第29話 ホームシックでネガティブキャンペーン
ふぅ、気持ちが良いな。
春先の暖かな光が体に降り注いでいるようだ。
岩場の巣穴の外で、先日に助けたローパーの娘さんとともに日向ぼっこをしている。
外回りを見れば私と同じように岩場を背にかけ日にあたって休んでいるローパーがいるのだ。
日がさしている時は、必ずと言ってよいほど巣穴から出て日向ぼっこしている。
体が熱くなると巣穴に戻って一休み、出入りを繰り返しているのだ。と言うかローパーって食って休んでいるしかしていないのだけど私ってどんな生き物なんだよ。
日焼けはしない。白っぽい肌色のままなんだよな、イメージのチェンジを決めてガングロになっても良さそうだけど日焼けにならないのか残念だ。
イメチェンをしたかったら狂戦士モードで灰色に変わるしかないみたいだ。
一応、これでもダンジョンを守る防衛兵器の役割を持っているんだぞ、平和な時は食っちゃ寝のニートだけど、やる時はやるんだから、しかしここへ来て新たに日向ぼっこが追加された事でニート感が増した気がしてくる。
ここにいるローパーは私が居たダンジョンと同じ種族だと考えて良いだろう。
過去になんらかの理由で転移されて来たか誰かに持ち込まれて野生にかえったのだろう。
共通する部分が多くあるが能力的にかなり劣化しているみたいだ。
見た目私と同じ凶悪に見えるのだが、それとは対照的に結構温和な生き物なんだよ。
あくまで視感だけど、仲間内では争いはおこさないし、食料調達以外でむやみに生き物を襲ったりはしない。
腹が減れば機嫌が悪くなるのも同じだが、おなかが膨れれば大人しいもんだよ。
大人しいと言うかそのまま動かないでじっと休んでいるだけなんだけど……
それにレディーファーストはここでも変わらないみたいだ。意外に紳士的なんだよね。
言い換えると尻に引かれていると言う事もあるけど、母ちゃんを立てれば家庭が円満にまわると言うのが私の前世での経験だからレディーファーストで良いと思っている。
おやじはそんな人だったな、母親に怒鳴ったり、文句を言っていた事一度も聞いたことがない、けんかする事も一度も見たことがなかった。
そんな温和な家庭で育ったから、女性に対して強く言ったり出来ない性格になってしまったのかな、ローパーになってはじめて彼女を怒った時も勇気がいったから、女性の相手はどんな姿になっても難しいと感じられる。
そう言えばここでの食べ物の問題はなんとかなりそうだ。おおぐらいの私が一番気にしていた事だったが、十分足りるほどの草や木が生えそろっている。
この星は自然が豊かで食料になるものが多く見かけられる。
もともと何でも食べる雑食の生き物だが食べられる物が豊富にあって助かった。
特に植物が多いので好きな私は嬉しい限りだ。
生き物を襲ってでも食料を確保する必要はなさそうなのでその点は良い事だね。
岩場周りに生い茂っている草原の草や、腐り落ちた大木などを食べていれば十分みたいだし、それに成長速度が早いのだ。
私が居ても問題なく(食料は間にあいそうなんだよね。
それにここではあまり腹が減らない。動かないし戦闘もせず魔法も使わないから余計なエネルギーは消費しないんだ。
今のところ10日に一度腹いっぱい食べれば間に合ってしまう。
なんて燃費がいい生き物なんだと思っているよ、ダンジョンは過酷な環境だったから、常に戦っていてエネルギーを消費が激しかったんだろうな、あれだけ動けば腹が減るのも当然か、ここではそんな事はなさそうなので平和に過ごし迎えが来るのを待つことにする。
私の隣で日向ぼっこしているローパーの娘さんは、ずいぶんときゃしゃな体格をしている。
他のローパーも同じようで、私より二回り以上小さい、触手の本数も少ない。
魔核もピンポン玉くらいの大きさしかないし、バスケットボールくらいある私とは大きな違いだ。
逃げ出して捕まってから改造されて、魔核がだいぶ大きく造り替えられたんだよな。
詩織さんは強さを増強したとか言っていたが、その時に魔核のことをコアジェネレーターとか言っていた。
その話方だとロボットアニメとかで見る戦闘兵器に組み込んでいるエンジンとか想像できるので物騒な感じがする。
