第一話 僕と彼女
5月のとある朝。
カーテンの隙間から覗きこんできた日差しが僕の瞼の裏を赤く染めた。
僕、音無 誠は今日も学校に行かない。
時計を見るとその針は9時を示していた。
世界はとっくに動き出したのに僕だけは取り残されていた
僕はトイレに行こうとドアを開けるとーーゴンッ
何かがぶつかる。
朝食だ。
いつも部屋から出ないのでおいてもらっている。
それを部屋の机へと移しさっさとトイレに向かう。
階段を下りていくと一人の人物と出会った。
「あら珍しい!おはよう誠!、ちゃんとご飯食べるのよ!」
「わかってるよ」
この引きこもりを相手してるとは思えないほど元気に挨拶しているのは母だ。
トイレやふろに向かう時にすれ違うのだがそのたびに挨拶と小言を言ってくる。
学校には行っていないが、まるで学校ですれ違った友人のようだ。
ちなみに無視はできない。
無視をするが最後、どこまででもついてくるからだ。
この執念はある意味尊敬に値する
「あ、そうそう、今日も沙夜ちゃんくるから、ちゃんと相手するのよ!」
「…はーい」
花咲 沙夜
顔は見たことないが僕の生活を脅かす人類だ。
学校では学級委員長をしているそうで先生のお願いだか何だか知らないが毎日放課後に僕の部屋までくる。
……暇人なのか?
この後のことを考えるきっかけができてしまったせいで憂鬱になってしまったが部屋を出てきた本来の目的を思い出し母に悪態をつきトイレに向かった。
トイレから戻り、部屋の前で小さく息を吐く。
またあの人が来ると思うと気が重くなってくるが僕が悩んでいたところであの人は来るのだからどうしようもない諦めよう。
とはいえ来るまでは僕の時間だ
は自由に過ごさせてもらうことにしよう。
そう思った僕はまず机と向き合った、意外かもしれないが勉強はきちんとしている。
高校2年生であるのもそうだがそれが条件だからだ。
気が向くまでは勉強していることにしよう。
そうして僕は参考書へと手を伸ばした
―…―…―…―…―…―…―…―…―
時は過ぎ6時間、なんだかんだ結構勉強してしまった。
僕は別に勉強したいわけではないのに朝聞いたことを聞かなかったことにしようとしていたらこんな時間だ、もう来てしまうじゃないか。
ピーンポーン♪
そんなことをグダグダ思っていたらインターホンが鳴った。
僕にとっちゃ死刑宣告と言っても過言ではないのではないか?
下から母と誰かが話している声が聞こえてくる。二人とも声がでかすぎるんだが?
今日は帰ってくれたりしないかなーなんて思っていたがそんな思いを打ち砕くように階段を上る音が二つ聞こえる。その足音が僕の部屋の前で止まると一つだけ足音が離れていく。
残ったほうなんて言うまでもなく彼女であろう。
「少年!明日は学校に行かないかい!」
「いかないね、そんな元気に言われても」
花咲 沙夜
すごくうるさく元気だ、きっと僕とは真逆の人物で学校でも人気があるのだろう。
「えーいいじゃん?たのしいよ?たぶん!」
「全部確信がないのに説得しようとするの、逆にすごいな」
「説得にならないけどさ、私と話すことでコミュ力がみがかれていくとおもうんだ!これは学校に行ったら役に立つ!だから学校行こ?」
「コミュ力は人と話したら確かに勝手に上がるかもね、行かないから意味ないけど」
「なんでよ!」
「メリットがない」
「そんなことないでしょ!勉強できるし、日常生活とか部活とかで友達ができて楽しいよ!」
……こんなのが毎日来るのだ、よく続くと感心する。
僕では絶対に続かない、いいとこ3日だろう。
それ以降は適当にさぼるのが関の山だ。
こんなことを考えている間にも彼女はペラペラ何かを話している。
