第28話 眠り姫
「殿下、ジークフリード殿下」
女騎士が速足で駆け寄り、ジークフリードに声をかける。
「騒々しいな、クリスティーナ近衛隊長、なにかあったのか、私は忙しいのだが」
「姫さまが、アルテイシア姫さまがお目覚めになりました」
「なに、それは本当の事か」
「はい、姫さまが殿下の事をお呼びです。至急部屋まで来てください」
「わかった、今すぐいく案内しろ」
「こちらへどうぞ」
ジークフリードは急ぎ眠り姫状態だったアルテイシア姫の元へ向かう。
眠りについてからすでに18日は経過しているのだ。
「姉さま、アルテイシア姉さま」
「ジーク、そう大きな声を出さないでくださいな」
大きな涙粒を眼にためジークはアルテイシア姫に近づく。
「アルテイシア姉さま、お目覚めになられたのですね、良かった、本当に良かったです」
「心配をかけましたねジーク、私は大丈夫ですよ」
アルテイシア姫は優しそうな声でジークフリードに声をかけた。
しかし、右手に巻いてある包帯を左手で隠すそぶりをして気を病んでいる顔をのぞかせる。
「姉さま、その右手のあざは」
ジークはうつむきながら気まずそうに話す。
「ジーク気にしないで下さい。これはあざではない事は私が良くわかっております」
「しかし、しかしながら」
「これは私がおこなった禁呪、召喚魔法の失敗から招いた事です。神罰がくだされたのでしょう。
神が許さざれる行為おこなった事でお怒りになり、あのような邪悪な魔物を引き寄せてしまった。
その代償、私への罰なのです。紳士に受け止めなければなりません」
「アルテイシア姉さま」
「そんな事よりもジーク、私が召喚してしまった魔物がどうなったのか教えてくださらない?
それと今の国勢の状況を知りたいわ、給仕の者達に誰に聞いてもわからないと答えられてしまいましてね、困っていたところですよ。
ジークあなただったらおわかりでしょう。教えてくださらないかしら」
「わかりました、姉さま。
今、ザンブグルム国内で起きている現状を話しましょう。
ザンブグルム魔導王国は、いえ世界全体は大変な状況におかれております」
「私が召喚した魔物が何か良くない出来事をおこしたのでしょうか?」
「その事なんですが召喚された魔物は現在捜索中でして、北方面に逃げ去ったとしかわかっておりません」
「そうなのですか、北と言うと亜人や魔物が多く生息する魔の大森林ですよね」
「そうですが何か思うところがあるのですか?」
「あの醜い魔物が逃げ去った過程で良くない事件をおこし、被害があったのか気がかりで仕方がありません。
ジーク、教えてください。被害はでてしまったのでしょうか?」
「姉さま、ご心配しなくとも、私が聞いている情報ではあの魔物が事件をおこしたと言う話は聞いておりません。
あの魔物に関してわかっていないことばかりなのです。
ファング帝国の事もあり情報が混乱していまして、今は何ともいえません。
調査はしていますのでわかり次第ご報告したいと思います」
「そうでしたね、ファング帝国との戦争中でしたね。
余計な事を聞いてしまい悪い事をしました」
「そんな事は御座いませんよ。
私こそ姉さまがお気になさることが感知できず、気がまわらなくて恥ずかしいかぎりです。
あの魔物の事は即急に調査しますのでご安心ください」
「ありがとう、ジークは優しいのね」
「姉さま」
「この国の現状はどうですか、ファング帝国との戦争はどうなりましたか?」
「ファング帝国との戦争ですが、われわれの力で見事に撃退し勝利しました」
「良かった、勝利したのですね。ジークおめでとう、嬉しいかぎりです」
「姉さま、お褒めを戴いて有難うございます。しかしながら残念なお話も耳に入れなければなりません。
今回の戦争で多くの犠牲者が出ました。
中でも私たちが契約していた2体の強竜を失ったのは大きいです」
「あの金竜ブライン・ガイゼンと青竜アクア・スミスが倒されたのですか?
