89話
「ワインを造るのは知識さえあれば簡単なものなんだな。しかも美味い」
相変わらずダイゴロウの顔をした大五郎である。ちな王。王妃達も美味しそうに飲んでいる。
「俺はこれぐらいで止めておこう。二日酔いも怖いし」
「それと王様。米だけは大切に育てていってください。それだけはよろしくお願いいたします」
念を入れてお願いしておく。
「それじゃ、戻ろうか」
「多分…こんな感じでしたっ!えいっ!」
サラが魔法陣を床に展開する…いけるのかこれ……ええい、ままよ!
『ありがとう、賢司…大きくなったな……』
魔法陣にサラとちくわとささみを抱きしめながら飛び乗り、目を開けると…ここは……公園だった。まぁ、よく整備された公園だこと。日本だよ、しかも子供の頃よく自転車で走り回った公園だよ!
「ここはどこですか?見たところアンバーではなさそうですけど…」
「ここは日本だよ。しかも僕の故郷の公園…」
田舎だから歩いている人が殆どいない。皆、車か自転車で移動するからなのだが。ホント、都会に慣れた人間からすると気味が悪い光景かもね。
「ケンジさんの故郷…」
サラはキョロキョロと辺りを見回している。
ちくわとささみは松ぼっくりを拾ってじゃれている。
うーむ、知らない場所への移動ではないから、とりあえず近所にあるやきとん屋『やんちゃ』に行ってみるか。口開けしてるかな。
公園の市役所側の交差点まで来ると、もうそこからは徒歩一分なのだ。
入り口の赤ちょうちんが灯っているのを確認したので、暖簾をくぐって戸を開ける。
「いらっしゃ…あれ?ケンジくん?と…お隣は彼女かな?いらっしゃい」
「やだなぁ、大将。サラにはこの間会ったでしょ?」
「?ケンジくんがうちに来てくれたの、もう一年も前だよ。どうしたん?疲れてんのか。モツ食って元気だせ!な!」
カウンターの奥に二人で腰掛け、僕は生ビール、サラにはバイスサワーを頼んだ。
大将の様子はおかしくはない。て事はだ……。
「タイムスリップしてんじゃねぇの、これ…」
ふと、店内のカレンダーが目に止まった。
「まだラムにも会ってない頃だわ…サラ、凄い魔法が使えるようになったのはいいけど、制御できてないよねー」
「ごめんなさい…」
「いやいやいや、謝ることはないんだよ。まぁ、楽しいし?久しぶりに大将のやきとんが食べられるし」
店内にやきとんが焼ける煙が充満してくる。
「いいねぇ、こういうの。可愛い女の子と酒場デートかぁ…ん?」
「私、可愛いですか…?」
「サラは可愛いよ。店で初めて会った時からそう思ってたもの」
顔が赤いのはきっとバイスサワーのせい。
「はいよ!レバ、ハツ、カシラ」
「おいしー!こんなに美味しい串焼きは食べたことがありせん!」
サラの食べっぷりを見て、大将もどんどん焼いてくる。
ちくわとささみも服の隙間からこっそり食べていた。塩分、大丈夫かなぁ。
「ごちそうさまでした」
店を後にして少しふらつくサラを庇いつつ、仕方がない実家に行こう。
「サラ、僕の実家に行こうと思う。少し歩くけど大丈夫?」
「大丈夫れすよぅ」
「ただいまー」
ガラガラと玄関の戸を開けると、出迎えてきたのは実家で飼っている猫のマサであった。




