プロローグ 処刑
「――罪人チェリシア・ロクサーヌ。国家反逆罪により身分をはく奪のうえ、斬首刑に処する」
青い空の下、一人の騎士が声高らかに叫んだ。
両手を罪人のように拘束された少女は、騎士に半ば引きずられるような形で歩いた。
彼女の灰色のワンピースは所々汚れていて、長かったのであろう髪の毛もバッサリと切り落とされていた。
みずぼらしいその姿に、かつての彼女を知る人々は驚愕した。
彼女は平民でもなければ、ただの貴族でもない。
帝国屈指の名門貴族・ロクサーヌ公爵家の令嬢だった。しかし、それもつい数日前までのことである。
――チェリシア・ロクサーヌ
ロクサーヌ公爵家の虐げられた長女であり、何の長所も無い平凡な少女。
そんな彼女は今、断頭台に向かっている最中だった。
処刑を見物しに訪れた市民たちは、汚らしいチェリシアの姿に眉をひそめた。
まるで汚い物でも見るかのような目だった。少なくとも、まだ二十歳の年若き少女に向けられるようなものではなかった。
それだけでは足りず、群衆たちは彼女に罵声を浴びせた。
「さっさと殺せ!」
「早く死ね!大罪人が!」
彼女の顔に向かって石を投げる者までいた。
小石が額に当たり、チェリシアの頭から血が流れた。彼女の横に立っていた騎士は止めることすらせず、血が流れる彼女を見て笑っていた。
「……」
それでも彼女は何も言わずに、ただ前を向いたまま立っているだけだった。
その毅然とした態度に、市民たちはあ然とし、彼女をよく知る貴族たちはあんな表情ができる子だったのかと驚いた。
チェリシアは刑が執行される前、自らを罵倒し続ける群衆に向けて言い放った。
「――私の罪はとても重い。喜んで死を受け入れます」
最後の最後、彼女は穏やかな表情で笑った。
その言葉に、騒がしかった処刑場は一瞬にして静まり返った。
「私たちが手にかけた多くの方々が、死後安らかに眠れますように」
生まれてから一度も見せたことがないほど、慈愛に満ちた笑みだった。
このとき、処刑を見物していた民衆の一人は後にこう語った。
「認めたくはないが、その顔は女神のように美しかった」と。
最後の言葉を言い終えたチェリシアは騎士に乱暴に髪の毛を掴まれ、目の前にある断頭台に頭を固定された。
真上には大きな刃。今すぐにでも一直線に下りて彼女の首を切り落としてしまいそうだった。
自らの死が差し迫っているにもかかわらず、彼女は一瞬たりとも動じる様子を見せなかった。
死刑執行人の合図と同時に、チェリシアに向かって刃が振り下ろされた。
彼女の首が胴体と離れた瞬間、群衆たちはワァッと歓声を上げた。
彼女は動かなくなり、そのまま遺体は広場に晒されることとなった。
――そうして、チェリシア・ロクサーヌ公女の苦痛に満ちた二十年間の生涯は幕を閉じた。
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