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第2の扉:開かれた扉





 大広間、というのだろうか。

 薔薇やカボチャ、蝙蝠をモチーフにした黒い装飾の数々が、住人たちの心を躍らせる。

 そこには、いかにも貴族らしい紳士や着飾った貴婦人、骨だけのような細身のシルクハット、包帯づくめの魔術師、実にさまざまな形相の者たちが集まっていた。



 特別に用意されたのであろう、艶やかな漆黒のテーブル上には、七面鳥やスープ、キャンディ、ワインなどが豪勢に並べられていた。

 奥でパイプオルガンを奏でる男を、燭台が(ほの)かに映しだしている。



「どうです、ネル先生」

 燭台片手に執事は胸を張って、得意気に彼を見た。

 ネルは、無理やり着替えさせられた舞踏会用の紳士服が気に入らないらしく、()ねている様子だ。

「興味ないね。ハロウィンなんか」

 そう言って、服に施された蝙蝠の装飾に手をやる。

「だいたい僕のポリシーは、薔薇なんだ。蝙蝠なんて、似合わないよ」

「おや、お気に召されませんか?」



 そう気遣いながらも、執事の声は(たの)しそうだった。彼の視線は、軽やかな舞踏に注がれている。

 目の前に繰り広げられる優雅な輪舞(ロンド)、即興的な演奏は、見るものを惹きつける何かがあった。

 それは、彼らに漂う悲愴なのか、乱れることない繊細な動きなのか、華やかな装飾なのか、ネルにはよく分からなかった。

 舞踏会なんて、──お遊びだ。

 ネルはずっとそう思っていた。



「貴方様はまだ、舞踏会の意義をわかっていらっしゃらないようですね」

 ネルの心を見透かしたように、横から静かな声がする。

 彼はぎょっとして、葬列に並ぶかのように沈んだ目をした執事を見た。しかし口元だけは、いつものように微笑んでいる。

 不気味だ、と思った。



 舞踏は休むことなく続いていき、輪舞曲から円舞曲へと自然に演奏が展開されていった。

 ゆったりとステップを踏む紳士たちを横目に、ネルは執事に向かって口を開いた。

「君は、何で僕を連れ出したんだ」

 隣にいる執事の身体が、ぴくりとする。

「ハロウィンだの、パーティーだの言って部屋から連れ出したのは、他に理由があるんだろう?」

 彼は最初から、この下らない催しものには何か裏があるに違いない、と踏んでいた。

 執事の反応からして、それは確信に変わる。



 しばらくの沈黙の後、執事はふっと笑みを浮かべて言った。

「……鋭いお方だ。舞踏に関しては、そうでもいらっしゃらないのに」

「余計なお世話だ!」

 間髪入れずにネルは言葉を挟む。

 腰に手をあててご立腹の彼に、執事はやれやれと肩をすくめた。

「まあ、それならば話は早いですね。芳しいお知らせではないので、後にしようと思ったのですが……」



 含んだ言い方をした後、急に執事は黙って歩きだした。

「お、おい!」

 ネルは彼の背後を追うように、小走りでついていった。途中で住人とぶつかりそうになり、頭を下げる。

 そのときにはまだ謝る余裕もあったから。







To be next door...

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