01-08.勇者の村
セーナの案内でピッコ村にたどり着いた。
一番最初に感じたのは本当に小さな村だということだった。
入口から全ての建物が見通せる程度しかなく、一番奥には村長の家らしき、他より少しだけ大きな建物が見えた。
セーナは迷いなく奥にある建物に進んでいった。
セーナに続いて歩いていくうちに奇妙な違和感を感じた。
よく観察してみると、誰もセーナと言葉をかわそうとしないのだ。
幼い少女が村のために一人で森まで行ってきたというのに、「おかえり」の一言も無いなど、あり得るのだろうか。
見ず知らずの私を警戒しているのだろうか。
それならそれで、村に入っていくことを止めようともしないのは何故だろう。
村の様子に不安を感じていると、村長宅の前に辿り着いていた。
セーナが待っているようにと言い、中に入っていく。
しばらくして戻ってきたセーナに連れられ、村長さんのいる部屋に通された。
「セーナ、お前は下がっていなさい」
村長さんは開口一番、そう言った。
「この人はわたしを訪ねてきたのに!」
不服そうなセーナ。
私も村の様子や、セーナの状況を村長からも聞いてみたかったので、一旦、セーナには退室してもらう事にした。
十分にセーナが離れた事を確認し、村長さんはいきなり土下座の勢いで頭を下げるのだった。
「どうかセーナをこの村から連れ出してやってください!」
話が見えず驚いた私は、とにかく頭を上げてもらい、詳しく話をしてもらうのだった。
この国では、あらゆる戦力を貴族と国が管理している。
そして、各領地は領主が責任を持って、戦力を派遣し町や村を守っていた。
しかし、人口が極端に減った場合や、領主の政策等により、他の村と合併したり、村を放棄して他の村に移住するよう要求される。
ここまでは、私も知識として知っている。
そして、この村は十数年前に人口減少を理由に放棄することを要求された村だそうだ。
当然領主は村人の移住をバックアップはしたが、それでもこの村を離れたくない一部の村人は残り続けたのだという。
そのため、この村には領主の加護がない。
魔物と戦うすべを持つ者がいないのだ。
実はそのような村は珍しくないのだそうだ。
年老いた者ほど、生まれ故郷を離れられないのだと言う。
そんな中、十年前に村人の一人が森の中で赤子を拾う。
その子こそが今のセーナである。
育てていくうちに、村人皆の娘のようになり、大層かわいがったそうだ。
セーナも村人の皆を家族として、幸せに暮らしていた。
ある時、村に魔物が現れる。
そこでセーナは魔法に目覚め、魔物を追い返したのだそうだ。
それ以来、村人を守ると張り切るセーナと、娘一人に危険なことを任せられないと、セーナを止める村人たち。
戦う力を得たのなら、領主のもとや、王都を訪ねればいい暮らしができるはずとセーナを送り出そうとする村人達に対し、自分が離れたらここを誰が守るのかと、セーナは聞く耳をもたなかったそうだ。
苦肉の策で、村人皆でセーナに冷たく当たってみても、どうしても離れようとしないのだと言う。
そこに、服装こそごまかしているものの、どう見ても貴族にしか見えない少女が現れたので頼み込むことにしたのだった。
私の完璧な変装をあっさり見破るとは、やるな!
「あなた達はどうするつもりなの?」
「我々は自分の意思で残ることを決めたのです。
力及ばず、村が滅びることがあっても受け入れる覚悟です。
しかし、あの子は違う。
どうかあの子の可能性を広げてやってください」
再び、頭を下げる村長さん。
私は、自分は想像通り、王都に住む貴族であること。
ある事情でセーナを探しており、連れていきたいと考えていたことを伝えた。
涙を流して喜ぶ村長さんを見て、セーナはこんなに愛されていたのかと安心した。
さて、どうセーナを説得したものかと悩みながら、村長さんに教えられたセーナの家に向かうのだった。