38話
「町長とその家族の遺体が確認されたと?」
その情報と共に、平和な街アンバーに一転してきな臭い気配が蔓延し始めた。
ドラゴンの攻撃から逃げ遅れた上で、建物の倒壊による圧死。
今の町長はその任に就いてから長い割に、目立つ様な仕事も少なかったようで、住民からはまるで空気みたいな存在だったらしい。なので、悲しむ人が少ないというのも何だか微妙な出来事なのだった。
次の町長も街で一番大店のオヤジに決まったが、ドラゴン以上にバッカスにビビり、半日で辞めてしまった。現在は町長がいない状態である。
「会議に連れて来られたけど、僕としては話す事もないんですけどね」
「そう言うな、ケンジにはバッカスが好きそうな酒を準備してもらいたいのだ。これはお主にしかできん」
「それを言われるとどうしようもないなぁ。確かにバッカスは新エールにビールも凄く気に入ってました。でも、既にかなりの量を飲んでましたからねぇ。飽きていないか心配です。後、思い付く酒はキンミャー焼酎を割り物で割った物か……今はそのくらいですね」
日本酒はまだこれからだし。
「キンミャー焼酎とは最近評判の消毒薬の事か。あれが酒とは知らなかった。それならばバッカスが食い付くのではないのか?」
謎の異世界焼酎キンミャーは未だに消毒薬として流通しているのか。もう、酒として売っているんだと思っていた。
「キンミャーは飲みやすく、何で割っても相性がいい酒ですが……割る物の開発に時間がかかります。この辺で手に入る果物のジュースで割っても、物珍しさやインパクトはないでしょうし……」
「そうか……短期でどうにかできるかと期待していたのだが難しい様だな。じっくりと対決するしかないか」
「そもそもバッカスという神は、何故息子さんに取り憑いたのでしょう?」
「うむ……それは、私が度が過ぎる酒好きだったのが理由だ。世界各国の酒を集めさせては日々飲み明かしていたのだが、ある日、その事にバッカスが興味を持ってしまってな……部下になりすまして盗み飲みしていたらしい。そして、酒に興味を持ち始めた若い息子の身体を借りれば、この世に長い間具現化でき、酒を堪能できる。そのような理由で身体を奪ったのだ。黒いドラゴンの事はよく分からん。人化できるのも初めて知ったのだ。しかし、奴が破壊の元凶で厄介なのは事実だ」
うちらの世界だと神は人間に手を貸さず、姿を現す事もなく、逆に滅ぼそうとしたりする悪者に描かれる事が多いけど、この世界も同じ様なものなのかな。
ノックして、一人の騎士が入って来る。
「何、ケンジに使いが来ている?」
「何でしょう?」
「ここに連れて参れ」
連れて来られたのはフクだった。
「どしたー?」
「お邪魔しますのニャ。ご主人様、ダイゴローが店に来てるのニャ。何だか慌てててご主人様に会わせろって言ってるのニャ」
「ダイゴロウさんが? はて、どうしたんだろうね」
「ケンジよ、こちらの話は終わったので退席しても問題ないぞ」
「そうですか。それではこれで……」
宿屋を後にし、急いで立ち飲みチコリへ移動した。そこには興奮しているダイゴロウがいた。
「遅かったな、待っていたぞ!」
ダイゴロウは興奮していて、何かウズウズしている。
「どうしたんだ、そんなに慌てて」
「日本酒の件なんだけどよ、酒を造る蔵とか桶を準備しようとしていたら、その全部が朝起きたら蔵の中に置いてあったんだよ!」
「落ち着いて! 朝起きたら蔵が酒蔵として完成していた、って事なんだな?」
「そうなんだ! 立派な桶がデデーンといくつも置いてあった。ありゃ、使っても大丈夫なのか?」
「……何となく、何となくだけどそれをやったのはバッカスの様な気がする………」
バッカスは日本酒の事も嗅ぎ付けていたんだろう。この事は王様にも報告するとして、とりあえずは日本酒を造れって事ですかね。
「問題ないから、ダイゴロウ達は仕込みに取りかかってもらって大丈夫だよ」
「ケンジが言うならそうしよう。それじゃあ俺は戻るとするか」
「僕も途中まで一緒に行きましょうか」
王様への報告は迅速に、だし。
フクと既に『出勤』していたチコリを小脇に抱え、ゴツいダイゴロウと歩いていると皆、ギョッとして見てくるのだった。
子供を誘拐している悪者達、みたいに見えるんでしょうね……トホホ。
造る予定の日本酒についてアレコレ話していると、あっという間に宿屋へ着いてしまった。
すんなりと通してもらい、すぐさま本日二度目の王様との面談になった。




