66話
目が覚めると生きていた。
目に映る景色は最後の記憶とは違い、随分とだだっ広い野原だった。
その晩は秋晴れで気持ちよく、ついついハシゴ酒になってしまい、かなり飲んでもそれほど酔わず。その結果、時間差での酔いが足下をふらつかせたのだった。
二階の酒場から降りる階段を一気に転げ落ちる俺。酔っていて走馬灯現象が見えたかよく分からない。
確実に色んなところをぶつけているはずなのに、酔いで痛みは感じない。それどころか凄くスローモーションだ。そして…視界が暗くなっていく……………。
「だから!もう、聞いていなかったのかしら」
目の前にいる少女は何を言っているんだろう。理解に苦しむ。しかし、白いワンピースを着て可愛らしい女の子だな。俺はロリコンなので少女はどストライクなのだ。
「アナタは残念ながらお亡くなりになりましたの。でも、同時に選ばれし者だったの。だから別の世界に転生させるの」
死んだ?
俺が?
「あー、階段を踏み外したのか俺」
「伊達博和、アナタはよっぽどの酒好きだったの。丁度よい世界が管轄にあるから、そこへ転生してほしいの」
「転生?生まれ変われるんですか?」
人生のやり直しか。ああ、親孝行もしないままに別の人生って。
「ちょっと待って……ふむふむ、なるほどぅ。うんうん。二十歳ね、そう……待たせたの。アナタは二十歳からリスタートしてもらうの。性別はそのまま男なの。心配しなくてもなんとかなるの……多分」
虹色の光に包まれて服が分解していく。謎の光が股間を覆っていく……………。
「ん………ここはどこだ……」
気が付くと椅子に座っている。
さっきまでの出来事は覚えているから、ここは別の世界ってことで間違いはないと思う。
「何言ってんだ、結婚を前にして怖気づいたんじゃねーのか」
目の前のチャラそうな西洋人が言うが、結婚だと?誰の結婚だ。
「結婚…?」
「あんな若い娘と結婚たぁ、趣味を疑うが、まぁ、お前だもんな。村長さんも久しぶりの結婚式って事でかなり張り切ってるぞ。つーか、しゃんとしろよー、今日は村中でお前を潰すつもりでいるんだからな」
情報が多すぎて頭がついていかない。
…俺は結婚するのか……。
「俺は誰なんだ?」
「こりゃ緊張しすぎだな、ザシャ」
「ザシャ?名前か?」
「おいおい!どーしちまったんだよ!怖気づいたのかっ?ちょっと白目で見られるくらいどーって事ないだろ!」
何かやらかしてしまった男になったのだろうか。
「…鏡はないか……」
「鏡なんて高級な物、ある訳ねーだろ。ホントにどうかしちまったんだなぁ。親友として情けねーよ」
そうか、この男は親友…死ぬ前の俺には考えられないジャンルの人間だな。
「俺はザシャ。そして、結婚式当日。相手は若い娘…相手の名前は?」
「ルナだよ、ル、ナ!小さいけどしっかりした子だぞ」
「ルナか……えっ、小さい?」
「お前の趣味はホント分からねーな。亡くなった親父さんやおふくろさんが生きていたら何て言うか。しっかりしてくれよ!それじゃ、こっちも準備があるからな、時間まで少しあるから頭を冷やしとけ」
「あ、ああ、分かった」
本当に別の世界でリスタートする事になったのか。あの少女は神様なのかな。くそぅ!結婚するならあの子がよかった!
しかし、のどが渇いたな。何かないのか。
部屋を見渡すと棚がある。そこには陶器のジョッキが置いてある。隣には何かが入った瓶。ラベルには赤星。
「赤星ねぇ、ビールみたいなラベルだな………こいつは…ひねったら簡単に開いた。クンクン…見た目どおりにビールだわ、これ」
常温でもとりあえずいいや。そのまま口をつける。
「美味い……」
のどを潤しゆっくりする。
結婚かぁ、ザシャって男はどんな仕事をしているんだろうか……。
「チコリー、この子達どうするの?」
「ん!」
「家に帰るから大丈夫なのか。ならいいや。このままじゃ口開けできないもんね。チコリに一任するからよろしくね」
「ん!」
「ラムー、日本酒の配達ってまだ?」
「今日は来ないわよ」
「あれ、そうなの?…少し残りはあるからそれで回すか」
「それよりケンジ、汗臭いわよ」
「ハハッ、チコリを台車に乗せて走り回ったからな。着替えてくるよ」
「そうしてもらえる?流石に客商売だからね」
「着替え、スーツしかないや……久しぶりのサラリーマンルックでいきますか」
昨日は更新できなくてすみませんでした。




