95話
トダ村に着くと、僕達を見つけたアイリスが走って来た。
「ケンジさん!」
「やぁ、アイリス。早速で悪いんだけどお父さんとお母さんはいるかい?」
「ええ、蔵で作業中よ…チラッ……ところで隣の方は…」
「初めまして、うちの息子がお世話になってるようで、母の早苗です」
アイリスは二度見した。そして、本当にそうなのと言う様な目を向けてくる。
「母です…」
「騒がしいなぁ、誰か来たのか?」
ダイゴロウが蔵から出てきた。
「大五郎!」
「…早苗姉ちゃん」
「えっ!どういう事!?」
母ちゃんの説明によると、トダ村のダイゴロウは葉山大五郎で、指輪の物語の王様(大五郎)と同一人物。更に早苗とは歳の離れた従兄弟なのだった。
「兄さんから大五郎が一族の力に目覚めたって聞いた時にはもう、時間を超えて転移しちゃってたからねぇ。誰も時間を超えるなんてことは出来ないし、なかったから探しようもなくて…大分経ってからだよ、最初の絵本は宮廷画家の描いたものだったから、一目見てお前だと分かったよ」
一族の力って、異世界に転移できる事なのか。なら、僕は。まだその力に目覚めていないはずなのだが。小物召喚魔法だけだもんね。
「何だかよく分からないけど、ダイゴロウさんはようやく見つかった母ちゃんの従兄弟って事?」
「そうだよ。小さい頃は早苗ちゃんと結婚するーって言ってたのにねぇ。七人て事はないんでしょ?全く、髭さえ剃ればいい男なにのさ」
母ちゃんが言うと、ダイゴロウは顎に手をやって苦笑した。
「ケンジは姉ちゃんにそっくりだもんな。あの国に伝えられている旅人がやってくるのを待ち構えていたら、やって来たのがケンジだったから吹き出しそうだったんだぞ」
「何だよ、上手いこと日本酒を醸すなぁとは思ってたけど、日本人じゃんか!何かずるい!」
全部自分の力でやってきたとは思わないが、酒の事はかなり影響を与えたという自負はあったんだよね。
「なるべくあっちの知識は使わないようってのが、一族の決まりだったからな。簡単に破ってくるケンジに、もう決まりはなくなったんだと思って知識をフル稼働させたんだよ」
「米の炊き方はぁ?」
「いつも姉ちゃんちで食わせてもらってたから、自分で炊いた事はなかったんだよ」
髭ヅラのテヘへって表情は可愛くない。
「そういや大五郎、本家の日本刀は知らないかい?アンタと同時期になくなったんどけど」
アチャー顔の大五郎。
「…家の中にあるよ……手入れしてないけど」
「そう、それならいいのよって、手入れしてないんかい!刀の魔力がなくなったらどうするつもりなんだいっ!」
そこにカレンさんが出てきた。
「あれ、ケンジさん?何かあった?」
「いやぁ、何となく母を連れてダイゴロウさんに会いに来てみたんですが…複雑にこんがらがった話についていくのがやっとだったところです。あ、チコリもいますです」
チコリは私もいる、と、太ももをツンツンアピールしてきた。
「立ち話もあれだし、中に入ったらどうなの?」
半ば呆れつつ、僕らは大五郎の家の中に移動した。
「へぇ!ケンジとダイゴロウは親戚だったんだねぇ」
ハッハッハとカレンは背中を叩いてくる。アイリスもこうなったらどうしよう。
「立ち飲みチコリにうちの実家に繋がる魔法陣がありますので、大五郎さんもよければ帰省してみてください」
「ケンジさんの生まれた所に行ってみたーい」
アイリスはまだまだ子供だな。
「ん?チコリも行ってみたいの?マサに会いたいのね、いつでも行っておいで。但し、大五郎おじちゃんみたいに心配かけるといけないから、オルカさんや皆に言ってから行くんだよ。はい、指切りげんまん」
こっちを見てニヤニヤしていた母ちゃんが、
「大五郎も指切りげんまんした方がいいんじゃないの?」
と、突っ込んでいた。
「で、名前はなんて言うの?私はここのオーナーのラム」
「んニャ、ボクは●○●■▷△▲。あれっ、どうしたんだろ…」
目の前の空中を両手でワサワサしている。それにさっきの言葉、なんて言っているのか分からなかった。
「もしかしてだけど…ウィンドウみたいなのを開いて設定をいじってる?」
「はニャっ!どうして分かったんですかニャ!」
「…なんとなく」
「バレると問題があるみたいなので、二人だけの秘密にしてほしいニャ」
「いいですけど、設定は直りましたか?」
しばらく空中をかき回していたけど、耳をふせて首を左右に振る。
「本名はブライバシーがどうのこうので駄目みたいなのニャ。だんごとでも呼ぶニャ」
だんごちゃんは召喚されてきたに違いないわね。




