77話
「わさびが家族になる一年前ですね、イクラが事故にあって亡くなってしまったのは」
そう語りだしたオハラさんは寂しそうな表情で、我々はそれを静かに聞いているのだった。
「やんちゃな雄猫でしてね、初めて飼った猫だったので当初は色々苦労したんですよ。それと辺な好みがありまして、ミント味のガムとか湿布が好きで、まるでマタタビを与えた時のように興奮してましたねぇ」
ポケットから新品のガムを取り出した。
「これね、噛んで味を楽しむだけだから飲み込まないでね。はい、皆さんどうぞ。はい、はい」
まさかのガムを配りだした。
「ははは、ガムなんて久しぶり過ぎるなぁ」
フクもおにぃも困っている。
「ほら、こうやって包み紙を剥がして、コレを噛む」
「うニャ?ピリっとするニャ。変ニャニョ…クチャクチャ……」
フクはこれ、好きじゃないな。思いっきり顔に出てるわ。
「おにぃはどうかな…うわっ!」
「んニャーっ!ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…クチャクチャクチャクチャ…ニャニャー!フンスフンス!」
おにぃは弛緩した顔でゴロゴロ転がりながらガムを味わってるのだった!ヨダレたらし過ぎぃ!
「うむ…似てますなぁ、彼」
「やはり似てるんですか!オハラさん、ミントでイッちゃったイクラちゃんを思い出して、彼に接してみてください!」
「えっ?彼にですか?怒られますよ?大丈夫かなぁ…」
「部屋に入ってきた時から、何となくそうではないかと思っていたんですが…タケさんはイクラに間違いないです。この、少し落ち着きを取り戻してからの、人差し指を甘噛みしてくる行動など、イクラそのものですよ」
「ベニちゃんみたいに前世の記憶はないんですけどね、おにぃもベニちゃんみたいにイクラちゃんの生まれ変わりに間違いないです」
会って話をするだけでも、オハラさんとタケくんにはいいはずだし、記憶がなくとも生まれ変わって生きているのを知れるのは、ペットロスを経験した人にとってもいい事だと思う。僕なんかも今やフクは前みたいに家族であり、娘みたいなものだから。
「今日は来てくれてありがとう。タケくんに会えて本当によかったよ。良かったら昼ご飯を食べていきなさい。点心も始めちゃったからね、試作が沢山あるんだよ、はっはっは」
折角なのでお相伴に預かりました。
豚肉じゃない猪肉の点心は、この世界のスパイスと相まって得も言われぬ美味しさだった。うちの店も頑張らねばだな。猟師のエミリー達に新たな獲物の相談をしてみるか。山には他に何が棲んでるんだろう。
おにぃはそのままベニちゃんといるようだったので、ふくと二人で店の仕込みをする事にした。
ジャガイモを洗ったり、ネギを切ったり、肉の仕込み以外も仕事はあるのよね。
「トダ村の方は上手くいってんのかなぁ」
「年の差婚てやつなのニャ。フクもご主人様と年の差婚したいニャー?」
首を傾げて下から覗き込むのナシな!可愛過ぎて、娘と思っていてもプロポーズしてしまうから!
「フクはまだ子供過ぎるから、もう少ししないと駄目かなぁ」
プクーっと膨れてソッポを向いたけど、脇をこちょこちょしたらすぐに仲直りできたよ。これ、ラムやリリィくらいの女性には効かないしね。
そうこうしているとサラが出勤してきた。
「あれ?珍しく早いね、どうしたの」
「私…力が使えるようになったんです」
「え?やっぱり。フクも変身能力に目覚めたからなぁ」
「フクちゃんも変身なんですか!うわっ、うわっ!」
「何か喜んでるようですが、フクは猫に変身します」
「へ?猫に…ですか?」
「そうです、猫人族で今のままでも猫なのに、猫に変身します」
「で、でも変身能力なんですから、私と同じですよ!」
「サラも変身能力なのか…何に変身するのか聞いてもいいの?」
「は、はい!大丈夫です。ケンジさんくらいしか理解できないと思いますし……そ、その………えーと、まずは見てもらえますか、変身しますから」
そう言ってポージングしだしたサラは…クルクル回りながらどんどん服が脱げていくのだった……。




