Episode8
「それでは! お集まり頂きありがとうございます! まずは、自己紹介から行きましょうか!」
それから数日経ったある日、山ノ川から作戦会議の日程と場所を知らされた俺とランカは、集会場へと赴いた。 山ノ川が気を利かせたのか、普段ならば人が来ない街の端に設置してある集会場だ。 俺もランカも人目は気にするタイプではないが、今ここに居る連中はそういうのに耐性がないのかもしれない。 狩りをメインにする奴らにとって何より大切なのは、人との繋がりだしな。
「えーではワタシから。 キャラクターネームは山ノ川、クラスは精霊師をやっております。 ステも援護メインで振っているので、強化系の精霊魔法は任せてくだされ」
山ノ川が立ち上がり言う。 こいつは唯一、精霊魔法での特殊援護を可能とするクラスか。 強さ的にはオークメイジ……と。 そして次に、山ノ川の横に座る人物が立ち上がった。
「あの、よ、よ、よろしくお願いしますッ!! わた、私はカラフルと申しますッ! 召喚士をやっておりますッ!」
第一印象は、忙しない奴だというものだった。 タレ目で、若干眠そうな顔をしている女だ。 こいつが、山ノ川が言っていた「引退する友達」か。 戦力にならなさそうな奴だな。 強さ的にはゴブリン……と。
「次は俺だな。 えーっと、俺はカイン。 クラスは見ての通り騎士だ。 壁役は任せとけ」
凛々しい顔立ちの男は立ち上がり、言った。 騎士、召喚士、精霊師。 それに俺が暗殺者で、ランカが呪術師。 バランスは悪くなさそうか。 まぁこの男はオークだな。
「はいはい! オレの番な! 今日はカラフルちゃんの引退式ってことで、遠路遥々ノーラムからやって来ました!! ヨロシク! あ、クラスは暗殺ね。 へへ。 ……あ、名前はトルトね」
調子が良さそうな、金髪の男はそう自己紹介をした。 ノーラムってことは、こいつあのくっそ寒いと言われている場所から来たのか……。 強さはスノーオークに分類しておこう。
『シンヤ』
直後、頭に声が響く。 俺にだけ聞こえる声は、ランカのものだ。
『あのトルトって男、グラグルトの奴だ』
……グラグルト? グラグルトと言えば、ノーラムにあった二大ギルド、グランダとグルトが合併した最大規模のギルドだ。 その一員が、この男なのか?
『肩鎧に入れてあるマーク。 交差した剣がグラグルトのエンブレム。 どうする? 厄介なことになるかもしれないよ』
確かに、グラグルトは規模は大きくてもPKギルドではない。 狩りギルドが集まりできた巨大ギルドだ。 中にはPKギルドを良く思っていない連中だって居てもおかしくはない。
『いや、問題ない。 ノーラムの攻城戦は今月だろ? 一番準備が忙しいこの時期にここまで歩いて来たってことは、どうせただの下っ端だ。 俺たちのことだって、まさかノーラムの方まで伝わってるとは思えない』
『……そ。 なら任せる。 けど、万が一のときは仕留めるからね』
『ああ、分かってるさ』
俺とランカが会話を終えた直後、低い声が響き渡る。
「俺か、俺はローレイフ。 騎士だ」
無愛想に、言葉数少なく言ったのは若い男の騎士。 寡黙そうな面持ちと、冷たい目を持つ男。 一見すれば、侍のような風貌だ。 そして、こいつは何かが違う気がした。
……そこらのボスよりも、強そうだな。
「んじゃ最後に俺たちだな。 俺はシンヤで、こいつがランカ。 神楽ってギルドの者だ」
「ほほ、皆も知ってるように、お二人とも少々名のある方たちですな。 PKギルドということですが、別段問題はありませぬ」
山ノ川が言うと、全員が頷く。 やけにあっさりなそれが、少し引っかかる。
「良いのか? 俺たちはプレイヤーキラーだぞ」
その空気が気になり、俺は全員に向けて問う。 すると、トルトが口を開いた。
「大丈夫っしょ? だって、PKギルドって言っても無闇にPK仕掛ける奴らでもねーじゃん? それなら問題なーし!」
頭の後ろで手を組んで、ニッと笑ってトルトは言った。
「はは、そうだな」
そんなトルトの言葉に、俺は笑って座る。
馬鹿だなぁ、こいつ。 何も分かっていない。 今回は大丈夫だったとしても、このMMO内には目的なくPKをする奴らだっているのに。 グラグルトってのは、こんな馬鹿たちの集まりなのか? それとも、こいつが特段馬鹿なだけか?