信じられませんそれほど過酷な戦いだったのですね」
「いえ、それはちょっと違いますが・・・
青竜アクア・スミスはファング帝国の兵に寄って倒されたようですが、金竜ブライン・ガイゼンは私のミスによりたもとを失ったと言うしか言いようがないです。
これは私の落ち度でどうおわびしたらいいのかわかりません。
金竜ブライン・ガイゼンをよりによって敵にまわしザンブグルムから去らせてしまったのです。
内情は恥ずかしくて姉さまにはとても言えません」
「何か事情がおありのようですね。
詳しい事は聞かないでおきましょう。戦時中だったのです何があってもおかしくない事態に陥ると思います。
金竜ブライン・ガイゼンがこの国から去ってしまったのは残念ですがあなたが気に病むことはないですよ」
「お気遣い、有難う御座います、姉さま」
「他になにかあったのかしら」
「それがファング帝国との戦争の事よりも重大な件が2つありまして、その件について姉上様にお知恵をお借りしたいと思っていたところです。
相談にのってもらえませんでしょうか」
「戦争より重大で私の知恵をかりたいとは、よほどの事が起きたのですね」
「はい、まず1つ目の件はミスティリア大陸に住まう魔神獣ガイデアが消失してしまった事件です」
「なんですって、魔神獣ガイデアが消失・・・ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」
「姉さま、大丈夫ですか」
「私は大丈夫です。それよりもお話を続けてください。
魔神獣ガイデアの消失したと言う事は本当なのですか?」
「はい、調査しました結果、間違いなくミスティリア大陸からいなくなっております。
それも従えている魔物、魔の砂漠であるサンドワームも姿を消しておりました。
それにやつに従っていた獣人界のいけにえの森に住まう魔雷獣ブロストもいなくなったと言ううわさが流れております。
ブロストは獣人界にあるいけにえの森に生息しているのでわれわれには調べるのが困難ですが、あくまでうわさ話ていなくなったと聞いております」
「本当の事でしょうか?」
「魔雷獣ブロストの真相はわかりませんが、魔神獣ガイデアはどこにもいない事は確かです」
「! もしかして私が召喚したあの魔物のせいなのでしょうか?どう思いますかジーク」
「それがなんとも言えません。あの魔物は北に向かったと言う話しか聞いていませんので、アバンストが獣人を使って追わせていたのですがその獣人も消息がつかめません。
仮にあの魔物がガイデアと争ったならば何らかの戦いの痕跡が残っているはずです。
ガイデアが座していた岩場に崩れた後があり、目覚めて動き出した形跡はあったようですが、戦闘の形跡はありませんでした。
魔神獣ガイデアが暴れだしたならば、大地は焼かれ大きな被害の爪痕が残るでしょう。
人間界、獣人界どちらも被害がもたらされたと思います」
「確かにそのとおりですね、でも突然にいなくなってしまう、そんな事があり得るのですか?」
「私にもわかりません。消えたのかいなくなったのかわかりませんがミスティリア大陸のどこにもいないのは確かなようです」
「それでは今この国はいえ人間界は大変な事になっていますのね。
敵対していた獣人、亜人の進攻があるのかもしれません。
もしかしたらもう争いが始まっているのでしょうか?」
「その話なのですが、すでに獣人界に近くにあったゴルゴダの街が獣人たちによって攻め落とされております。
住民は一人も残さず惨殺され街は焼き払われたと報告がありました。
生存者は1人もいなかったと言う話です」
「生存者は一人もいないそんな事が、ひどいひどすぎます。獣人は何という悪行をやってしまったのでしょうか、到底許せません」
「ゴルゴダの領主であったスピリッツ殿もファング帝国との戦争の援軍でこちらに来ていましたがそのすきをつかれ襲撃を受けたようです」
「そうだったのですか」
「スピリッツ殿は襲撃があったと話を聞いて、驚きのあまりに心臓発作を起こし亡くなったと聞き及んでいます。
奥方様や一人息子の安否を気になさってうろたえていたとの話です。
援軍にも駆け付けられなくてさぞ無念だったでしょう」
「スピリッツ様まで、それではザンブグルム魔導王国は獣人達の進攻が始まっていますのね」
「いえ、それがおかしな事にゴルゴダの街以外、獣人たちの進攻はおきていないのですよ。
おそらくですが獣人たちはもう一つの世の中に起こっている異常さに気付き手を出せないでいるのだと私は思っています」
「もう一つの異常な出来事?」
