プロローグ:始まりの終焉
──時は十九世紀末。
西洋の一国に、ある没落貴族と、その取り巻きたちが棲む大きな邸があった。
邸には、正門から入口まで奇麗に大理石が牽かれ、周りには選りすぐりの薔薇が、建物を包みこむように咲いている。
ときおり、正装をした執事が、薔薇の手入れをしていた。
この邸の主は当時、とても親切で紳士的な人物として、多くの人に知られていた。
その名は、ヴェルベット=アプリコット。
元々は子爵という爵位を背負い、舞踏会や仮装パーティなどで他の貴族を超越した、優雅な才色を顕していた。
彼は日溜まりの庭園でパーティを開き、濃厚な薔薇の香りを楽しみながら、使用人たちとでさえ談笑を交わしあう人物だった。
彼の周りには常に、邸の住人たちが付きっきりだった。
幸せな表情が傍にあった。
旦那さま、お食事はいかがですか。ご一緒に出掛けられませんか。
誰もから、慕われている存在だった。
──一八九七年。
まもなく、十九世紀が終わりを迎える、その時までは。
「──さて、そろそろ閉めますか」
男は絨毯張りの廊下を歩きながら、ガラス越しに外を見た。夜明け前の薄暗い空間に、蝋燭の灯が、彼の影を描いている。
小さな光の粒が、ゆっくりと入り込んでくるのを、彼はいとおしそうに見つめた。 夜明け前に、彼は館にある全てのカーテンを閉め、燭台に灯をともす役割を担っている。
「さ、早く片付けなくては」
男は持っていた燭台を床に置き、フランス窓のカーテンをそっと引いた。
──To be next door...