もともと生物兵器だから物騒なのは確かなのはわかるけどカッコいいロボットだったら良かったなと思えてくるよ。
ここにいるローパーははっきり言って弱いと思う。私の主観で人間で言うと中堅クラスの冒険者一人と同とうの戦力しかないだろう。
劣化してしまっている? 野生に戻るとローパーって弱くなってしまうのか、さすがに機械もメンテナンスもなしで放置し続ければ壊れるし、生物兵器も劣化すると言う事だな、そう考えるとここにいれば私もいずれ劣化して弱くなっていく定めが見えてくるかもしれない。
平和に過ごせればそれはそれでいいかもしれないな。
しかし、ローパーって本当に食って休んでいるしかやっていないんだよ、否、野生の生物ってこんな感じだと思うのだけど自然の摂理にあっては良いはずだよな。
私も自然にとけこまなくては、余計な面倒事を起こさない事は自然にかえってとけこんで過ごしていれば問題ないはずだと思われる。
そのためにここにいるローパーを見習って日向ぼっこでもしていよう。
そういえば私には自我があるのになぜローパーと同じ行動をとってしまうのだろう?
もしかして行動パターンが設定してあるとか?
自我があり知能があるものが居れば何かしら物を作ったり文明とか発展させていくのではないかな、私にはそんなつもりはさらさらないしおかしな事にそんな気持ちも湧いてこないんだよ。
あれれおかしい? なんかおかしくないかい。
本当に行動パターンが組み込まれているのではないのか、ゲームで言うNPCモンスターみたいに同じ行動を繰り返す事になっているの?
ダンジョンではモンスターが倒されれば一定の数に合わせてリポップするみたいだし、私も同様だよね?
それとも生き物の習性ってやつ? 習性ってもしかして設定として組み込まれているものなのか?
自我があるのに習性と言う設定通りに動かされているの? 実際に私は詩織さんに誓約をつけられているのだけどどこまで自分の意志で行動できるのかわからんしな。
転生して自我があっても誓約を付けられてしまえば好きな行動できなくてふびんな事だよな、今になって気づいてくるとは私ってバカなやつだとつくづく思う。
そう言えば私の転生を知ったせいで、詩織さんが新たに研究をしている魂の循環の研究を本格的に始めているみたいだね。
前から研究はされていたみたいだけど、完全な記憶の引継ぎがあることは知らなかったみたいだからね。
捕まって実験台にされたのかわからないが、ダンジョンに戻された時に『可能性が見えてきた』と詩織さんが言っていたけど可能性って何のことだろう。
そのせいで詩織さんはひきこもりになってしまった。いやもともとひきこもりだったのかな?
研究などとっとと終わらせて、私の事を迎えに来てもらいたいと思う次第だよまったく。
…… …… ……
ローパーの集落に行きついてから今日で20日目か、この20日間はなにもなく平和そのものだった。しかしホームシックにかかってしまいネガティブな事を考える毎日になってきた。
20日もなにもしないでじっとここに居た。出歩きもしなかったのでこの星の事が何もわかっていない。
わかった事は、この星の時間の長さはあきらかに元の居た世界より長いくらいだ。
1日が30時間ほどあると断定できる。体が軽く、重力が低く半分も満たないと感じられる。
魔法とか異能も使え元居た世界と比べてほぼ同じような環境の世界みたいだ。
その程度しかわかっていない。情報が全く足りずにいるのだが憂鬱でなにもしたくないんだよ。
つい時間があるのでたわいのない事をいろいろ考えてしまう。
私がローパーに生まれ変わってどのくらいの時間がたったのかが今になって気になる。歳はいくつになるのだろう。
ローパーになってどのくらい生きているのか何故か気になるのだ。
どのくらい生きられる? 生きていていいのかな? いつ死ねるのかな? とか思ってしまうんだ。
しばらくはローパーのままでいるけど、このままずっといてはいけないよな。
まずは死ぬことが許されるのかわからない。
詩織さんがいる未来の時代では電脳世界で記憶そのものをデータにすることができるようだ。
記憶が復元が出来る見たいなので死ぬことが難しくなっているらしい。
記憶の復元できるとはね、でも死んで記憶を復元して戻しても、元の本人だろうか?
