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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第四章 モンスターで酒が飲めるぞ
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39話

 何故かダイゴロウも一緒に案内されてしまった。


「ケンジ、誰と会うんだ?」

 不思議そうに訪ねてくるが、どうせすぐに分かる。笑ってそれを返事にした。


 奥の一室のドアを開けて中に入ると、どこから用意されたのか豪華な椅子に座ったエルディンガー二世がいた。


「早速だな。それで? おびき寄せる酒のアイディアでも出たのか?」


「ええ、全く新しい酒を造る準備が出来ました。隣にいるダイゴロウの一家がそれを担います」


「そうか、よろしく頼むぞダイゴロウとやら」


「………誰?」


「エルディンガー二世って名前は知ってる?」


「この国の王様だろ?」


「はっはっは、予はエルディンガー二世である」


 ダイゴロウは焦りながらも跪く。


「あれ……? もしかして跪くのが普通なの」

 初対面から口ごたえしたし、ちょっとばかり冷や汗が垂れてきた。


「ケンジ、お主の物怖じしない態度もなかなか良いぞ。はっはっはっ」

 王様は高らかと笑うが、隣のダイゴロウは跪いたままだし、何か釈然としなかった。

 ちなみにフクは王様の背中に登ったりとじゃれついていたので、心の広い王様なんだと納得してしまおうと思った。


「ダイゴロウとやら、面を上げて、今後はケンジと同じ様に接して欲しい」


「ははっ!」

 ダイゴロウは立ち上がって椅子に座る。


「フクも王様に馴れ馴れしくしすぎだから。ほら、こっちに来なさい」

 フクはええーっと言った感じだったけど、王様が膝に座らせてくれていた。


「まさか一介の農民が王様と話せるなんてな……カレンに言っても信じてくれねぇぞ」

 確かに信じないだろうなぁ。


「それで王様……今日から米の酒を造ろうかと思います。場所はトダ村のダイゴロウ宅です。製造から完成までには一月程かかりますが、どうされますか?」

 どぶろくならもう少し早く出来るんだけど、流石にサラサラした日本酒と比べると違う物になるし。


「日にちがかかるのは仕方がない。おびき寄せる為に是非とも良い物を作って欲しい」


「おいケンジ、おびき寄せるって何の事だよ?」


「王様は息子さん、つまり王子をバッカスという神から奪還する為にアンバーまで来ているんだけど、その神は王子の身体を乗っ取っているらしいんだ。その神を米の酒でおびき寄せるのさ。その為にも美味いのを造らないと。ほら、これが酵母。吟醸王国山形の酵母だから酒造りに使ってくれ」


 山形の酒は十四代が有名になってしまったが、僕は地元のくどき上手が好みだ。安価なのに変なプレミアム価格が付くこともないからね。


「しかし、不思議な男よの。この件が終わったら、その知識を飲みながら聞きたいものだ。さて、ダイゴロウはトダ村まで帰るのであろう? 馬車で送ってやろう」

 好奇心も多分にあるな。何やら立派な馬車で王様、僕、ダイゴロウ、フクの四人はトダ村を目指し揺られる事になった。


「そうか、王様は酒好きなんだな。なら、家に着いたらとっておきを出すか」

 ダイゴロウは当初の緊張とは真逆に王様と談笑している。


「皆さん、普段は何を飲まれているのですか」


「うむ、普段は葡萄酒になるな」

 と、王様。


「エールは瓶売りしてねぇしな」

 確かに今のところ、瓶詰めされているのは葡萄酒だけだ。


「葡萄酒を更に一行程手間をかけるとブランデーという酒になるんですが……そういった物はありますか?」


「ブランデー?聞いた事もないな。どんな酒なのだ」

 王様とダイゴロウが身を乗り出して来る。


「葡萄酒を熱し、蒸気になったのを冷やして液体に戻す、蒸留という作業をするんです。そうすると、アルコール度が高い……えーと、酒精が強い少し飲んだだけでも酔う酒になります。それを樽に詰めて冷暗所で数年寝かせると琥珀色の香り高い上等な酒に変わるんです」

 話を聞きながら生唾を飲む二人。


「なんと、そのような酒が! それで、ケンジはブランデーを造れるのか? 飲んでみたいぞ」


「ケンジ、日本酒と並行してその辺も勉強させてくれ」


「とりあえずはブランデーより簡単にできる、絞った後の葡萄の皮から造るグラッパを造りましょう。あとは色々な果物で酒を作るのもありですね」


 ふと思い立ち、例の魔法を使ってみる。

 掌の上に魔法陣が浮かび上がらせ、そこから銀色の物体を出す。王様とダイゴロウはビックリしていたけど、魔法が使えると話すと納得してくれた。


「それは…?」

 王様は物珍しさに子供の様な表情になっている。


「これはスキットルといいまして、酒を携帯する為の入れ物です。蓋を回して開けてみてください」

 二つ出したので王様とダイゴロウに渡す。


「そのまま、中身が入ってますから傾けないで。中を嗅いでもらっていいですか」


「スンスン……何だろう、初めて嗅ぐ匂いだが……香ばしいような、甘いような」


「なぁなぁ、これ飲めるのか?」


「どうぞ、飲んでみてください。但し、強い酒ですので少しずつで」

 出したのはアメリカのウイスキー、バーボン。

 日本の僕の部屋にあるスキットルの在庫に、買い置きのバーボンを入れたイメージをして召喚すると……成功しましたねぇ。この魔法、ちょっと楽しいかも。


「これはっ!何と芳醇な酒だ……」


「うめぇ!腹の中が焼けるようだがうめぇ!」

 二人共クピクピやっている。


「あーあ、もう無くなっちまった」


「ははは、スキットルを逆さにしても飲んでしまったら出てきませんよ。今、お二人が飲んだのはバーボンという酒です。とうもろこしから造る事ができますので、その内これも造りましょう」


「うニャー!フク、つまんニャいー!」

 酒の話に興味がないフクが、遂にむくれてしまった。


「いたた、噛むな噛むな!謝るからっ、謝るからっ!」

 フクが噛んだ所は何だか生臭いのだ。


「ほらっ、ダイゴロウさんの家が見えてきたから!」


 馬車から顔を出してみると、そこには立派な蔵が建ったダイゴロウの家が見えていた。

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