71. 冬支度 (1)
71話目です。
お待たせしました。(え?待ってない?・・・・・おおう)
昨夜、力いっぱい踏みつけるのは、それを望んでいる輩にだけに留めて、弱った男の子にはしないでくれと必死に説得された。
いや、それ以前に私に慰めを求める男の子は、そうはいないと思うけどな。
いるとしたら・・・・マイク兄とスイゲツくらい・・・かな?
でも、スイゲツにしたって本気で慰めを私にしてほしいとは思わないんじゃないかなぁ・・・。
やっぱり、慰められるなら、可愛いとか綺麗とかいい香りがする女性だと思うんだ。
9歳の時にマイク兄から学んだ事は、あの頃私の周りにいた屈強な冒険者たちへの対処法だからと。
確かにあの頃の私の踏みつけなど、彼らにはマッサージ程度にしか感じられなかったかもしれない。
納得した。
真実の弱った男の子の慰め方とは!などとを延々とマイク兄が語るので、ふむふむとおとなしく聞いていた。
次にマイク兄が”慰めて”と来た時のために覚えておこう。
出来るかどうかは、わからないけど。
なるほどと感心していたら、今伝授したことは、滅多なことではしてはいけないと真剣な顔で釘をさされた。
してもマイク兄ぐらいにしておけと。
他の輩には、頭を撫でる程度にしておけとも言っていた。
心配などする必要なんてないのに・・・変なところで過保護だな。
でも頭をナデナデされるのは嬉しいし、気持ちがほっこりするし、私も好きなので、分かったと素直に頷いておいた。
ロガリア学院祭が終わると、もう秋真っ只中です。
ぼやぼやしていると、すぐ冬がやってきてしまう。
冬といっても、北区に住んでいた私には、王都中央付近の冬はそれほどきつくはないけれど。
それでも、冬は冬である。
寒いものは寒いのだ。
冬支度を軽視していると、悲惨な目に合う。
最悪の場合死んでしまうかもしれないから、侮れない。
学院祭後、3日間のお休みを利用して、先に出来ることはしておく。
今は、先立つものが無ければ、必要なものを購入することが出来ないので、冒険者ギルドへ来ている。
出来れば、肉とか毛皮とか諸々確保出来る依頼があるといいな。
・西区 ホワイトシープ 羊毛 募集 受付期間中は 1頭分につき 大銀貨 2枚
・東区 コーラルシープ 羊毛 募集 受付期間中は 1頭分につき 大銀貨 2枚
・東区 ブラウンシープ 羊毛 募集 受付期間中は 1頭分につき 小銀貨 1枚
・レッドブル 肉 1頭分につき 小金貨 1枚~
・ブラウンブル 肉 1頭分につき 小金貨 1枚~
・ドーラ草、ビーダ草、マビーダ草 随時受付中 1束 大銅貨 1枚~
・南区 キラービー討伐 大量発生につき Dランク以上の冒険者5名募集
報酬・詳細はギルド受付まで。
Dランク用の依頼掲示版を見てみると、やっぱり冬支度関係の仕事が増えてきていた。
でも、終わりがいつになるかわからない、遠征系とか集団討伐は学生の私では出来ないのでそこはスルー。
通常の仕事とか討伐系の仕事は、依頼の紙を剥がして受付に持って行かないといけない。
でも、季節中受け付ける仕事とか随時募集の仕事は、依頼の紙をわざわざ剥がして持って行ったりしないのが暗黙のルール、ギルド職員の二度手間になっちゃうからね。
「これは、東区のブラウンシープが堅いところかな?」
私は、受付のお姉さんに東区のブラウンシープの仕事をすると伝え、仕事受付の手続きをしてもらった後、冒険者ギルドを出て、東区へと向かった。
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索敵を展開しつつも、王都中央より出て東区の周囲の景色を見るに付け、まだ色濃く緑の葉が残っている木々もあれば、すでに赤茶色、黄色になり始めている物もある。
北区の秋は、夏同様にとても早く通り過ぎてしまうので、ゆっくりと鑑賞している間もない。
昨年は、基礎科で学院寮にいたために、このように秋の彩りを鑑賞することなど出来なかった。
とはいえ、あまり秋色に囚われていても、仕事が出来ないし、冬支度を始めるのは何も人間だけではないため、いつも以上に危険があったりするのだ。
改めて気を引き締めて、周囲の索敵に意識を向けると、10ずつ固まった動きをするものが引っかかった。
この動きはシープだろうか?ブラウンかなコーラルかな?