ドアを挟んでいてよかった、今の僕は文字通り苦虫を嚙み潰したような顔をしているだろうから。
「ちょっと!聞いてんの?」
「聞いてないから帰ってくれ」
「むり!もうちょいお話ししてよ!」
いつも通りしつこいななんて思い今日こそ決着をつけようと思った。
それが誠の想像していたものとは違うものになるとはこの時は思っていなかった。
「話すって言っても僕は部屋から出ていない何もしていない生活を送っているんだ、なんも話題なんてないだろう」
「たしかにそうだけど、、、」
「じゃあ分かった珍しく僕から話題を提供してあげよう」
「お、なになに!学校に行くにはどうしたらいいとか?!」
「どうやったらお前はここに来なくなるんだ?」
そう返すと沙夜は少し困惑したのか一瞬の間が開いた。
無理もない、僕がこう反発するのは初めてのことだからだ。反発しなくてもすぐにこんなもの終わると思っていた僕は今までいなしていたのだ。
だが、さすがに一か月続くとなると話が変わってくる。
「んー誠君が学校に来てくれたら?たぶんこないよ?」
「たぶんってなんだよ、学校に行く気はない、だから諦めろ時間がもったいないぞ」
そう言った次の瞬間ーー
ガチャリ。
ドアが開いた。
「は?」
「おー誠君ってこんな顔してたんだー……っていっても髪の毛であんま見えないけど」
油断していた、最初の頃こそ全力でドアを抑えていたがここまでドアを開ける様子すらなかったので僕は扉の割と近くにあるベッドから話していたのだ。
差し込む日差しの中沙夜の黒髪が揺れる。
小柄な体、整った顔立ち。
見た目だけならおしとやかなお嬢様にしか見えない
けれど、そのお嬢様が僕の領域をあっさりと侵してきた
「…おまえ、どういうつもりだ」
「どうもこうも最終手段っしょ、入るしかないっしょ」
「早く出ていけ」
低い声が出た
自分でも驚くほどに
「むりかなー君が学校に来てくれるまで」
「不登校になった理由とか考えなかったのか?……早く出てけよ」
そう問いかけると沙夜は予想とは違う答えを示した
「ちょっとは誠君のお母さんから聞いたよー、誠君が本当は学校に行きたいことも」
僕はこの答えに心底驚いた、事実であったからだ。
それでも僕は学校にはいかない、いけない。
「…わるいがそれは勘違いだ早く出て行ってくれ」
「うそつかないで」
彼女のその瞳がまっすぐ僕を射抜く。
核心に迫るような視線だった、物語なら最終章だろう。
「君が学校に行きたがっているのは知ってる、理由は聞かない、明日からじゃなくてもいい、外的要因があるなら私が守ってあげる、……こんだけ話してたらもう友達じゃん?」
屈託のない笑顔。
胸の奥に、熱いものが生まれる。
「その言葉は信じていいのか?」
「もち!」
「……わかった、行こう」
ーーもう一度だけ、人を信じてみよう
「えっ……ええええっ!?」
提案した彼女が一番驚いた表情をしていただろう。
もしかしたらこれも否定していたら帰っていたかもしれない。
そう考えたのはまだだいぶ先だった。
彼女はだいぶ興奮しながら僕の肩に手をのせて体を揺らす。
「ほんと!来てくれるの!」
「あぁ、僕の降参だ、だから手を放せ」
「わーっと!ごめんごめん」
この女の子はどうしてここまで僕を気にかけてくれるのだろう、別に幼馴染でもないし、もとから友人だったわけでもない。
まあ、そのうちわかるか、と思ていたら彼女が元気よく、まるで物語の最後のようにこう言った。
「よーし誠君!私が世界をおしえてあげよう!」
最後まで読んでくれてありがとうございます!
初めて書く文章で拙いところもあるかもですが暖かく見守りながらよろしくお願いいたします!
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