第1話「家の隣の神社に10年通ったら、人生がステータス化した件」
数ある作品の中から目にとめていただき、ありがとうございます。
本日から『ステータス、始めました。』の連載を開始します。
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家の隣に神社がある。
小さい。というか、ちゃんと神社と呼んでいいのか迷うくらいの規模だ。鳥居と石畳と本殿だけ。社務所もなければ神主もいない。お守りも売っていない。近所の人間ですら、その存在を忘れているんじゃないかと思う。
俺――直哉がそこに通い始めた理由は、もう覚えていない。
小学生の頃、なんとなく入った。誰もいなくて静かで、自分だけの秘密基地みたいだった。放課後に一人で来て、ぼーっとしたり、考え事をしたりしていた。
いつの間にか手を合わせるようになり、いつの間にか毎日来るようになった。
毎日やっているから、やる。
習慣なんて、だいたいそんなものだ。
今日も帰り道に寄った。いつものように。
朝から降っていた雨が、家まであと少しというところで急にやんだ。傘を閉じながら、もう少し学校で時間を潰せばよかったと思う。急ぐ理由なんてなかったのに、わざわざ濡れながら帰ってきた。
鳥居をくぐる。石畳を歩く。本殿の前に立つ。
二礼二拍手一礼。
願い事はない。ただやる。毎日やっているから、やる。
そのときだった。
視界の右上に、何かが浮かんだ。
半透明の文字。なのに、はっきり読める。
⸻
【ステータス】
体力 72 筋力 58
敏捷 61 耐久 60
知力 74 知識 65
集中力 68 精神 83
器用 55 魅力 62
⸻
「……は?」
思わず声が出た。
まばたきする。目をこする。左右を見る。
消えない。
どう見てもゲームとか漫画でよくある、ステータス画面だった。けれど装飾はなく、数字だけが淡々と並んでいる。触ってみても指は素通りした。
現実感がない。
なのに、雨上がりの空だけ妙にリアルで。
そのせいか逆に、これは本物かもしれないと思ってしまった。
怖さは、あまりなかった。
それより――
「なんか面白いな」
⸻
「ただいま」
玄関を開けると、廊下の奥が騒がしかった。
父さんがしゃがみ込み、腰を押さえている。母さんが困った顔でその横に立っていた。
「どうしたの」
「物置が雨漏りして、中の荷物がびしょびしょでね」
母さんがため息混じりに言う。
「お父さんが片付けようとして――」
「腰を……やった……」
父さんが低い声で言った。
「お大事に」
「待て、直哉」
父さんが俺を見上げる。
「頼んだぞ、息子よ」
「え」
「あとは任せた」
目だけは真剣だった。
そういうわけで、俺は一人で物置の片付けをすることになった。
⸻
中はひどかった。
天井の染みから水が垂れ、段ボールはふやけ、古い家電の箱は湿っている。なぜか誰のものかわからないスキー板まで出てきた。
全部出して、使うものと捨てるものに分け、また戻す。
単純作業だが、地味に重労働だった。
気づけば二時間近く経っていた。
部屋に戻り、床に倒れ込む。
なんとなく視界の右上を見る。
まだあった。
⸻
【ステータス】
体力 73 筋力 59
敏捷 61 耐久 60
知力 74 知識 65
集中力 68 精神 83
器用 55 魅力 62
⸻
「……増えてる」
体力が1。筋力が1。
さっきまで72だった。58だった。
二時間、荷物を運んだだけで。
しばらく数字を見つめて、理解する。
やれば、上がる。
その事実が妙におかしくて、笑いがこみ上げてきた。
「……あ、そういうことか」
⸻
夕飯のとき、試しに母さんへ聞いてみた。
「なあ、このへんに何か見える?」
視界の右上を指差す。
母さんは箸を止め、俺の顔を見た。
「何も見えないけど。どうしたの」
「いや、なんとなく」
「頭、打った?」
「打ってない」
「物置で何かぶつけた?」
「ぶつけてない」
しばらく心配そうにしていたが、俺が普通に飯を食べているのを見て、母さんは肩をすくめた。
「変なこと言わないでよ」
どうやら見えているのは、俺だけらしい。
⸻
食後、自室で問題集を開いた。
理由は単純だ。
知力が上がるか試したかった。
しばらくして、母さんが扉を開けた。
「……直哉、勉強してるの?」
「してる」
「熱ある?」
「ない」
「おでこ貸して」
「いいから閉めて」
納得していない顔のまま、母さんは首を傾げながら扉を閉めた。
リビングからテレビの音が聞こえる。
視界の数字をチラチラ見ながら勉強するが数字は変わらない。
知力74のままだ。
そう簡単には上がらないらしい。
でも、体力と筋力は上がった。
やれば、上がる。
翌日、友人の柊斗に言ってみた。
「俺、ちょっと鍛えようと思う」
「何があったん?」
真顔だった。
「なんか思い立って」
「お前が“思い立って”で動くわけなかろう」
ごもっともだった。
だが、この発見を誰かに話す気にはなれなかった。
やれば上がる。
その秘密は、まだ自分だけのものにしておきたかった。
そして、思う。
もしそうなら――
(第2話へつづく)
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