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理不尽な!?  作者: kususato
72/148

72. 冬支度 (2)

72話目です。

 「見つけた。」


 魔狼(フェンリル)は、ヴィーの姿を捉えてそう言った。

 その次の瞬間、魔狼の姿が消えた。


 ダン!!


 ヴィーは、魔狼に組み敷かれていた。

 油断していた訳ではない。


 速すぎて、反応出来なかったのだ。


 ギリギリと両肩に魔狼の前足の爪が食い込んでくる。

 魔狼の体重と加わる力・・・・圧迫されて息も苦しい。

 

 「ぐっ・・・!」


 (やばい!今度こそ絶体絶命?!前におにぎりをカツアゲして、今度は私の命?!先に倒したレッドブルを食べろよ!そっちの方が絶対!美味しいし、食いでがあるじゃん!!)


 「確かにそうだがな・・・相変わらず騒がしい奴だな・・・・だが、久しぶり。」


 口調は軽いが、瞳は相変わらずギラギラしていて、殺気を出している。


 (久しぶりって、右前足を挙げられても、口元が血でぬらぬらしながらじゃ怖さ倍増だよ!)


 「むっ?そうか?血で汚れてしまっていたか・・・・この辺りに水場はないしな・・・」


 (私の”洗濯”魔術なら綺麗になるけどな!)




 「そうか?ならばそれをやってくれ。」

 「・・・・!?・・・」


 口から血をポタポタと落としながら魔狼は言う。


 この状況で信じられない事を聞いた。

 ヴィーの事など露ほども脅威に感じていないのだろう。

 分かってはいるが、かなり悔しい。


 今すぐ一矢報いたいところだが、それは得策ではないと判断した。

 この状態からでは、何も出来ない。

 まずは、魔狼からある程度離れることを優先するべきだ。

 痛みを堪えながら、ところでと聞いてみる。



 「・・・・・・何で、私の考えてることが・・筒抜けなんでしょうか?」

 「それは、お前が考えていることをそのまま口にしているからではないか?頭悪いなお前は・・」

 「・・・・・・!!何てこと――――――――――――?!」

 「ほんとに!うるさいなっ!」


 べしっ!!

 バンッッ!!


 興奮して気が高ぶっている魔狼は、前足で加減もなしで思いっきりヴィーを叩き飛ばした。


 「!!」


 そのままヴィーの体は宙を勢い良く飛んでいき、地面に叩きつけられ、何度かバウンドして止まった。


 

 物理攻撃を受ける事によって組み敷かれた状態から脱したヴィーだが、あちこち怪我を負ったらしく、ぎこちなく体を起こした。

 かなり乱暴な方法を選んだ事はわかっているが、他に思いつかなかった。


 しかし身体強化の魔術を施していなければ、確実に今の一撃で死んでいたか、かなりの重症を負ったはずだ。

 

