79話
「そうでしたか…記憶がない期間にそんな事が。母上の誕生日プレゼントを買いに、お忍びで街へ出たのが狙われたんでしょう。それから一年も経ったんですか……」
しかし、この王子も良く飲む。エールの後のビールに感激し、アンバーエールで撃沈されたみたいだった。日本酒も勧めてみたけど熱燗が好みのようだった。
「しかし、王都へ戻るのが嫌になるな」
酒はヌルいエールと葡萄酒しか飲めなくなるからだ。
「王都でも醸造してみたらいかがですか?設備はそのままで材料だけ追加すればいいだけですから。明日にでもレシピをお届けしますよ」
「そうか!それは助かる。ケンジには何から何まで世話になったな」
「いいんですよ、同じ飲ん兵衛同士じゃないですか」
王様と一般人がかたい握手をする。
『それじゃあ、いっくよー!』
外では魔法少女のライブが始まろうとしていて、酔っ払った冒険者達がワーワー騒いでいて、いい感じに盛り上がっている。
「フクもチコリもサラの歌を聴きに行くか?」
「行くニャ!」「ん!」
両腕をブンブン振り回して、こちらも興奮してますねぇ。
タタタタタタタタタタッ、スタッ!
「フクとチコリもステージに立っちゃったし…」
バックダンサーをやるのね…うわー、しかも上手いし。
流石、魔法少女。曲ごとに衣装が変わっていく。
ラムはリリィ、ケイティと三人で飲み物を売って歩いているし、王様は聖剣を抜いて演武しだした。
「これがまたサラの歌と相乗効果たっぷりじゃないの…」
聖剣は淡く光を放ちつつ光跡を残す。その光跡は見とれるほど綺麗だった。
サラは魔女っ娘な歌を次々と歌っていき、途中で何故かマライア・キャリーばりにHEROを歌い上げたのだった。
「お疲れ様。はい、お水」
水を一気に飲み、落ち着いた魔女少女のサラを裏に連れて行き、そこで変身をといてもらう。
「名前、どうする?建前、サラじゃない事にしたいし」
正体はバレバレでも、変身した後に名前はあった方がいい。
「そうですね、どんなのがいいですか?」
「うーん、魔女少女…魔女少女……」
その時、同じくステージを終えたチコリ達が裏へ来た。
「魔女少女チコリ、かなぁ。何となく」
この立ち飲み屋もチコリなのだから、チコリがしっくりくるといいますか。
「何となく、ですか…でもチコリちゃんは可愛いですし、お店と同じ名前にするのもいいかもしれませんね」
こうして名前は決まってしまった。
「マーズくんとは結婚しません!」
えーと、マーズくんていうのはルナちゃんの弟さんで、ブラックドラゴンなのですが…その、お姉ちゃん好きがこじれて、私が求婚される羽目になっているのでした…。
「うう…裸を見られたのに……男だって恥ずかしいんだぞ!」
「そういうあなたはお姉ちゃんの裸を覗いていたでしょ!」
「か、家族だから問題ないよ」
「それは屁理屈です!もう!」
お母さんもお父さんも笑ってるだけだし、私にはケンジさんがいるのっ!
それに指輪ももらったし。シンプルだけど綺麗な指輪よね。
「それじゃあな、明日も来るから」
マーズくんがこんな夜中に出て行こうとする。
「どこに行くの?」
「腹も減ったし、それに眠くなってきたしな。狩りをしてその辺で寝るよ」
「は?どうしてそうなるのよ!泊まってったらいいじゃない!それに、ご飯くらい出すわよ、ね、お母さん!」
「そうね、アイリスがお世話したいみたいだから泊まっていきなさい、マーズくん」
「お母さんっ!」
お風呂に入ったばかりなのに汗をかいちゃったじゃない。もう。
こうして、マーズくんはご飯を食べてくちくなって寝てしまいました。
「私のベッドで!」
こうなったらお母さんと一緒に寝るからいいんだもん。
『……ん…ギシギシ……ぅうん……』
「…」
仲良しさんになってるぅううー!
仲良しさんの時は部屋に入っちゃ駄目なんだよね。仲良しさんて何なんだろう。
タイミング悪過ぎ、諦めて一緒に寝るしかないか。
「ふふ、寝顔は可愛いんだから…」