気配を悟られないギリギリまで近づき、静かに隠形の魔法陣を発動する。
それでも、そうっと覗ってみると、ブラウンとコーラルが10頭ずついる。
お互いの群れが、すぐ近くにいるのに気づいていないようだ。
その訳もわからなくはない。
見れば1頭ずつの体毛が、通常の2倍近くあるのだ、ブラウンもコーラルも。
あれでは、自分の仲間かどうかもわからのではないだろうか?
動きにも支障が出ているのか、いつもの敏捷さがまるでない。
嵩張るし、重いのだろう。
見ている分には、なんだかユーモラスで可愛い。
押し合いへし合い、もこもこもこもこしている。
シープの群れたがる習性もそれを手伝っているようだ。
周囲に別の魔獣がいないか索敵を展開しつつ、シープたちを囲むように範囲指定をして、布札を用いて眠りの魔法陣を発動させる。
こてんこてんこてんこてんと全部のシープたちが眠りにつくのを待つ。
そして今度は障壁結界の魔法陣を、眠りの魔法陣よりも大きく範囲指定して、発動させた。
「さて、毛刈りだ。丸裸にはしないから安心してね。」
聞こえてはいないだろうが、一応言っておく。
毛を刈るシープは、ブラウン、コーラル合わせて20頭。
こればっかりは手作業なので、結構大変だ。
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「結構どころか、むちゃくちゃ疲れた・・・」
毛刈りの魔術も開発しておけば良かった・・・・手と肩が痛い。
全部刈ったわけではなく、通常の状態より少しスッキリする程度に毛を残した。
これから冬になるのに丸裸は忍びない。
それでも、大量の羊毛だもん。
思った以上に良い身入りになると嬉しくなる。
毛を刈った後は術を解いて、刺激を与えたら違う種類同士だったのがお互いわかって驚いていたが、別に敵意はないらしく仲良くどこかに去っていった。
いつもならここで帰るところだけど、まだ陽も高いし、一休みを終えたら仕事再開だ。
なんて思っていたら、こちらに向かってくるものがある。
結構早い。
ワイルドボアか?いや、ボアよりもかなりデカイ。
2つ、いや3つだ。
警戒度を高め、身体強化の魔術を発動させる。
弓を手にいつでも打てるように体勢を整える。
「レッドブル?!2頭・・・!もうひとつは・・・・げっ!」
隠形の魔法陣を急いで発動させた。
レッドブルを追いかけてきたのは、前にヴィーからおにぎりをカツアゲした魔狼だった。
(何で、まだここにいるの?!それとも、またここに来た?もしかして違う魔狼?)
レッドブル2頭は必死に逃げている。
ヴィーの側をものすごい勢いで通りすぎたかと思ったら。
魔狼はあっという間に追い詰めて、2頭とも首筋を噛み裂いて倒した。
魔狼の目が爛々と光ってて、ちょー怖い。
魔狼は、はぅっと短く息を吐くと、仕留めたレッドブルに近づこうとした時、何かに気づいたように頭を上げて鼻をヒクつかせた。
(まさか、匂いで見つかった?!そんなはずはないか、隠形は匂いも隠すし・・・)
ヴィーは自分に言い聞かせながら、自身を落ち着かせようとしていた。
わかっているのだ。
魔狼には既に見つけられている。
ギラつかせた瞳で魔狼が、ヴィーを捉えて凶悪そうニヤリと笑って呟いた。
「見つけた。」
すみません。毎日更新は出来なくなりました。多分1日置きになります。




