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大乘蓮華寶達問答報應沙門經十四 ~■肉地獄

 

 寶達頃前更入■肉地獄……


 宝達はさらに、■肉地獄(1文字判読できず)へやってきた。

 広さは約280km、鉄の壁と鉄の網に覆われ、その上で火が燃え盛っている。地上にも溶けて赤熱した大きな鉄片が散らばり、まるで洞窟の中ののようだ。

 周囲500歩もある鉄のベッドがあって、罪人がその上で焼かれている。

 南門に600人ほどの罪人がいたが、その姿はとても人間に見えない。身長は約3m、しかし口も眼も手指も足もおち●ち●さえも無い肉の塊だ、うわ気持ち悪い。しかしそれでも実は人間なのだ。

 馬頭羅刹が鉄カギで彼らの体を打つ。

 罪人たちの体が震え、口は無いのにその振動が声のように聞こえてきた。彼らは声を合わせたように叫び続けている。

「わしら、何の罪でこんな苦しみを受けるのだ! わけわからんしっ!」

 獄卒が彼らの体を投げ捨てると、鉄片がその体に無数に刺さる。流れた血はすぐに火焔となって燃え盛り、そこへ餓鬼たちがやってきて、破れた肉に食らいつく。飢えた犬が来て彼らの血をすすり、鉄の鳥も飛んできて内臓をついばむ。そして、熱い猛風が常にかれらの体を痛めつけ続けている。

 こんな状態が、夜となく昼となくいつまでも続く。千回死んでも、万回蘇生しても。

 もしここを出て人間に生まれることができても、言葉もしゃべれず目も見えず、救いの言葉にもめぐり合えないままに一生を送ることになるのだ。

 宝達は馬頭羅刹の一人に尋ねた。

「この沙門たち、なんでこんな目に遭ってるんスか?」

「この坊づどもは前世で、出家し戒律を受けておきながら、菩提(悟り)を求めなかった。ただ、現在の名利だけを求めた。さらには飲酒を貪り、出家のルールを破って約250の戒律のうち36もに反したんだ。その因縁でこの地獄に落ちたのさ」


 ではうんちくをば。

 約250の戒律とは、「摩訶僧祇律(まかそうぎりつ)」とか「四分律」、または「波羅提目叉(はらだいもくしゃ)」などと呼ばれる出家者用の厳しい戒律のことですね。

 もっとも日本ではインドとは社会組織も気候風土も違ってて、古代インド用の戒律を完璧に実行するのは困難でしたから、平安時代の伝教大師最澄から後は「大切なのは形式より心がけだ」という主義の「菩薩戒(ぼさつかい)」という概念ができたり、鎌倉時代の親鸞聖人以降は戒律ナシでも認められる場合も出てくるなど、戒律の制限はぐんっとゆるくなっております。

 ブッダも、「私がいなくなったら戒律を私だと思え! ……ただし、そのうち世の中に合わなくなって無理が出てくるから、そのときは戒律の内容を変えてもいいヨ」と(ちょっと対応の難しい)遺言をしてるので、社会習慣の変化などに合わせて戒律の内容を変えること自体は禁じられていません、ご安心を。

 ただ、現代日本の、基本の五戒からもう禁じられてるような婚姻や飲酒をも僧侶に普通に認め、お寺に普通に男女が同居している状況は、外国の仏教徒が知ると「なんじゃそりゃ!? ありえねぇぇぇぇっ!!!!」などと驚愕するのはたしかですけども。



 ともあれ、宝達は悲しみに泣きながら立ち去った。


 -つづく-

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