24話
23話は昨夜に加筆修正しています。
オジサンはレッツらゴーと言ってしまう生き物です。たまーに言いたくなるんだよね。まぁ、初めて言ったのがここ異世界なんて、アイリスさんにはスルーされましたけれども。
そのアイリスさんと横並びに歩いて、トダ村に向かっています。
「アイリスさんの家ではどんなふうに米を食べているのかな?」
「初めは煮ていたんですけど、つぶつぶした感じが残って…美味しくなかったです……その後は鍋で炊いてみたんですが匂いも変だし、兎に角美味しくなくて」
ははぁ、良くあるパターンだな。これはきっと、玄米までしか精米できていないんじゃないかな。
玄米の炊き方はコツがいるから、不味いと言っている人は失敗しているだけなんだよね。
「聞いた限りだと、精米が上手くできていないんじゃないかなぁ」
「米に詳しそうですけど、ケンジさんてどちらの国の方なんですか?」
「ああ、やっぱり外国人って思う?」
「ええ、気を悪くされたらごめんなさい」
「全然平気だよ。僕はね、かなり遠くの国から来たんだけど、ここが気に入ってるんで酒場で働いてるんだよ」
「私、外国の方と会うのは初めてで」
「見た目も違うし。黒い髪っていないもんね」
「はい…黒い髪は素敵です」
少女に素敵なんて言われると嬉しい物だなぁ。
道なりに歩いて行ると左右に麦畑が広がっていく。立ち上る草いきれが田舎育ちの僕には心地良かった。
「ケンジさん、あそこに見えるのが私の家です」
いかにも中世の農家な外見の建物で、ここがタイムスリップした昔のヨーロッパ田舎といわれても信じてしまいそう。
「だだいまー。お父さんかお母さん、いるー?」
「おかえりー。今日は随分早かったね。お父さんはまだ畑にいるよ」
「んー、ならお母さんだけでもいいや。お客さんを連れてきたんだけど、昨日話した人」
「そうかい、それじゃあお礼を言わなくちゃね」
玄関の側にキジトラの猫がゴロゴロしていたので、スマホで写真を撮ってしまった。癖になってて自分が怖くなった。
「ケンジさん、猫と何やってるんですか。もう、子供みたいなんだから。早く中に入って下さい」
アイリスさんは猫を抱き上げて入っていく。
「あら、外国の方だったのかい? アイリスが格好良かったって言っていたから、もっと若い人なのかと思ってたよ。でもまぁ、いい面構えしてるねぇ」
「お母さん!」
顔を赤くして口を塞ごうとしているのが可愛い。
「初めまして、ケンジと言います。アンバーで酒場の店員をしています。よろしくお願いいたします」
「あらあらご丁寧に。あたしはカレン。アイリスの母親だよ。何か用事があって訪ねてきてくれたんだろ」
カレンさんはスラッとしていて背が高く、足がすっぽりと隠れるロングスカート姿だ。
「お母さん、ケンジさんは米が欲しいんだって」
「そうなんです。是非とも米を購入したく伺った次第です」
米という単語を聞いた途端、カレンさんの表情が曇ってきた。
「うちの旦那が頑固でね、どうしても止めないって言うもんだからやらせてるけど、本当は麦をやって欲しいんだよ。何故だか知らないけど、俺の中の血が米を欲するのだ、とか訳の分からない事を言っちゃってさぁ。馬鹿なんだよ」
「ははは、そうなんですか………ねぇ、ご両親は仲が悪いの?」
隣のアイリスさんに小声で尋ねる。
「いえ、仲良しだと思います…その…夜も賑やかですし……」
「何コソコソやってんだい。米とか言って、本当はうちの娘をくださいとか言い出すんじゃないだろうね」
「はわっ、はわわわわ」
「ええっ、ちっ、違いますよ!米です!僕も旦那さんと一緒で米を愛してるんです!」
「…ケンジさん、私の事好きじゃないんだ」
「ええっ?アイリスさん、どうしちゃったの?」
「ははは、分かってるよー。ちょっとからかってみただけさ。でも、アイリスは満更でもないみたいだねぇ。何ならもらってくれてもいいんだよ」
いやいやいや、オッサンに年端もいかない娘が惚れてるかもとか、親として心配しないとダメだろうに。いや、地球でも昔は結婚適齢期って早かったっけ。
「アイリスさんとは年の離れた友達という事で」
「年の離れたって、いってて二十五、六だろ?」
カレンさんが言う。
「三十六です…」
「「えっ」」
「え?」
「全然若く見えますけど…本当に?」
これはアレか、日本人は童顔に見えちゃうから、外国で酒を飲もうとするとID提示を求められるっていう、アレか。まぁ確かに私服でキャバクラに行くと、えー見えなーい、とか言われてたけど、それって営業トークなんだと思ってたよ。
「お前みたいな奴に大事な娘はやれーんッ!」
家の奥から筋肉ムキムキの親父ががなりながら出てきた。急展開に、嫌な汗がブワッと吹き出してくる。
「お父さん!」
アイリスさんは、またもや顔を真っ赤にしてしまう。
「もう帰ってもいいですか……」
「ハッハッハ、冗談だよ冗談。奥で全部聞いていたから。あんた、米を愛してるって?本当に米が欲しいのか……理由を聞いてもいいかな?」
「はぁ…米は祖国では主食でしたし、できたら米で酒を造ってみたいな、と、そう思ったんですよ」
「何?主食だと?」
「毎日食べていましたよ…これで」
ポケットに入れっぱなしにしていたマイ箸を見せた。ハンチング帽を斜めに被るオッサンに影響を受けたのは言うまでもない。
「おい、そりゃあ箸じゃねーか!」
親父は言うなり奥へ引っ込んでしまった。
「何か機嫌を損ねることでしたでしょうか」
「さぁねぇ、怒ってるわけじゃないと思うわよ」
「あんたァ!何してるんだい!」
奥でゴソゴソしている音がして、親父は戻って来た。
「これがなんだか分かるか」
「日本刀……」
親父が持つ物は見間違えようもなく、この世界にはないはずの日本刀だった。




