揺れる気持ち
約・・・3か月ぶりです
遅くなり申し訳ありませんでした。
「ぅえっ・・・あぁ~ん・・」
「よしよし、大丈夫だよ。だいじょ~ぶ」
――――――あぁ、挫けそうだ・・世の中の母親ってすげーのな。
森に居た頃はそうではなかったけど、多分優しい人たちが沢山いるここにきて気が緩んだのだろう。
まだまだ親の愛情が必要な幼いラダは、ここ2・3日ずっと夜泣きをする。ティンを起こさない様に愚図り出したラダを連れて宿の中庭の奥に来ているけど・・他の客に迷惑をかけてない事を祈りたい。
寝不足半端ないし、辛いが・・・これもしょうがない!
「ほら、大丈夫。ごめんね、ママは居ないけど・・お姉ちゃんとアイトが側にいるよ~」
元居た世界では、おむつ替え(大)の方はどうしてもできなかったけど・・それでも育児疲れの妹の代わりに稀にだけど、甥っ子を預かったりしていたので多少のあやしかたは分かる。
ゆ~っくりと揺れながらポンポンと一定のリズムで背中に手を当てる。
「ぅっ・・ぅっ・・・」
特に今の所倒れそうって事はないけれど、これからの事を思うとどうしたらいいのかと本気で悩む。
取りあえず、ティンがどうしても受けるだけでも受けさせて欲しいという学校の模試も受かった際の学費は出してあげられるのでティンは明日ゴーシュに連れられて皇都へ行くことは決まっている。
そして、ティンが学校に受かった際にはラダは残される。
だけど、元々私の世界には魔法なんてなかった為に、魔力がない私の体は天然石とルクスレインが生かしてくれているっぽい。その二つのどちらかが切れると私は眩暈や吐き気に頭痛といった諸々の症状に襲われる。
何故そんなことを知っているかというと、心配で気になったのでそれとな~~く話題を出して聞いてみたからだ。取りあえず自分のことは言わなかったが、私のように異世界からこの世界に来た人間は結構いるみたいだ。
すでに詰め放題で持っていた石が2つ魔力を失ってただの石になった・・・死にたくないから元の世界に帰りたいのが本音だけど、ここまで懐いてくれている子供を置き去りにしておけるほど私は責任感のない人間ではないと言いたい。
ラダを引き取りたいと言ってくれている人はたくさんいるが、生憎ラダが懐く人がなかなかいない
ざりっ・・ざりっ・・・
「ん?誰?」
ぐ~るぐ~ると考え事をしながらもラダを漸く寝かしつけた頃、池の方からこちらに誰かが近づいてくるような気配を感じて私は声を潜めつつも警戒した様な声で問いかけた。
「アイト?またラダが夜泣きしたの?」
「あぁ・・・リーシャにゴーシュ?こんばんわ~・・煩かった?ごめん」
「あ、ちがうの!そんなことなかったよ!こんばんは、アイト」
「こら、リーシャ・・声を小さく。ごめん、アイト」
「いやいや、大丈夫」
ラダを抱っこしなおしながらも、リーシャと手を繋ぎながらそっと近づいてきたゴーシュに笑いかける。
「暗いけど・・リーシャの顔色良くなったね・・・マジで良かった」
片手でラダをしっかりと抱っこしてもう片手でリーシャの頭をなでてやると、リーシャは擽ったそうにえへへと笑った。
自分が余計なことをしたせいでリーシャの死期を早めてしまったのかと恐怖を味わったあの数時間・・・マジで、マジにホッとした。
「アイトのおかげだ。本当に、父母共々なんていっていいのかわからない」
「ありがとう、ほんとにありがとうアイト」
「もう聞き飽きたよ・・本当に気にしなくってもいいからさ」
涙目で深々と頭を下げる兄妹に、私も何度目かになる台詞を言う。
ぶっちゃけ、あの時の気分は犯罪者?!私犯罪者?!ど、どうしよぉぉぉーーー!!ってだけだったから・・・あはは!
