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第62話 動き出した者たち 異世界から来た劣等生 XVIII


 「ひとみ、結構、味は良かったわよね」

 「あん、味は良かったと言うのは、みおの舌にあうように味と成分と見た目を変化させたからじゃないの。

 それにくわえて純くんに余計な物を取り除いてもらった。

 元の料理とは別物になっているわ」

 「そうね、そうだったわ」

 「しかし、シャンズ大陸に来たばかりで食事でこれとは先が思いやられる」

 「ベルンフォードである程度は慣れたと思っていたがまったく違うな」

 「井の中の蛙大海を知らず、例えが悪いがそんな気がしてきた」

 「そうね、食事でこれですから他の事でもいろいろありそうね」

 「異種族混合の文化がどれほど違うのか体験しなければいけないか」

 「精神が持つかが心配だわよね」

 「食べ物はベルンフォードの方が良かったのかな。

 されど空の深さを知ると続きがあるのだからベルンフォードの食事は良かったのかも」

 「ハアーーー」

 みんな溜息がでてしまった。


 「じん、大きな溜息をしているけど、目の前でおきているもっとショッキングな事が見えるわよ。

 これから私たちが直面する一番の問題ね」

 「なんだよ、瞳そんなのがあるのか」

 仁は目の前の大通りをみた。


 向かい側の大通りにリヤカーのような車に荷を乗せ運んでいる獣人が見えたのだ。

 狸の獣人が狐の獣人を使いリヤカーを引かせている。

 それも車輪が外れていて動かせない様子が見える。 


 リヤカーを引っ張っている狐の獣人はボロをまとっている。

 いわゆる奴隷だ。

 ボロをまとい首輪をつけている狐の獣人が5人、その中には幼い3人の獣人が居る。


 狸の獣人は鞭を持って動かないリヤカーを早く動かせと狐の獣人を叩いているのだ。

 叩いている狸の獣人はドラクエの商人のような恰好をしている。

 もう一人、狸の獣人がいて魔法使いのような恰好をして、腕を組んで見ているのだ。


 「奴隷の事だな。

 実際に目の前でみて見ると嫌な気分になる。

 あの車どう考えても動かないだろう。

 それを鞭で叩いて動かそうとしてやがる。

 あの狸の獣人、気にくわん」

 「仁、声が大きいわ、まわりにも聞こえるよ」

 「大丈夫だ。

 俺の異能で、店内では話声を聞こえなくしてあるからな。

 ここで何を言っても聞こえはしない」

 「えぇ、そうなの? 

 〇○○とか〇〇〇○○とか大きな声を出しても聞こえないのね。 

 それじゃ大きな声で言っていいかしら」

 「これ、かおり、店の人たちには聞こえないけど、私たちには聞こえているのよ。

 放送禁止になるような言葉を平気で言わないでよね。

 恥ずかしいたらありゃしない」

 「そうだったの、しらなかったわ。

 めんご、めんご」

 「香の事はほうっておきましょう」

 「仁の能力って音を消す能力だよね」

 「そんな事ができるんだ」

 「あぁ、どちらかと言うと対人戦闘向き仕様なのだがな」

 「? 

 どうして対人戦闘向きなの、おかしな話よね」

 「俺の異能を受けて見ればわかるよ」

 「試しに、瞳と香と杏に体験してもらおうか」

 「えぇ、いいよ」 

 「どんとこいさ」

 仁は瞳と香と杏に能力を使った。


 ? 

 音が一斉、聞こえない。

 声を出しているのにまったく聞こえないのだ。


 3分くらいしてから、瞳たちは挙動不審になりもがきはじめた。


 「…… …… ……」


 「そろそろ良いかな。

 音のない世界に突然いったのだ。

 パニック起こしてしまうだろう」

 仁んは瞳たちにかけていた能力を解く。


 「ぜいぜい、ぜいぜい。

 何なのよあれは」

 「怖かった、自分の声をだしても聞こえず、何もかもが聞こえないんですもの」

 「音がない世界って怖いわね。

 精神がどおにかなりそうだったわ」

 「おいおい、俺は5分程度しか音を消していないぜ」

 「そうなの?