「そうです。いえもしかしたらそれだけではありません。
獣人たちも私たちが知らないだけでなにかあったのではないかと思っております」
「それはどのような異常な事なのでしょう」
「これはガイデアが消失した事よりも深刻な事態です。
姉さま、心を落ちつかせて聞いてください。」
「心して聞きましょう」
「この世界を守護しています神、光輝神が消え去ってしまったと言う事です」
「なんですって」
「魔神獣ガイデアと同じように突然消失してしまったと言う話です」
「神が消失、そんな恐れおおい事があるのでしょうか?」
「世界の異変に気付いた3女神の光輝神が地上へ降臨したらしいのですが、光翼教会本部の幹部の目の前で、絶叫をあげながら光の球となり消え去ったと話は聞いております」
「うそのような話ですね」
「その一件からすべての光翼教会で神との交信が出来なくなってしまったと話は聞いております」
「……」
「そのせいで光翼教会は全世界規模で大変な状況に陥っているようです。
特に信仰が深かったリグロード大陸では暴動迄発する混乱に陥っているようです。
わが国の光翼教会でも混乱は続いています。
信仰が低かったせいで神がお隠れになったと言う話を耳にします」
「信仰が低いせいで神がお隠れになったとはなんとも言い難い話ですね、そのような事があるはずがないのに」
「教会の維持のためにそんなうわさを流したのでしょう。
信徒が天に向かいあって祈りとざんげをしている光景が街中でも見かけます。
城の中でも祈りをささげている信者もいるほどですよ、早くお戻りになってくださいとね、嫌になりますね」
「そこまでですか」
「少しでも信者の不安を取り除きたいのでしょう。
いや不安を逆手に取って人心を誘導しているのでしょうか、権力者が都合が悪くなった時に使う手法ですね。
都合の悪い話になると関係のない話をして逸らす、話そもそもをすり替えてうやむやにしてしまう。
恐怖をわざとあおり同じ方向へ誘導する。
話の逆手に取って相手をおとしめる事など、話術のうまい権力者がやる上とうの手段の一つですから。
この混乱に乗じて教会内の権力を握りたい者がいるのではないでしょうか」
「……」
「今はどこでも不安が増して疑心暗鬼の状態に陥っています。
わがザンブグルム魔導王国でも、国王の父上がひきこもってしまい、私が国王代理として内政、軍部を統括をまかせられている始末ですよ。
援軍に来た兄上たちも会議で話を聞いて、すぐに自身が治める領地へ戻りました。
現在統治している領地の守りを固めるとの方針です。
兄上たちは王位継承権を破棄しこの国を私に任せると言う事がすでに会議で決まっております。
あれほど兄上たちは王位を狙っていたのに簡単に手放したのですよ。
父上はそれを嫌って遠ざけていたのに、国の行く末が危ぶまれる時に王位を継承するかも知れないのですから、ふびんな者ですね私は……
長生きは出来そうにもないですね、平和な時代に戴いておきたかった。
まあ、そんな事は兄上たちが許すはずもないと思いますが……」
「ジーク、そんな話になっていたのですか」
「こんな時なのに、私の片腕だったアバントスも失ってしまいました。
今まさに彼の力が必要だと言うのに……」
「アバントス、アバントス様が戦争でお亡くなりになったのですか?」
「戦死はしていません。ファング帝国との戦争が終結してから、家で休みを取らせている間に突然、体から炎が噴き出し包まれて亡くなったと聞いています。
親族からの伝言がありました」
「突然炎に包まれて死ぬなんてあり得ることなのでしょうか?」
「今まででしたらあり得なかったでしょうね。
これからはどうなのでしょう」
「……」
「異常です。この国、いえ世界全体で私たちが知らない摩訶不思議な力で異常事態が起こっているのですよ。
……相談していただいたと言うのに愚痴を聞いてもらう事になってしまいましたね、姉さま、申し訳ご座いません」
「別に良いのですよ、ジーク」
「姉さま、あなたの身にも大変な事が起こっていますが、私に、私に力を貸してもらえませんでしょうか。
こんな時に言うのはおかしいと思いますが、私一人では到底この困難に立ち向かうことができません」
「わかりましたジーク、私の力で良ければおよばずながら力をかしたいと思います」
「有難う姉さま、力をお借りします」
…… …… ……
不可思議の力で異常事態が起きているのではない。起こした本人も知らずに自覚もしていないのだから。
元凶の本人は自然にかえり大人しく迎えが来るのを待っていようと思っている次第だ。