『父さん!母さん!た、大変だ!!』
『何ですか、ゴーシュ・・そんなに慌てて』
先日・・お菓子作りをしていた中に飛び込んできたカイさんとミーヤさんの息子のゴーシュ。
彼に連れられて慌てて去って行った2人の背を見送った私は、もしかしたら私のせいでという気持ちで、チキンでガラスハートな私はどうやって戻ったか分からない部屋でウロウロと歩き回っていた。
ティンとラダはお昼寝から起きており、お菓子作りの前にラグさんに連れられて遊びに行ったのでこの部屋にはいない。
『アイト!!!』
『はひぃぃぃぃーーーーっ!!!』
暫くしたのち、ノックもなくすごい勢いで開けられたことに、私はまるで悲鳴のように叫んでしまった。
恐る恐る振り返ると、意外にカイさんはドアの取っ手を掴んだままキョトンとした顔をしていた。
ドッドッドッド・・と物凄い音が心臓から聞こえてくる気がする中、カイさんに殺される!って半泣きになった私は、一歩カイさんが部屋に入ったことに思わず飛びのいたことによって背中と頭を壁に強打した。
『す、すみませんアイト!驚かせるつもりはなかったんですっ!大丈夫ですか?!すごい音がしましたよ!』
『う゛ぅ・・か・・かい、さん?』
大股でつかつかと私の側まで来たカイさんは、頭を抱えて蹲った私の頭や背を撫でて特にコブなどが出来てないのを確認すると、私の両手を握りしめて涙目の顔を伏せるように握りしめた私の手にその額を付けた。
『って、そうじゃない!あ、ああ・・貴女のお蔭でリーシャが!リーシャの病気が治りましたっ・・な、なんてお礼を言っていいか!』
『はへ?』
『治してあげることが出来ないと思ってた・・苦しむ娘をただただ見殺しにするしかできないのかと思っていましたっ・・・うぅっ、ありがとうございます!ありがとうございます!』
病弱なリーシャは不治の病とも言ってもいい病気で、それを患わっているリーシャの事をバルセの街に留まらずウェルナール領内の者は全員が知っているものだった。治すための薬はあるのだが、そう簡単に取りに行くことができない場所にあると言う植物だと言うことも。
ゴーシュについて急いで駆け付けたリーシャの部屋で見た物は、淡く光り輝くリーシャと最近は腕を上げる事もままならなかったリーシャが光を纏った状態で上半身を完全に起こして驚いた顔をしながら自分自身の手を体を見ている光景だった。
『い・・いたく・・ない・・だるく、ない』
『り・・リーシャ・・?』
オリエントの森はごく浅い部分の魔獣 ――魔力を秘めた獣で気性が荒いがオリエントの森の魔獣は森の外に滅多に出る事はない―― は騎士の訓練として使用したりもするが、奥に入った者は2度と出て来れないものが多いと言う。
何度かカイさんは魔力系の病気に聞くと言うルクスレインという・・私が良く食べていたあの光っている花を取りに行こうとしたのだが、ルクスレインが生えているのは森の中心部と言われる幻の神殿の中。
可愛い娘に森にだけは入らないで欲しいとお願いされていた為に行くに行けなかったらしい。
因みに私はそのまま花を食べていたが、実際は摘んで数時間で枯れてしまう際に落ちる光蜜が薬なんだそうだ。オリエントの森以外でも稀に取れるらしいのだが、採ってきてもあの蜜はいつ花が枯れて落ちてくるか分からない上にオリエントの森以上に魔力溢れる花はなく、その蜜を上手く取れない事も多く、落ちて5分以内でないと蜜は消えてしまうらしい。
そして、そんな貴重な花の蜜を ――大体5本分くらい―― リーシャに飲ませたことで、1つだけでも効果はあるのだが・・末期患者と言ってもいい状態だったリーシャは完治したそうだ。
それも、健康体以上の能力付きで・・・。
「今はまだ日中は暑いから、リーシャの体力が追い付いていなくて・・夜に散歩しているんだ」
「そっかそっか、うん・・ホントに良かった」
さすがに能力的には常人以上になったが、生まれてこの方ずっと病人で末期までいっていた為に体力が追い付いていないリーシャは漸く少しずつ運動を、と言っても唯歩くだけだけど始めたらしい。
「それじゃ、自分はもう行くわ」
「引き留めてすみません。ラダ君を寝かしてあげないといけないもんね」
2人と少しだけ雑談し、静かに寝息を立てているラダをベッドに寝かせるために二人と別れ・・・
「まってアイトっ」
「ん?」
「リーシャ?」
・・ようとしたのだが、リーシャが私の服の裾を握って何度か口を開閉している。
「どーしたんだ?リーシャ・・ゆっくりでいいよ」
「---っ・・っ」
何か言いたいことがあるのだろうと察し、ラダを抱いたままリーシャと視線を合わせるようにしゃがむと―――――リーシャは急に抱き着いてきた。
「わたし・・ずっとずっとみらいなんてないっていきるのあきらめてた」
「リーシャ?!」
震える声でぽつりとそうこぼしたリーシャに、ゴーシュも驚いたように目を見開いている。
カイさんたちの話でもリーシャはいつも明るくこんな状態でも前向きでって話を聞いていたけど、誰だって心の奥底ではそう思うのが当然だわな。
「でも・・ずっとずっとあきらめていたけど、ずっとずっとやりたいことあったの」
泣き笑いのようなリーシャに私も笑顔を(ちゃんとうかべれていたかどうかはわからないが)向けてうなずくとリーシャはバッと顔をあげて不安そうに瞳を揺らした。
「アイトのおかげでわたしなんでもちょうせんできる・・・わたしがんばるからっ」
一歩私から離れて、リーシャはグッとこぶしを握り私を見上げる。
「だから・・・だから!」
――――――――――――――っ!!
リーシャの言葉にハッとし、私は思わず泣きそうになった。
続きがなかなか思いつかない状態ですが・・・早く投稿できるように頑張ります!!