01-01.目覚め
目覚めると幼女だった。
「リリィ様!お目覚めになられたのですね!」
目を覚ますとメイドコスのお姉さんが現れた!
急激に眠気が覚めるのを感じながらも、まだ夢の中なのだろうとも思う。
なんだか頭も少しぼんやりしている感じがする。
どうせ夢なのだからと、メイドさんに向かって手を伸ばしてみて驚く。
あれ?なんだか手が小さい!
丸っこくてかわいいなぁ。
手を伸ばす私を見てお姉さんが握り返してくれる。
ひんやりしていて気持いいな~。
少し冷静になってきた気がする。
握られた手の感触が夢の中と思えない。
改めてメイドさんの顔をよく見てみるが、全く既視感を感じない。
身近にいるタイプの顔つきではないはずだ。
海外ドラマで見たのだろうか。
考え込んでいるうちに、メイドさんから声をかけられていたことに気づく。
どうやら私の安否を気にしているようだ。
「大丈夫ですよ」と返すが、しゃがれた声しか出てこない。
しかも舌っ足らずな感じもする。
それでも私の言いたいことは伝わったようで、メイドさんはホッとしたような穏やかな表情を浮かべてくれた。
それからメイドさんは状況を説明してくれた。
話を聞くと、私こと「リリィ」は急な病で高熱を出し、一週間程寝込んでいたらしい。
私は「リリィ」という名前ではないはずだ。
何故か本当の名前は思い出せない。
というか記憶がほとんど無い。
昨日は何をしていたのだろうか。
私は学生?社会人?
夢の中とはいえ、こんなに何も思い出せないものだろうか。
メイドさんに何も思い出せない事を伝えてみる。
うまく喋れなくて苦労したけど、なんとか伝わったようだ。
一瞬複雑そうな顔をしたメイドさんだったが、すぐに優しげな表情を浮かべて「リリィ」の事を説明してくれた。
ザンバック王国、アランシア公爵家の娘、現在四歳。
父は「レーヴェン」、母は「ソフィ」、兄が二人、姉が一人。
話を聞いているうちに、私が一番やりこんだゲームの登場人物である、悪役令嬢「リリィ・アランシア」であることがわかった。
(よりによって!?)
「リリィ・アランシア」は私の推しキャラである。
せっかくなら主人公になって、リリィを攻略したかった!
ゲームの内容は、主人公「セーナ・アージェント」が王立学院を舞台に王子達と恋をしながら、魔物退治やダンジョン攻略で成長して魔王を討伐する、RPG要素強めの乙女ゲームだった。
「リリィ」はいわゆる悪役令嬢というよりも、ライバルとしての印象が強いキャラであり、「セーナ」と競い合いながら成長していく人物でもある。
二周目以降であれば仲間にすることができ、個別エンドまで用意されている。
仲間としての加入期間こそ短いものの、物語の最序盤から登場し、主人公と共に成長していく様から、メインヒロインと呼ばれるほどの人気キャラであった。
私も本来の攻略対象達そっちのけでリリィルートをやり込んだものである。
そこでふと思いつく。
もしかしてこれはゲームの世界に転生したのでは?
ネット小説でそんな感じの展開よく見た!
思い至った考えにワクワクし始めたところで、立派な服を着た男性が部屋に飛び込んできた。
「リリィ!」
近づいてくるやいなや、思いっきり抱き締められて困惑してしまう。
「目覚めたばかりなのだから落ち着きなさい!」
続いて現れた女性が男性を止めてくれた。
「ああ、良かった。リリィ、目が覚めたのね」
女性も優しく抱きしめてくれる。
私が目を白黒させているうちに、メイドさんから私が記憶を失っていることを伝えてくれた。
二人は「リリィ」の両親だった。
記憶喪失と聞いて複雑な表情を浮かべたものの、目を覚ましたことだけでも良かったと喜ぶ二人を見て、今更ながらに本来の「リリィ」はどうなったのかと不安になる。
私が目覚めた事で消えてしまったのだろうか。
高熱で亡くなった所に魂が入り込んだ?
高熱をきっかけに前世の記憶を思い出した?
そんな内心の葛藤を知るはずもないのに、罪悪感を感じる私の表情を見て、「大丈夫だよ、心配無いよ」と声をかけてくれる二人。
考えるべきことは沢山あるけど、とにかく今は二人を安心させようと笑顔を浮かべる。
少しの間話をすると、今はゆっくり休むようにと二人は退室した。
その後、すぐに現れた眠気に引きずられ、私は目を閉じた。