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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第七章 ミスリルの約束
89/230

89話

「ワインを造るのは知識さえあれば簡単なものなんだな。しかも美味い」

 相変わらずダイゴロウの顔をした大五郎である。ちな王。王妃達も美味しそうに飲んでいる。


「俺はこれぐらいで止めておこう。二日酔いも怖いし」


「それと王様。米だけは大切に育てていってください。それだけはよろしくお願いいたします」

 念を入れてお願いしておく。


「それじゃ、戻ろうか」


「多分…こんな感じでしたっ!えいっ!」

 サラが魔法陣を床に展開する…いけるのかこれ……ええい、ままよ!


『ありがとう、賢司…大きくなったな……』






 魔法陣にサラとちくわとささみを抱きしめながら飛び乗り、目を開けると…ここは……公園だった。まぁ、よく整備された公園だこと。日本だよ、しかも子供の頃よく自転車で走り回った公園だよ!


「ここはどこですか?見たところアンバーではなさそうですけど…」


「ここは日本だよ。しかも僕の故郷の公園…」


 田舎だから歩いている人が殆どいない。皆、車か自転車で移動するからなのだが。ホント、都会に慣れた人間からすると気味が悪い光景かもね。


「ケンジさんの故郷…」

 サラはキョロキョロと辺りを見回している。

 ちくわとささみは松ぼっくりを拾ってじゃれている。

 うーむ、知らない場所への移動ではないから、とりあえず近所にあるやきとん屋『やんちゃ』に行ってみるか。口開けしてるかな。


 公園の市役所側の交差点まで来ると、もうそこからは徒歩一分なのだ。

 入り口の赤ちょうちんが灯っているのを確認したので、暖簾をくぐって戸を開ける。


「いらっしゃ…あれ?ケンジくん?と…お隣は彼女かな?いらっしゃい」


「やだなぁ、大将。サラにはこの間会ったでしょ?」


「?ケンジくんがうちに来てくれたの、もう一年も前だよ。どうしたん?疲れてんのか。モツ食って元気だせ!な!」


 カウンターの奥に二人で腰掛け、僕は生ビール、サラにはバイスサワーを頼んだ。


 大将の様子はおかしくはない。て事はだ……。

「タイムスリップしてんじゃねぇの、これ…」


 ふと、店内のカレンダーが目に止まった。

「まだラムにも会ってない頃だわ…サラ、凄い魔法が使えるようになったのはいいけど、制御できてないよねー」


「ごめんなさい…」


「いやいやいや、謝ることはないんだよ。まぁ、楽しいし?久しぶりに大将のやきとんが食べられるし」


 店内にやきとんが焼ける煙が充満してくる。

「いいねぇ、こういうの。可愛い女の子と酒場デートかぁ…ん?」


「私、可愛いですか…?」


「サラは可愛いよ。店で初めて会った時からそう思ってたもの」

 顔が赤いのはきっとバイスサワーのせい。


「はいよ!レバ、ハツ、カシラ」


「おいしー!こんなに美味しい串焼きは食べたことがありせん!」

 サラの食べっぷりを見て、大将もどんどん焼いてくる。


 ちくわとささみも服の隙間からこっそり食べていた。塩分、大丈夫かなぁ。




「ごちそうさまでした」

 店を後にして少しふらつくサラを庇いつつ、仕方がない実家に行こう。


「サラ、僕の実家に行こうと思う。少し歩くけど大丈夫?」


「大丈夫れすよぅ」




「ただいまー」


 ガラガラと玄関の戸を開けると、出迎えてきたのは実家で飼っている猫のマサであった。

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