか。直哉、聞こえてたら返事してくれ』
柊斗の声だった。
はっきりと、頭の中に届いた。
『助けてくれ。今、学校の近くのコンビニで――』
声が、途切れた。
(第28話へつづく)
【ステータス】
体力 148(±0)
筋力 122(±0)
敏捷 133(±0)
耐久 127(±0)
知力 104(±0)
知識 99(±0)
集中力 103(±0)
精神 127(±0)
器用 89(±0)
魅力 100(±0)
【スキル】
眼力 Lv.3
メモ Lv.2
自然回復
並列思考
瞬歩
浄化耐性
予見
眼力解析
威圧
(第28話へつづく)




