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異世界おっさん一人飯  作者: S・B


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六話 夢に見た和定食


 あの日『北風商店』を後にした俺は、弾むような足取りでいつもの宿に戻ることにした。購入した品々が収納袋に収まっていることを確認するたびにニヤけてしまう。

 「指さしちゃいけません!」とか、「目を合わせちゃ駄目!」とか、そんな言葉は気にもしない。

 いや、少しだけ気持ちを抑え普通を装い向かうことにした……


 いつもの宿に到着する。長年住んでいるから我が家と言っていいのか悪いのか。少し古びた宿屋だが、掃除は行き届いているし、臭いも比較的まともだ。場末でもピンからキリとある中で、かなり上位に位置すると勝手に思っている。

 この宿屋を営む老婆……ゴッホン!マダムは口が悪く厳しいことで有名だ。宿のルールを破ろうものなら、屈強で強面の冒険者であっても、一歩も引かずを口撃するし、罰金として金を巻き上げられる。

 「夜中は静かにしな」とか、「建物や備品を壊すんじゃないよ」とか、当たり前の事で俺は気にしないが、それさえ守れない冒険者も確かに多くいるからな。

 宿に帰ると丁度入口の受付で、座って本を読んでいるマダムと出くわした。

 


「マダム、調理場を貸してくれないか?」

「なんだい!帰ってきて早々に」


 直ぐにでも、米を炊き、味噌汁を飲みたかった俺は、マダムに願い出る。


「どうしても食べたい食材を仕入れたんだ。頼む」

「まぁ、常連で問題を起こさないあんたなら構わないよ。その代わり出すもん出しな」


 理由を話すと許しは貰えた。日頃のおこないって大事だと改めて思う。しかし、右の掌をこちらに悪い顔で指を擦った。その貫禄はどこぞの裏組織の幹部のようだ。


「金とんのかよ!?」

「当たり前さね」

「ちっ……いくらだ?」

「そうさね〜大銅貨三枚ってとこかね」

「宿代と一緒じゃねぇのか!?」

「嫌なら他を当たりな」

「くそっ、ほらよ」

「ヒッヒッヒッ、毎度あり。こっちだよ」


 マダムに宿泊費と一緒にレンタル料を支払うと、嫌らしい笑い声を上げながら料理場へと案内された。長く使っているが、裏側に入るのは初めてだ。狭い通路をついていくと、

 室内の石壁は古びてはいるが、設備の整った調理場に案内された。


「期限は明日の朝まで。後、冷蔵庫の中と倉庫にある食材も使っていいよ」

「助かる」


 鍋も数個あるし、フライパンもオーブンもある。流石に魔導コンロは無く薪の竈だが問題ない。綺麗に掃除もされており、手入れが隅々まで行き届いているのには驚いた。中央のテーブルに、先程買った火の国の食材を出したいのだが、


「…………」

「いや、なんでいるだ?」

「あんたがそこまで言う食材が気になってね」

「俺はその視線が気になるんだが……」


 何故かマダムが戻ろうとしないので、訪ねると俺が手に入れた食材に興味を持っているらしい。気が散るが、余り邪険にしても後が怖い。


「見てるだけならいいが、食わせないぞ」

「器が小さい男だね、そんなんじゃモテないよ」

「…………」


 流石マダム。何気ない一言で俺の心を折りに来た。フラン王国の食材なら問題ないが、火の国の輸入品だ。この大陸にある量も限られてるし、俺にとっては貴重な品々だ。余り振る舞いたくない。


 とりあえず、マダムは無視して収納袋から食材を出していく。米(精米済み)、醤油、味噌、味醂、乾燥昆布、乾燥わかめ、板海苔、カツオ節(一本)

 

「見たことのない食材ばかりだね。なんだい、その色は。まさか!?」

「うるさい!?見ててもいいが黙っててくれないか」

「余裕の無い男はモテないよ」

「…………」


 せっかく諦めていた和食が食べられるというのに、なぜ心がすり減っていくのだろう。


 気を取り直して備え付けの冷蔵庫を開けると、ソルジャーサーモンの塩漬けされた切り身と、コッコーの卵があった。倉庫には根菜類がそこそこ入っていて、ホワイトラディッシュ(大根)が目に留まる。


「これは嬉しい誤算だ。予定変更だな」


 最初はおにぎりと味噌汁だけのつもりだったが、ここの食材も使っていいなら定食が作れそうだ。有り難く使わせてもらおう。しかし、なんで食堂も無い宿屋にこんな調理場があるのだろう。


「マダム、なんでこんな立派な調理場があるのに食堂をやらないんだ?」


 疑問を素直にまだいるマダムに聞いてみる。


「昔は一階で食堂もやってたのさ。死に別れた旦那がね……今じゃ、ここは私が自分の分を作る位しか使ってないよ」

「へぇ〜そうだったのか」


 珍しく淋しげな表情で語るマダムに驚くも、平然を装い普通に言葉を返した。

 俺がこの宿に世話になる前の話だろう。しかし、棚にしまわれている器や皿も使われていないのに埃を被っていない。隅々まで掃除も行き届いているし、備え付けの包丁も研がれ、鍋も綺麗に磨かれている。

 亡くなられ食堂をやめた今でも、マダムは調理場の手入れをしているのかも知れない。そう思うと旦那さんへの愛情の深さがわかるというものだ。


「しかし、久しぶりの自炊だ。上手く作れるといいが」

「そうなのかい?」

「ああ、基本、俺は食うのが専門だからな」


 メニューを考え調理してく。調理は苦手だが仕方がない。料理人を雇い指示して作ってもらう事も考えたが、高額な依頼料や、素人の俺の指示を聞いてくれるとも思えないので却下だ。

 収納袋や火の国の食材を購入し、蓄えはほぼ無くなった。またコツコツと貯めていくしかない。


 先ずは布巾を酒で湿らせ乾燥昆布をふき汚れを取った後、鍋に水を貼りつける。

 乾燥わかめも別の鍋で塩抜きしながら戻し、カツオ節をなるべく薄く、ひたすら自前のナイフで削る。

 米を水を変えながら数回洗い、これも水に付けておく。

 ソルジャーサーモンの切り身を取り出し、臭み取りに酒をふりかけこれもしばらく置き、味醂を小鍋で火にかけ煮詰め酒精を抜く。


 本当に前世の学校の授業、家庭科はなんと偉大な授業だったのだろうと肯定を思い出しながら作業をしていてしみじみ思った。

 

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― 新着の感想 ―
久しぶりの和食に心躍らせるバンの様子が微笑ましいですね(*^^*)
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