そこが理解しがたいんだよな。
死んでも別のバックアップから新たに作り直すのでは別人じゃないの?
新たに造られた人造人間じゃないのかな? そこのところが理解出来ないんだよね。
私の記憶がバックアップを取ってあれば死んだ時も生き返らせそうで怖いんだけど、でもそれって同じ私になるのか?
こればかりは実際に経験して見ないとわからないのかもしれない。
詩織さんはとてつもなく長い時間を生きているみたいだけどやはり死ねない事になっているの?
どのくらい生きているのだろう。
歳の事は怖くて聞けないな。
寿命がない神に近い超得者、それに造られた私ってなんなの? とりあえず今からどのくらい生きて見たいか考えて見るか、このままローパーのままで生きるのもふびんすぎるよね。
ダンジョンに居た時と違い、日が登って落ちるのがわかるから今からでも歳をはかろう。
地球の計算でいいだろう。
とりあえず27年くらいローパーのままで生きてみよう。
人間の時は27歳で死んだしそれだけ生きれば十分だよな、その方向で生きる算段でもつけようか。
一か八か死んで転生ができるか試してみるのも良いか、死ねる方法は簡単にあるのだが今は怖くて実行はできない。
やり方はとても簡単にできるんだよね。
私の最強の魔法ブラックホールを使って穴にダイブすれば簡単に自爆して死ねるだろう。
しかし万が一それでも死ねないと言う可能性もあるから。
私の魔核が頑丈に造られているかで生死が決まる。
さすがに超重力の空間に入れば粉々に砕けちりも跡形も残さず消えると思う。でっかい亀さんも簡単に逝ってしまったからね。
死んで新しく違う道へいった方がいいように感じるけど、なぜか理由はないのだが、死にたくないのだよ。
生物の本能と言って良いのか、死ぬ事を望んでいても本能でじゃまをして出来ない。
死んでも転生できる訳でもないし、そのまま消滅、でもローパーでいるよりは良いのか? どうなんだろう。
まったくおかしなことになってしまっているよな今回の転生は……
うむ、時間があり、暇すぎて余計な事を考えてしまう。
ホームシックにかかっているからネガティブな考えがいくつもでてくるよ……
ダンジョンにいる時よりも自由に行動はできるんだけどモンスターの姿だから自由にはなれないしな。
そう、そこだ、そこが一番の問題なんだ。モンスターの姿ではなく人間だったら生きる喜びがわかりあえるんだよ。
生きる喜びがほしいんだ。でもローパーの姿だと駄目なんだよ。
シューティングゲートは私も人間に変身できるみたいな事を言っていたけど、詩織さんが管理者権限で誓約がついて出来なくしていると言っていた。
元は人間だったのだから変身できるようにしてくれても良いじゃないか、もしかしてあの時、逃亡したのがまずかったか、それで不信をかったのかも知れない。
それが原因だと思うと今になって悔やまれる。
どの道、あの時は後から捕まるのは予想はできていたんだ。
でもね奇麗なエルフのお姉さんが居ると聞いてしまったら会いに行きたいと思うのが男のサガではないか、でも結果は大失敗したんだよ。
まっ、良いか、思っていてもも何も変わらないし……
とりあえず今は暖かくて気持ち良いのでしばらくはこのまま過ごそう。
迎えが来るまでどうにもならないし、時間はあるからこれからの事を自分を見つめて考えて見るのも良いだろう。
自分を見つめるだけで終わってしまうのがいつもの事だけど、やはりここは大人しく迎えを来るのを待っているしかないみたいだ。




