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処刑エンドの不幸な悪役令嬢に転生しました。何故か悪役皇子に執着されてます  作者: ましゅぺちーの


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1/13

1 悪役令嬢に転生しました

薄暗い路地裏。血に染まった道で、彼女は座り込んでいた。

華奢な身体をブルブルと震わせ、懇願するかのように目の前にいる男を見上げている。



「お、お願いします……どうか助けてください……」

「ダメだ、お前は見てはいけないものを見た」



彼女の目の前に立つ男は、血のついた剣を彼女に突きつけている。

首筋にヒヤリとした刃の感触。彼女は恐怖で震え上がった。



男は血しぶきを浴びた顔でニヤリと口角を上げた。



「ここで終わりだな」



その言葉に、彼女の目から涙が溢れた。



わ、私こんなところで死ぬの……?

今までだって不運なことばっかりだったのに!



***




チェリシア・ロクサーヌ公爵令嬢の人生は不幸の連続だった。

彼女は政略結婚で不仲な両親の元に生まれ、病弱な母親は幼いチェリシアを残して亡くなってしまう。



母親が亡くなってから一ヵ月後、父親は愛人と同い年の異母妹を邸に連れてきた。

父親の不倫相手が継母となり、チェリシアは肩身の狭い思いをすることとなる。



継母や異母妹から嫌がらせを受け続け、頼みの綱である父親は見て見ぬフリ。

公爵邸の使用人たちからも虐げられ、彼女は邸宅内で孤立してしまう。



そんな中、チェリシアはある人物と出会う。



――レイド・フォン・ベレニウム皇子

ベレニウム帝国の第二皇子であり――完璧なベレニウム皇家唯一の汚点



何故、彼がそのように言われているのか。

それはレイドの出生にあった。



レイドは皇后の子供ではなく、平民の侍女から生まれたいわゆる私生児だった。

酒に酔った皇帝が手を出した女が運悪く妊娠した。

覚えてもいない、たった一夜の関係を持ったきりの女に子供ができたことを知った皇帝は焦った。



「何をしている!さっさとあの赤子を殺せ!」



母親にも捨てられ、皇帝はレイドを殺すつもりだった。

しかし、皇帝の命を受けてレイドを殺そうとした騎士の前に立ちはだかったのは一人の女だった。



「――いくら皇帝陛下であろうと、皇孫を死刑に処すことはできません!」

「……ッ」



皇命には逆らったものの、彼女の言っていることは正しかった。

ベレニウム帝国では、反逆罪以外で皇家の血を引く者を死刑に処することはできなかった。

騎士は渋々剣を鞘に収めた。



ゆりかごに寝かされていたレイドを、乳母は抱きしめた。



「レイド殿下、私が殿下をお守りいたしますから……そう心配なさらないでください」



レイドは彼女のおかげで何とか一命を取り留め、後に彼女は彼の乳母となった。

しかし、いくら味方ができたところで皇宮の侍女一人では何の意味もなかった。



殺すこともできず、やむを得ず生かされた皇子――そんな彼の皇宮内での立場がどのようなものか、わかりきっていた。



レイドはあらゆる暴力や罵声を浴びせられることとなった。

父である皇帝は彼を見るなり殴る蹴るの暴行を加え、義母である皇后は汚らわしい、下賤だと壮絶な暴言を彼に浴びせた。



そんな環境で育った子供がどのような大人になるか。



彼は自身に逆らう者を皆殺しにする暴君となった。

血の皇子として貴族たちから恐れられる存在となり、社交界で幅を利かせた。



チェリシアとレイド。

一見何の接点もなさそうな二人が、どのようにして出会ったのか。



二人の出会いは、偶然だった。



ある日、皇宮を訪れていたチェリシアはたまたまレイドの殺人現場を目撃してしまったのだ。

彼は彼女を殺すつもりだったが、自分と似た境遇に置かれていたチェリシアを気に入り、協力者とした。



仲の悪い両親のもとに生まれ、愛人母娘にその座を奪われたチェリシア。

父親が遊びで手を出した女から生まれ、家庭に居場所のないレイド。

今思えば、お互いがお互いを同情し合っていたのかもしれない。



それから二人は、ヒロインと彼の異母兄であるヒーローを始めとした多くの人間を貶めていった。

彼らの狙いはただ一つ。

ベレニウム皇族を皆殺しにし、皇座を手に入れること。

そのためなら何だってやってのけた。



そしてチェリシアは、そんな彼の傍から離れることもなく、彼の計画に協力し続けた。

彼女は、目的のためなら殺人すら厭わない彼が恐ろしくてとても逆らえなかった。



しかし、どんな事情があれ二人は物語の中の悪役に過ぎない。

ヒーローとヒロインの手により、レイドとチェリシアは断罪されることとなる。



全ての罪が明らかになったあと、レイドとチェリシアに下された判決は斬首刑だった。

皇族に死刑が下るのはおよそ百年ぶりのことだった。



彼らの犯してきた罪を思えば当然のことである。

チェリシアは元々は被害者だったが、レイドのしてきた残忍な行いを黙認していたのだから、情状酌量の余地はないと判断された。