 顔からも血がしたたり、痛みに顔を歪めている。



 「・・・・・取り乱してすみません・・・”洗濯”魔術をかけさせていただきます。」


 殊更丁寧な態度で、隙を作るつもりで提案した魔術をかけることを伝える。

 感情は表に出さない。

 他の思惑を悟れてはダメだ。


 「おお、早くやれ。」

 魔狼は威圧を放ちつつ、血塗れた顎をしゃくった。

 「・・・・・・・」

 呼吸を整え、痛みを堪えながらヴィーは布札を取り出し、”洗濯”魔術を発動させる。


 今、魔狼を刺激してはいけない。

 間髪入れずに殺されるに違いない。



 この前は、”おにぎり”目当てだったのだとしても、今回も見逃すとは限らないのだ。

 前は話しが通じたのに何で今回は通じない?・・・なんて思考は邪魔だ。


 ヴィー自身も魔獣を狩って生きている。

 魔獣相手に、こちらが狩られる側になることがあっても不思議じゃないのだ。



 そして今相対しているのは。

 襲ってきた相手は。

 自分より遥かに強い高位の魔獣、こちらの都合など魔狼には関係ない。


 力の差が絶対な時もある。





 「キャイン!キャイン!キャイン!キャイン!キャイン!キャイン!ごぼぼっ・・・!」


 ヴィーが魔狼にかけたのは、ジャンピングスパイダーたちにかけた段階の”洗濯”魔術だった。

 魔狼の鳴き声が響くが、ヴィーは肩で息をしているがその場を動かず黙って見ている。


 「キャイン!キャイン!キャイン!キャイン!キャイン!キャイン!ごぼぼっ・・!」

 「脱水、爽やかミントな香り付き、乾燥。」


 平坦な声が術を続ける。

 「キャイン!キャイン!キャイン!キャイン!キャイン!キャイ―ン!」



 ”洗濯”終わって、辺りに爽やかなミントの香りが漂い始めたが、魔狼は目を回してヘロヘロだった。

 口元の血など汚れが全部落ちて、綺麗なものだ。


 「・・・・・・・」


 やはりこの程度では魔狼は倒せないなと、くい込んだ爪で傷ついた肩を撫でながら思う。

 

 次はどうする?どうすればいい?

 もう一度”洗濯”したら、気絶くらいはしてくれるだろうか?

 撫でた手を見やるとベットリと赤い血が付いていた。


 まだ、大丈夫。

 このくらいでは死にはしない。

 そう自分を鼓舞(こぶ)する。

 震えそうになるのを懸命に抑えながら。


 そうっと見やると魔狼が気絶していたので、無言でその場から立ち去った。



 

 ヴィーは冷静に怯えて、怒っていた。

 怒りの度合いの方がかなり大きいが。

 だからこそ、動ける。

 怯えに負けたら、動けなくなってしまう。



 確かに狩られる側になることもあるのは理性ではわかっているが、やはり感情では・・・・ムカつくのは抑えられなかった。


 (見つけただって?いったい何のつもりだ?(なぶ)るのが目的か?思いっきり前足で吹っ飛ばしやがって!あちこち痛いったらないし・・・!どっかの骨がいったかな・・・)



 顔から流れ出る血を拭いつつ、身体能力向上の魔術を発動させて、万が一を考え、走らず足早に歩いている。

 少しは傷の治りが早くなるだろう。

 早歩きなのは、前回は走って魔狼の狩猟本能を刺激したためだ。


 だが、ヴィーの元々の身体能力・身体能力向上・身体強化の魔術が合わさった早歩きは、かなり早い。

 既に、魔狼も遥か向こうで、姿は見えない。


 匂いで追ってこられるかもしれないが、魔狼自身も今は爽やかミントの香り付きだ。

 何だか滑稽だと、短く笑うが、笑うと痛みが体を走る。

 早くどこかに落ち着いて、傷の手当てをしたいが、もっともっと出来るだけ魔狼から距離を取りたい。



 (どのみち逃げられないんだったら、今度追いついて来た時には、全力で攻撃してくれるわ!)



 ”洗濯”魔術の全工程を刻んである布札を始め、持っているあらゆる布札と、グローブに刻んである魔法陣を確認した。


 

***************************



 ヴィーの”洗濯”魔術を受けて、目を回してヘロヘロになって気絶していた魔狼は、ぼんやりと意識を取り戻した。


 ジャンピングスパイダーを(ほふ)った段階のものを受けても、気絶で済んでしまう。

 少し脳震盪を起こした程度のダメージしかないらしい。





 「・・・・・しまった、逃がした。」


 狩り直後で興奮していたとはいえ、飛び掛かって組み敷いた。

 逃げられてはならないと、小さい体に爪を喰い込ませた。

 その上ちょっとイラついただけで、加減をせずに前足で叩き飛ばした。



 冷静になってみれば、人間の子供など、あれで死んでしまってもおかしくなかったのだ。

 それほど、魔狼の力は強い。

 だから、前回は本当に慎重に加減して、軽く触るようにしていたのに。


 「・・・謝ったら、許してくれるだろうか・・・?」


 聞きたいことがあったのだ。

 だから、ずっと探していたのに。


 「・・・・人がたくさんいる場所まで行って、もう一度探すしかないのか?」



 ”オニギリ”をくれた(・・・)あの人間の子供を探す方法を考えていたが、お腹が空いて狩りをしていたのを思い出した。




 「まずは、腹ごしらえが先だな・・・・・・いただきます。」

   



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