58話
二人が出てきてもスルーしまくるアンバーの民達。日本酒とビールに酔いしれている。
『バッ、バッバっ、バカにしてんのかーっ!』
「アンタ、ドラゴンて言うけどよぅ、そんなちっさい女の子じゃ全然怖くないよ」
「こんな美味え酒を全部よこせだぁ? 欲しいなら買っていくんだなぁ、あっはっは」
「騒いでねぇで、そこの空いてる席に座って飲みな。今日は祭りみたいなもんらしいからな」
客からそれぞれ言いたいことを言われ、少しショボんとなったルナは、ケアスにヨヨヨと寄りかかる。
「酒が飲めればそれでいいのだ。ありがとうルナ、座ろうか」
二人が外のテーブルに着いたその時だった。
中華居酒屋の物陰から、騎士数人に守られた王様が登場したのは。
「遂に見つけたぞ、バッカスよ!」
その声に振り向くケアスことバッカス。ルナは何故かヤレヤレと言った表情だ。
「お前もしつこい男よ。酒好きなのに何故邪魔をするのだ」
「私は酒好きの前に一人の父親だ。その身体、持ち主である息子に返してもらうぞ!」
両者が睨み合うテーブル席。
しかし、周りの客達は相変わらず普段通りに飲んでいて、そこにラムネを持ったチコリがやって来るのだった。
「ん!」
タン、タン、タン!と、テーブルに置かれる三本のラムネ。
「ん!」
「ははは、チコリは仲良くラムネを飲みなさいって言いたいのかい?」
「んふぅ」
コクコクと頭を振ると、さっきまではなかった小さな二つのおさげがフルフルと揺れるのだった。同じ髪型にしたいって要望をベニちゃんが叶えてあげたのかな。
「そ、それじゃあこうしませんか? 街の真ん中で戦うなんてのは無粋です。チコリも仲良くって言ってますから、トダ村の日本酒飲み比べで競って下さい! そして、バッカスさんが勝ったら今回は逃げて下さい」
「何!」
「まぁまぁ、王様、これだけの酔っ払いが巻き込まれると一大事です。今回は何卒容赦を。そして、王様が勝ったらバッカスさんはその身体を返してあげて下さい。引き分けの場合は明日も対決していただきます。それで如何ですか?」
戦いになれば王子の身体に傷がつく可能性が高い。
「ふふん、酒の飲み比べか。望むところだ」
王様は飲みたいのか助けたいのか、傍から見るとよく分からなくなってきている……かも知れない……。
「神に勝てると思っているとはな。ふふ、楽しい酒になりそうだ」
バッカスもこの勝負に乗った。
後は総出でグラスと日本酒の準備をする。五十本は勝負用にして、無くなったらビールにすればいいし。まだアレも残っているから、まぁ大丈夫だろう。
バッカスにはブラックドラゴンのルナがついて応援でいるので、王様にはチコリが付く事になった。
金色の目、黒く長い髪に黒ワンピースの美少女ルナに、赤毛のおさげにパンツ丸見えのワンピースなチコリ。真剣勝負のはずなのに、何だかとってもプリティな戦いが今始まろうとしていた。
「勝負は飲んだグラスの数で決まります! 尚、つまみもオーダー出来ますので、無理せず頑張って下さい!」
続けてラムから、
「王様が勝つのか! 神が勝つのか! 投票を受け付けておりまーす! 勝った方に投票された方には、立ち飲みチコリの食券をプレゼントしまーす!」
一気にに盛り上がる客達。
気付くとビアガーデンの周りには屋台ができていて、所狭しと営業していた。
「それでは勝負スタート!」
あれよあれよと無くなっていく日本酒。
それだけではなく、猪豚の串もガツガツと食べていく。
ルナは隣で声を掛けているし、チコリはクルクル回りながら踊っていた。和み。
「しかし凄いわね、もう談笑しながら飲んじゃってるし……」
ラムの言う通り、何か普通飲み会になっちゃったぞ。その内にルナもチコリも疲れちゃったのか、椅子に座って猪豚串をパクつき始めたし。
「リリィとケイティは騎士さん達に何か食べ物を出してあげて」
律儀に護衛しているのを見るのは辛くなってきた。
「ケンジさーん、キスー、キスしましょ?」
一巡してアイリスがキスをねだってきた。うわー、かなり飲んでるな、顔が真っ赤だ。
「チュ」
おでこにキスして我慢してもらう。
「えへ、キスしてもらっちゃった」
これ、きっと覚えていないやつよね……トホホ。
王と神の飲み会は続く。




