30話
折角、定期的に猪肉が仕入れられると思ったのに、このタイミングで猟場となる山にモンスターが現れたようなのだ。
「どんなモンスターなんですか」
猟師のエミリーに聞いてみる。
「ワイバーンよ」
「ワイバーン……」
「いわゆる、空飛ぶ大きなトカゲね」
「名前位は知っていましたが……まさか本当にいるとは。ちなみに山にいるのは一頭ですか」
「私達が確認したのは三頭よ。最近は猪が増えてたから、それを狙って来たんでしょうね」
人間もモンスターも考える事は一緒か。猪肉は美味いもんね。
「空を飛ぶモンスターが三頭もいるとなると、それなりに力のある人に討伐を頼むしかありませんよね? 」
「冒険者ギルドで討伐依頼を出してもいいけど、この街で高ランクの冒険者は見た事がないわよ」
「ダメ元でも依頼を出すしかないよねぇ。それでも一応、明日になったら行ってみますよ」
酒場の店員が。まさか冒険者ギルドに行く事になろうとは思わなかった。
この日の営業は酒が無くなったので早仕舞い。沢山出た洗い物を皆で洗って終業となった。星空を見ながら家に帰った。
「エミリーさん、こんなに早くどうしたんですか?」
起きて居間に行くと、フクがエミリーにお茶を出しているところだった。
「冒険者ギルドに行くのは初めてなんでしょ?それに、ワイバーンを発見したのはアタシ達だし」
「一緒に行ってもらえるのは助かります」
「ま、朝に行っても、冒険者ギルドは食事も出来るし、そっちの子も一緒に連れてって朝ご飯でも食べながら依頼すればって事で」
冒険者ギルドは斡旋ギルド並に、これまたこぢんまりとした建物なのだった。食べ物屋に事務所がくっついていると言ったほうがいいかもしれない。イケメンの兄ちゃんが一人、大盛りのミートボールスパゲティにがっついていた。
「ここが受付よ」
「エミリーさん、おはようございます。今日はお弟子さんと一緒じゃないんですね」
受付はポニーテールが似合うキレイなお姉さんだ。
「ゴーシュには山の様子を見に行ってもらってるわ」
「それで、そちらの方は」
お姉さんの視線がこちらに向いた。
「酒場の店員をやっているケンジといいます。討伐の依頼がしたくて来たんですけど」
「酒場の店員さんが討伐依頼ですか?」
「ええ、エミリーさん達が当分の間、山では狩りができないというので。それだとうちが扱いだした肉が手に入らなくなるんですよ。ですので、ワイバーン三頭を討伐して欲しいのです」
「ワ、ワイバーンが出たんですか!しかも三頭!」
「アタシとゴーシュが、罠にかかった猪を横取りしてるのを見たんだ。まだ小さい様だったから子供かもしれない」
「それでもワイバーンはワイバーンです! 現在のアンバーには依頼されても対応できるランクの冒険者はいませんし……それでも、この街に危険が及ぶ可能性も考慮しないといけませんから、他の支部にも連絡して対応しないとダメですね」
頭を抱えるお姉さん。
「その場合は討伐までどのくらいかかるんですか」
「ランクBの冒険者を数名探すのはかなり大変かと……日数は分かりませんよ」
「そんな………って、フクはどこに行った?」
大人しいと思ったら側にいない。
「彼女ならあそこね」
受付のお姉さんが指差す先には、食堂でイケメン兄ちゃんと、競い合うように鶏の丸焼きを食べているフクがいた。
「何やってんだフクは……すみません邪魔ですよね。こら、フク。もうちょっと離れて食べなさい」
「ああ、その子の…お父さん?」
イケメン兄ちゃんは、あれだけがっついていたのに口周りはきれいだ。ギャル曽根みたいだな。
「飼い主のケンジです。この子が失礼しました」
「飼い主? 奴隷とは感心しないなぁ」
急に目付きが変わった。
「ああ、すみません。懐かれてるという意味合いで言ったんですよ。家族ですから」
「そうか、それならいいんだ。俺はケアス、ランクS冒険者だ」




