第十話 パンとメモと、変わりゆく景色
少し短めです!ごめんなさい!
翌朝、カーテンの隙間から射し込む光が、部屋の空気をじんわりと温めていた。
ベッドの上で身を起こすと、頭の奥にまだ昨夜の眠気が残っている。
ふと視線をやると、机の上に置かれたままのパンの袋に「朝ごはん食べてね」と丸い字のメモ。
沙夜の字だ。
今日も遅刻は避けたかったのだろう。
というか部屋入るなよ、と思ったが本人がいないから伝えられない。
仕方なくメモにあるようパンを食べ、学校に行く用意を始める。
重苦しい制服、重すぎる鞄を背負い、玄関から外に出た。
今日は一人なので、何も気にせず学校に向かうことができる。
時間はまだあったので、ゆっくりと景色を見ながら行くことにした。
おとといは沙夜が騒いでいたから、あまり見れなかったが、こうして一人で歩くと、景色は少し違って見える。
新しい店ができ、古い家が取り壊され、道端の花は季節を変えて咲いている。
1年という時間は、思っているよりもずっと多くのものを動かしていた。
感傷に浸っているともう学校だ、近いだけはある。
下駄箱に入ると、視線は感じない。
こういうところでも沙夜のすごさを感じる。
そのまま教室に入っていくと晴斗が近づいてきた。
「おはよう誠!昨日は休んだんだな」
「ああ、久しぶりに学校来て疲労感がすごかったから」
「適度に休みながら来いよな!休んだら俺も次から家行くから!」
「勘弁してくれ……」
こいつはいつも元気だな、それに朝から恐ろしいことを聞いてしまった。
次から学校休みづらいな。
しばらく晴斗と話してると、元気な奴第二号が来た。
「おはよー誠君!ちゃんと学校来てえらいぞー」
よしよしといわんばかりの表情だった、まるで2歳児を相手してるような感じだ。
沙夜が僕に話しかけると教室がざわつくのは健在である。
「来る約束だったからな、来ないとめんどくさそうだったし」
「めんどくさいってなによ!」
「事実だろ」
「ひどっ! じゃあ罰として今日のお昼、一緒に食べる!」
唐突に宣言する沙夜。
隣で聞いていた晴斗がニヤニヤしながら口を挟む。
「おー、いいじゃんいいじゃん。じゃあ俺も混ぜて――」
「却下」
「俺だけ即却下かよ!」
「うそうそじょうだんー」
教室のざわつきはさらに大きくなり、なんだか今日は静かに過ごせそうもない予感しかしなかった。
ということで授業が進み、昼休みになった。
今日は授業中に大きなハプニングはなかったが、相変わらず隣はうるさかった。
「そういえば、そろそろ前期中間テストあるよな」
晴斗はそういうと、周りの2人がビクッと肩を震わせた、沙夜と小野寺だ。
「そういえばテストなんてあったねー……ほのかちゃん勉強してる?」
「してないよー、花咲さんもしてない感じ?」
「もち!私たちは仲間だね!同盟組もう!」
「そんな同盟今すぐに破棄しろよ」
「ひどい!じゃあ誠君は勉強してるっていうの?」
「……まあ、一応」
「おー、頼りになるじゃん!じゃあ今日放課後、誠君ちで勉強会!」
「なんでそうなる」
すかさず小野寺が手を挙げる。
「私も行っていい? 花咲さんと二人じゃ絶対脱線しそうだし」
「大歓迎!」
「いや、勝手に歓迎するな」
「じゃあ俺も行こうかな!誠の家行ってみたいし」
「じゃあわたしも」
そんなこんなで、結局あの4人がうちに来ることになった。
さすがに4対1では、引きこもってた僕には意見を押し返せない。
周りの笑い声と、昼休み特有の騒がしさが教室を満たしていく。
その中で、僕は頭の中で「静かな放課後」という単語が音を立てて崩れていくのを感じていた。
……いや、崩れるだけじゃない。
なんだか、これからもっと厄介で、でも少しだけ賑やかな時間が待っている予感がした。
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