 もっと時間が経っていた気がするわ」

 「まったく聞こえない、声も出してもつたえられないからどうにかなってしまうかと思ったわよ」

 「だろうな。

 今まで聞こえた音がまったくなくなるのだからパニックを起こしてしまうだろう。

 自ら生み出す音も、まったく聞こえないんだ。

 頭でわかっても不安はつのるだろうな」

 「うんうん」

 「人間は視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚で、体で感じ触ったりして正確な情報を得ようとする。

 その一つ、音を完全に消したのだ。

 今まで聞こえていた音が突然なくなったのだ。

 おかしくなっても不思議ではない」

 「なるほど、だから対人戦闘用なのね。

 敵対する者の五感の一つを消しされば有利に戦える。

 そうなのね」

 「そう言う事だ。

 俺は祖父から古流武術を習っていた。

 この世界では武術家と言っていいだろう。

 俺の武術と組み合わせれば能力を存分に発揮できる。

 おまえらみたい特殊な異能ではないけど、俺にとっては結構使える能力なんだよな」

 「あなたの異能も特殊よ。

 音を完全に消しさるのですからね」

 「そうか、俺はおまえらの異能の方がかなりの特殊な能力だと思っているのだが、使い方によってか。

 使いこなせればどんな能力でもすごいってことだろうな」

 「そうね。

 仁くんの異能も特別な異能だわ」

 「おまえらに、そう言ってもらえると嬉しいぜ。

 しかし、瞳が言っていた問題の一つが目の前の奴隷だよな」

 「えぇ、それも従属の魔法を使って奴隷にしているのよ」

 「目を凝らし魔法の流れをみて見ると、狐の獣人の右肩と首輪に異様な赤黒い炎のような魔力が見えるな。

 呪いのようにも見える。

 それも後ろにいる狸の魔法使いと繋がっているのか?