「シンヤ、と言ったか。 PKギルドということは、チケットを持っているのか?」
「ん、ああ。 まーな」
俺に聞いてきたのは、ローレイフ。 俺が返すと「そうか」と言い、腕組みをした。 この面子だと、このローレイフって奴が一番腕が立ちそうだな。
「で、ででではッ!! よ、よろしくお願いしますッ!! 絶対に、クリアしましょうね!」
最後にカラフルが立ち上がって言い、その場の空気は緩まった。 カラフルという奴が持っている独特の雰囲気が、こうして山ノ川やトルト、カインを集めているのだろう。 しかし、やはりローレイフという男は少し違うな。 カラフルのために来た……という感じを受けない。
「ほほ、では作戦会議を始めますかね。 まず、クエスト内容ですが――――――」
「待った待った。 その前に、カラフル。 引退するんだろ?」
「は、ははははいッ! ……じ、実は、海外へ行くことになりまして。 RMTで結構お金を貯められたので、海外で仕事を始めるんです」
俺の突然の言葉に、カラフルは少々怯えたような声で返事をする。 そうあからさまに怯えられると、俺としてもなんだか牙を抜かれるような気分だ。
「……その金は? 抜いたか?」
「い、いえ……まだですが」
こいつら……本当に、頭が痛くなりそうだ。 ランカはランカでさぞ楽しそうに笑っているし、お前からもなんか言ってやれと切実に思う。 危機意識ってのが皆無だ、こいつらは揃いも揃って。
「俺からひとつ忠告しとく。 クエストを受ける前にその金を十万だけ残して全部抜いておけ。 一度死んだら、その計画も全部吹っ飛ぶぞ」
「そ、そんな死ぬ危険のあるクエストなのですか……? 山ノ川さん」
「ちっげえよアホ。 PKに遭ったときの話をしてんだ、俺は。 もしも金を抜いて来なかったら、俺がお前を殺す。 覚えとけ」
「ひっ……! わ、わわわ分かりましたッ!! す、すぐに落としますッ!!」
カラフルは震えた声で言う。 それと同時に、キャラが若干ラグっている。 こいつ、こんなメンタルで今までよくやってこれたな……逆に凄いぞ。
「いやいやさすがにそれは警戒しすぎじゃない? だってさ、山さん。 今回のクエってダンジョン進行形なーんしょ?」
トルトは大袈裟なリアクションと共に、山ノ川へ尋ねる。 すると、山ノ川は頷き、言った。
「そうですな。 今回のクエスト「残剣の欲望」はダンジョン進行形のクエスト、つまりパーティメンバーのみが入場できるインスタンスダンジョンですな。 PKに遭う確率は、まずないと言っても良いかと」
……違う違う違う。 そうじゃねーんだって。 狩り専の奴ってのは、揃いも揃ってこうなのか? 頭痛がしてくるレベルだぞ。
「だから、俺とランカがPKをする可能性を考えとけって言ってんだ。 警戒するに越したことはない、そうだろ?」
「もう良いだろ。 金を抜きたい奴は抜いて、持っておきたい奴は持っておけば良い。 ま、俺は持っとくけどな。 もーちょいで百万超えるし」
カインが呆れたように言ったことで、トルトも山ノ川も、そして俺もそれ以上何も言わなかった。 結局はカインの言ったように、自己の自由でしかない。 ただし、それで金を失ったときは……全て、自己責任だ。 後悔してからでは、遅い。
そして、それからほどなくして会議は始まった。 出現モンスターの確認、それぞれの役割、ボスモンスターの確認、戦闘時の配置などなど。
クエスト開始は三日後。 外から得られるボスの情報は、あまり難易度の高いものとは思えなかった。