23話
次の日、大家のマイヤーズさんに人手が足りないという話をしたら、斡旋ギルドがあるとの事。所謂メイドさんなんかもそこから派遣されたりするらしい。いい事を聞いたので、今日は朝から斡旋ギルドへ向かっている。
アンバーには冒険者ギルドもあるようで、立ち飲みチコリの客にも確かに冒険者はいる。冒険者ってどんな仕事をしているんだろうか。しがない酒場の店員には計り知れなかった。
マイヤーズさんの店を出てからか十分。
斡旋ギルドはこぢんまりとそこにありました。
白い壁に緑の蔦がからむ建物のドアを開いて入って行くと、正面に受付があった。ギルドの受付は会社というより役所って感じだな。
「斡旋ギルドへようこそ。本日は何の御用ですか」
眼鏡をかけた髪の長い女性が受付だ。
「こんにちは。こちらで従業員の斡旋をしてくれると聞いて伺ったのですが」
「ええ、いろんな職業全般に派遣をやっております。どのような職業ですか?」
「酒場なんですが、短期で働いてくれる女性を二名探しているんです」
「それでしたら名簿からピックアップしますので、そちらの椅子におかけになってお待ち下さい」
午前中だからなのか人はまばらだ。
手持ち無沙汰なので壁に貼ってある求人票を見る。ずーっと気になっていたんだけど、この世界は文字も言葉も日本語なんだよね。なので読めちゃうそれには、農作物の刈取りから鍛冶手伝い(オジサンはちょっと笑ってしまった)、引っ越し作業と色々あるんだなと感じられて、異世界にもニートっているのかしら。
あー、こっちでもあるわ、軽作業。これには騙されちゃいけない。簡単で楽な作業の事じゃなくて、手作業の事だからね。
ラムとサラは最低でも二週間は戻れないらしいから、いい人を紹介してくれるといいなぁ、と思っていると、
「見繕ってみましたので、あちらの席でお話させて下さい」
受付のお姉さんに連れられて、フロアの角にある席へ移動した。フカフカのソファに座らされ、お茶なんかも出してくれたり至れり尽くせりだ。
「申し遅れました。当ギルド、受付兼斡旋アドバイザーのリリィと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「あ、ケンジです。立ち飲みチコリの手伝い……アドバイザーをやっています。どうぞよろしくお願いいたします」
立ち飲みチコリと言った途端、リリィさんの眼鏡がキラっと光った気がした。
「それでは早速ですが、こちらのサラさんなんかは生活魔法でも水魔法かわ使えますし、お薦め致します」
「サラさんて、サラさんなのかなぁ。水魔法が得意な娘ですか?それならもう、うちで働いてもらってるんですけど…多分同じ人ですよね?」
「あら、そうなんですか。ご自分で仕事を探せたんですね。それは良かった」
「まぁ、そうなんですが、そのサラさんと店長が休暇を取っていまして。最低でも二週間は人手が足りなくなるので困っているんですよ」
「そうでしたか、それでしたら…」
その後十人くらいの中から二人を選び、明日、店で面接をする事にしてギルドを後にした。
そして、帰りに噴水の前に来た。
昨日の事も少しは気になっていたし。
子供達がはしゃぎまわり、それを見守る親達で結構な賑わいだ。
昨日の場所を見ると、今日も花売りの娘はそこにいた。
「やぁ、今日も頑張っていますね」
「あ、昨日のお兄さん…昨日はありがとうございました。助けていただいた上に花まで買っていただいて。あの、これお釣りです」
手には銅貨が数枚握られていた。
「いいんだよ、それより少し話し相手になってくれないかな」
「はい、私なんかで良ければ」
幼い少女の笑顔が眩しい。
実のところ、この世界の事には詳しくない。
ナターシャはエルフの村以外の知識はあまり無いみたいだし、フクは中身が猫だし幼いから、知識も少ないし。
「僕はケンジって言って、商店街の酒場で働いているんだけど、この街に来たばかりでね、まだ知らない事が多いから色々と教えて欲しいんだ」
「私はアイリスです。この街から一時間ほど歩いた所にあるトダ村に住んでます」
「え、毎日、一時間も歩いて来てるの?」
それがどうしたの?みたいに首を傾げている。この世界では基本歩きだから一時間くらい余裕なんだろうなぁ。
「ああ、そうね、歩きは基本だもんね。それでもここまで来て花を売るのは大変そうだけど」
「うちは農家ですが作物の儲けが少なくて、私も栽培した花を売りに来ているんです。昨日までは何事もなくやれてたんですけど急に絡まれて……」
「どこにでもいるよな、奴らみたいなの。また来たら追っ払ってやるからね。ところでアイリスさんの家では野菜も作っているのかな」
「うちは花と…この辺では見向きもされない…米という作物を作っていますけど、それが美味しくないから売れなくて……」
はい?米?米だって!?マジか!
「ちょ、ちょっとその話、詳しく聞かせて!」
興奮の余り、肩を手で掴みかけたとたんにスルッと避けられて、前屈みに噴水の水面へ突っ込んでしまった。水飛沫が綺麗な虹を作る。
「あっ、ごめんなさい…男の人に慣れてなくて」
「まさか避けるとは…」
シャツを脱いで絞りながらベンチへ移動した。
周りのお母さん達の視線が痛い……。
「アイリスさん、僕に米を売ってくれないかな?」
「両親は喜ぶと思いますけど…米ですよ?」
「米だから買いたいんです。ご両親にも話をさせていただきたいんで、家に寄って着替えさせて下さい」
和食が作れるようになればご飯はなくてはならない食べ物だ。それに、現地生産の日本酒が手に入るようになれば、酒発祥の地として誇れるものが更に増える。
サッと着替えて彼女の荷物を持つ。花は今日も全て買わせていただいた。
「それじゃあ、アイリスさんちへレッツらゴー!」
22時37分に加筆修正しました。