 俺にはこんなふうに見えるがおまえたちはどう見えるのだ」

 「私にも同じように見えるわ」

 「私も」

 「本当に呪いって感じね」

 「魔法使いが縛っているのね。

 気味がわるいわ」

 「えぇ、そうよ私たちが直面する奴隷、それも魔法で縛る従属の魔法の事よ」

 「あんな魔法にかかったら大変だわ」

 「厄介な魔法ね。

 対応策を考えないといけないわ」

 「そう言う事よ」

 「しかし、酷いわね。

 あの狸の獣人、車輪が壊れて止まっているのに動かそうとまだしているわ。

 無理だとわかっているでしょう。

 あんなに鞭で叩いているのですからね」

 「いくら5人でもあれでは動かせないわ」

 「そうね、これが現実で目の前で起きている光景なのよね」

 「……」

 「純くん、お願いがあるのだけどいいかな」

 「なんですか、瞳さん」

 「汚れ役をかってくれないかな」

 「?」

 「嫌だったらいいのだけど」

 「汚れ役とはなんですか」

 「純くんの異能だったらあの従属させている魔法を消せると思うのだけど……」

 「確かに消せると思う。

 しかし、そんな事をしたら……」

 「わかっているわ。

 でも、どうなるか見て見たいの。

 この大陸でいえこの世界で起きている現状を目の前で確認できる。

 私たちが認識しなくてはいけない事だわ」

 「……」

 「ベルンフォードがまだ治安が良いと言われるゆえんが目の前で見れる。

 そしてこんなに多く混じっている異種族がどのような対応を見せるのかをね。

 ごめん、言い過ぎたわ。

 純くん、やっぱりやらなくていいわよ」

 「瞳さん、僕の異能で従属の魔法が解けるか試してみようと思う。

 これから必要な事かもしれない。

 僕の異能が通用するかでこれからの行方が大きく変わると思う。

 でも、能力が通用して解けた後の結果はどうなるか予想はできる」

 「えぇ、そうね。

 あの狐の獣人の目を見れば誰でもわかる。

 奴隷として縛っている者を憎んでいる眼だわ」

 「瞳さん、異能を使うよ」

 「ごめんね、純くん。

 みんな一応、臨戦態勢をとっておいて、こちらに襲いかかって来たときは手を出してもいいけどそれ以外は放置して。

 どうなるのかを見なくてはいけない」

 「わかったわ、瞳」

 「いきなり、ヘビーな事をやらかすな」

 「しかし、現実を受け止めなくてはいけないわ」

 「純くんの能力が従属の魔法に通用するかで大きく私たちの運命は変わるよね」

 「そうね、通用するかしないかでは対応がまるで違う」

 純んは向かい側の大通りにいる奴隷の狐の獣人5人に対して従属魔法の消滅を試みた。


 純の能力が狐の獣人にかかり従属魔法が消え去る。


 消え去ったと同時に後ろにいた狸の魔法使いから赤黒い炎が吹き出て体が包まれた。

 炎は狸の獣人を焼かずに体内にとりこまれるように入っていき消えてしまう。

 消えたと同時に狸の獣人の魔法使いは、血を吐いて倒れ死んでしまった。


 狸の獣人の商人は狐の獣人を叩くのをやめ、仲間の魔法使いを心配している。

 その時に狐の獣人の首輪が崩れ落ちたのが見えた。


 狐の獣人は従属魔法が解けたのがわかったのか、主人である狸の獣人に襲い掛かった。


 狸の獣人を殴りつける。

 殴りつけ這いつくばった時に腰につけていたナイフが落ちた。

 ナイフを拾い馬乗りになって狸の獣人を何度も突き刺した。


 「キャー」

 突きさしている様子を見て、道行く人は悲鳴をあげる。

 

 しかし、まわりの住人も通行人も誰も止める様子もない。

 完全に死んだ事を狐の獣人は確認して、唾をはきかけた。


 5人の狐の獣人たちはリヤカーにあった荷物を持てるだけ持って逃走して行く。


 純もここまでは予想ができていたので、顔を下に俯き苦い顔をしていた。

 しかし、これでは終わらなかった。


 まわりで見ていた住人が集まり、リヤカーに残っていた荷物を盗み始めた。

 死んでいる狸の獣人の血で汚れた服まで剥ぎ取っていったのだ。


 最後に残っていたリヤカーも目の前の雑貨店の店主らしい人が店員を使い無理に店の奥に持っていってしまったのだ。


 わずか5分もたたずに住民がおこなった犯行だった。


 「マジかよ。

 通行人がいるんだぜ。

 その前で住民が平気でこんな事をできるのか。

 いや通行人も盗んでいったのか」

 「どうやらそのようね」

 しばらくしてから獣人の衛兵が6人ほどやってきた。


 兜で顔を覆わられているが口元が犬のように前に出ている。

 犬系の獣人だろう。


 兜に大きな赤い羽根のつけている人が衛兵の隊長だろうか、顎に手をおいて死体を確認をしている。

 いきなり死んでいる狸の獣人を蹴飛ばしたのだ。

 どうやら死んでいるのか確かめたらしい。


 死んでいるのを確認して、連れて来た部下の衛兵に死体の処理をまかせて帰って行った。

 衛兵は引きずって狸の獣人の死体をどこかに運んで行く。

 そのあとは普通に何事もなく人々は行きかっているのだ。


 向かい合う料理店のテラスで見ていたクラスメート12人は唖然あぜんとしてしまった。


 「どうなっているんだこの国は、衛兵が仕事をしていないぞ」

 「ベルンフォードでも物取りの似たような殺傷事件はあったが、住民が死体をあさって略奪をしなかったと思う」

 「ここまで酷いことはなかったと思うわ。

 でもそれは私たちにしらないだけで、もしかしたらあったのかもしれないけど……」

 「確かに、いや、さすがにここまでは酷くはなかったはずだ。

 衛兵が住民に犯人の聞き込み等はやっていたからな。

 形だけでも仕事らしい事をしていたのは見たぞ。

 それを一斉してないじゃないか」

 「これは事件ではないの?

 日常で普通にある事なのかな?」

 「それはわからないけど、私たちがベルンフォードでいた常識は通用しない。

 まして日本での常識はまったく意味がないわね」

 「とんでもないところへ来てしまったようね。

 この大陸での生き方をあらためて考えなくてはいけないわ」

 「えぇ、国が違えば常識が違う。

 けどこの国は私たちの常識で考えつかない事が多くありそうだわ。

 異種族が多く行きかう港町。

 常識が一人ひとりまったく異なる考えを持っているのね」

 瞳たちは今日の光景を胸に刻むのだった。

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