61話
ハーレム状態なのが嫌な訳じゃないけど、どうしてこうなった。日本じゃしがない飲ん兵衛のオッサンで、女子社員とかコンビニの店員とか、たまにカスタマーセンターの女性くらいしか話す事も無かったのに、現状を報告しよう。
フクはデフォルトとして一緒に寝ているんだけど、反対側にはリリィが寝ているんだ。そろそろ寝ようかとベッドに横になると何やらドアの外で声が聞こえ、枕を持ったリリィがやって来たのだ。ジャンケンで順番を決めた、と言っているので、明日も誰かがやって来るんだろう。
「ねぇ、リリィさん?リリィさんて僕の事好きだったの?」
ストレートに聞いてみる。
「うふっ、そうねぇ、最初に街で見かけた時は珍しい外国人てくらいだったけど、ギルドに来た時はよく見るといい男って思ったわ」
「あはは、そうなんだ…」
「お店で働く事になって、皆のフォローをしている所や、チコリちゃんやフクちゃんと遊んでいるのを見て、優しい人なんだと感じたわ」
「その頃なの?」
「いいえ、その後よ。指輪をくれたでしょ、もうその時から好きになる気持ちが溢れ出てきて、仕事中も目で追いかけたりして…そうすると他の皆も見ているのが分かるのよね…」
リリィは潤んだ瞳で見つめ返してくる。フクはスヤスヤと寝ている。
あの指輪、何か他にも効果があるのかな。外したら…どうなるか。
「あの、さ、指輪なんだけど、ちょっと外して見せてもらってもいい?」
「ええ、どうぞ」
「…」
「…」
「…どう?隣で寝てる訳だけど」
「添い寝したくて来たんですもの、嬉しいですわよ。こうして体温も感じられるし…」
なる程、指輪は関係ないのかな。んー。
「はい、指輪ありがと」
左手薬指に戻す。
「しかしいいのかなぁ、交際してる訳でもないのにこんな感じでさ」
「なるようになれ、ですわ」
リリィはそう言うと瞼を閉じて眠りについた。
なるようになる、か、な?
翌朝、早い時間からお客さんが来ていた。
「王様、どうされました、こんな早くに」
「昨夜の対決だが、結局どうなった?護衛共もみな記憶を無くすまで飲んでたらしく、誰も詳細を知らないのだ!」
「あー、その事でしたら報告に伺う予定でした。ブラックドラゴンのルナが言うには、バッカスの新しい身体をすぐにでも探すようで、少し待って欲しいと、言っていました。一週間くらいですね。ですので、しばしこの街でお待ち頂ければと思います」
「信用出来そうか?」
「あの和やかムードの飲み会を見ていましたので、大丈夫かと思いますが」
ルナが次の身体を探したとして、その者は承諾して自分を差し出すのだろうか。深く考えると禿げてしまいそうだけど、上手く収まるといいと思う。
「まぁ、楽しい酒宴ではあったな…それに、何やら変わった歌も聴かせてもらえてよかったぞ」
サラが真っ赤な顔をして奥に引っ込んで行った。ノリノリのライブ、実はスマホで撮影していたんだった。後で観てみるか。
「何かやらかしてはいないか心配ではあったが、心配無用の様だな。ケンジ達にはまだまだ世話になるが宜しく頼む」
そう言うと王様は部下を従えて宿に戻って行った。
「さ、皆はご飯にしましょう」
二人暮しではなくなったので最近は食事を作る機会もなく、顔を洗って席に着けば食事が出来るという、そんな生活になっている。
「今朝はラムが作ってくれたのか、ありがとう」
ラムは和食を作りそうだと思っていたけど、意外にも洋食なブレックファストだったりする。カリカリベーコンにチーズの入ったスクランブルエッグ、温野菜サラダにマッシュポテト、そしてトマトスープだ。
「美味しいニャ…もぐもぐ」
「フクは好き嫌い無くて偉いねー」
「「ニャ!」」
「ちくわとささみも偉いねー」
小さな二匹も少しふっくらとしてきたな。
「そうだラム、この後ちょっといいか」
「ん?なに?」
「食べた後でな」
さり気なく話を打ち切る。
「そう、一度戻りたいのね、いいわよ」
「もう、今すぐでもいいんだけど」
「それじゃあ手を繋いで…そう、いくわよ」
周りを眩い光が包んでいく。
「「「ニャ」」」
「ふぅ、あっという間だな」
「ケンジの家は分からないからここに連れてきたけど、大丈夫?」
「ああ、近いから平気だよ。ありがとう。それで、夕方にはここに戻るから、また迎えに来て欲しいんだけど」
「いいわよ。私達の買い物もそれくらいには終わってると思うし。それじゃ、後でね」
ラムと別れて駅へ向かって歩き出す。
「どこに行くのニャ?」
「ふぁっ!!フクっ?」
「「ニャ?」」
「ちくわとささみも来ちゃったの?」
酒場街の小径で呆然としていると、野良猫達が興味津々と集まってきた。もはや猫おじさん。
てか、フクと子猫達に力が授かったりしてるんじゃないの?これ!