チェリシアは刑が執行される前、石を投げ、罵声を浴びせる群衆に向けて言い放った。



「――私の罪はとても重い。喜んで死を受け入れます」



最後の最後、彼女は穏やかな表情で笑った。



「私たちが手にかけた多くの方々が、死後安らかに眠れますように」



生まれてから一度も見せたことがないほど、慈愛に満ちた笑みだった。

――そうして、チェリシア・ロクサーヌ公女の苦痛に満ちた二十年間の生涯は幕を閉じた。



***



ベレニウム帝国、首都にあるロクサーヌ公爵邸の一室。

一人のご婦人が、部屋で声を荒らげていた。



「チェリシア!どうしてあなたはいつも、妹に優しくできないのよ!」

「……」

「ちょっと、聞いてるの!?」



あーもう、うるさいなぁ。

転生してきたばっかりなんだから、ちょっとくらい静かにしてよね。



私はチェリシア・ロクサーヌ

ベレニウム帝国でも名門と名高いロクサーヌ公爵家の長女だ。

そんな私には、秘密がある。



それは私が、元々日本に住んでいた転生者だということ。



前世で読んでいた漫画『不遇な聖女の華麗なる結婚』の悪女に転生したのはつい数日前のことだ。

不幸な幼少期を過ごし、平民だという理由で他の聖女候補たちからも虐められていたヒロイン。

そんな彼女が帝国の第一皇子であり、次期皇帝のヒーローと出会って恋に落ちるという王道ラブストーリー。



その物語の中で、私は悪女の役割を担うチェリシアに転生した。



『私、チェリシアになってる!』



前世、会社員として働いていた私はいつものように趣味であるウェブ漫画を読んでいた。

読んでいる途中に眠くなって、気が付いたらこの世界に転生していたというわけだ。



しかも悲運の悪役令嬢チェリシア・ロクサーヌに。



私が異世界物の悪役に転生するとは……

それも処刑される運命の不遇な令嬢。



内向的で大人しい性格のチェリシアとは対照的に、レイドは生粋のサイコパスだった。

漫画内で、彼が手にかけた人数は明確にはされていない。



しかし、自身にとって邪魔な者は全て排除してきた彼のことだ。

そして、彼の狂気が暴走したきっかけとなったのが育ての親である乳母を殺したことだった。



彼はチェリシアと出会う前、赤子の彼を守り、育ててきた乳母をその手にかけている。

乳母の返り血で染まったレイドは、彼女の死体を前に冷たく言い放った。



『あぁ、お前があのとき騎士の前に出なければ……俺はあのような悲惨な目に遭わなかったというのに』



レイドは自身を助けた乳母に感謝するどころか、憎んでいた。

彼女があのとき助けなければ、レイドはあそこで死んでいた。

しかし、そのほうが幸せだと思えるほどに酷い生活だったのだろう。



(チェリシアが何したっていうの!ただ彼女は愛を望んだだけでしょう!?チェリシアは元々とっても良い子なのよ!)



チェリシアは悪役令嬢のポジションにいたものの、全く悪女ではなかった。

彼女は自身を脅迫し、利用したレイドのことを全く恨んでいなかったのだから。



チェリシアはレイドの共犯者として斬首刑が言い渡されたものの、彼女自身は一人たりとも手にかけていなかった。

彼女は一体、どんな気持ちで死んでいったのだろうか。

原作のチェリシアのことを考えると、胸が痛んだ。



しかし、今はそのようなことを気にしている場合ではなかった。



「とにかく!生き残るためにはこの家を出ないと!そして何が何でもレイドとの関わりを避けないといけないわ!」



そう、レイドとの偶然の出会いが彼女の運命を大きく変えてしまう。

彼に出会ってしまえばおそらくチェリシアは逃げられないだろう。



(原作でチェリシアとレイドが出会う場所には行きません!レイドの住んでいる皇宮にも行きません!ヒロインとヒーローにも一切関わりません!悪役なら一人で勝手にやって勝手に破滅してください!)



そう思っていたのに――



公爵邸のすぐ近くにある人気のない路地裏。

夜遅く、外を歩いていたチェリシアが音に気付いて覗いてみると、血だまりの中に人が倒れていた。



慌てて駆け寄ろうとした彼女の目に、すぐ傍で立っている男の姿が入った。

遠くからは暗くて誰かわからなかった。



(何をしているんだろう?それより早くあの人を助けないと……)



男に近付くにつれ、彼の様子が変であることに気が付いた。

微動だにせず、床に倒れた男を見つめているだけ。



――チェリシアがそのことに気付いたときには、すでに遅かった。



剣を持ち、返り血で染まった背の高い男がゆっくりとこちらを振り向いた。



「あ……」



その鋭い視線と目が合うと、身体が恐怖で震え始めた。

男の顔を、見間違えるはずがなかった。



返り血がべっとりと付着した金色の髪に、ベレニウム皇家の象徴である赤い瞳。

近い将来、血の皇子として帝国中を恐怖に陥れることとなる男。



――レイド・フォン・ベレニウム

帝国の第二皇子であり、ベレニウム皇家唯一の汚点。



男の正体に気付いたチェリシアは、その場にへたり込んだ。



――どうしてコイツがこんなところにいるのよ!






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