21話
生まれてすぐにダンボールに入れられた猫のお話です。
『ここはどこニャ』
雌の子猫は、とあるマンションの入口に捨てられていました。ダンボールに敷かれた使い古しのタオルが一枚、今はそれが子猫の家でした。
家には一緒に他に兄弟もいなく、子猫は一匹で物音のする方にミャァミャァと鳴いていました。本人は頑張って話しかけていたつもりです。
『お腹空いたニャ…』
子猫はとても腹ペコでした。
それもそのはず、捨てられてから半日以上何も口にしていないのです。
鳴いても鳴いても誰の反応もありません。
子猫はいつしか疲れと空腹でグッタリとしてしまいました。
『このままでは死んでしまうのニャ……』
日も落ちて辺りは暗くなり、人も殆ど通らなくなりました。駅から離れた住宅街なんてこんなもんです。
気温も下がり、このままでは明日の朝までもちそうにありません。
そんな時でした。
「何だこの箱」
上の方から声がします。
しかし、子猫の身体は動かす事すらままなりません。力を振り絞って一言発するくらいしか。
『ミャア…』
「何だ、子猫か。捨てられちゃったのか? こんなに小さいのに酷い飼い主もいるもんだ……お前も可愛そうなやつだなぁ」
大きな生き物はそう言うと、ダンボールの家はフワッと浮きましました。
(揺れてる)
そう思うと同時に「バタン」と大きな音がして、また地面に家が降ろされました。
「これも何かの縁だからな。俺がご主人様になるから安心しろ……んー、モフモフだぁ。よし、排泄はOKと……少し待ってな」
またバタンと音がして、大きな生き物はいなくなりました。
不安な気持ちが一杯でしたが、いつの間にか周りが暖かくなってきました。安心したら、空腹より睡魔が勝ってしまい、子猫はいつしか寝てしまいました。
『フニャ?』
急に身体が浮きました。
「よーし、ミルクを飲もうな」
口に美味しい匂いが充満します。
これは…美味い美味い…美味い…。
『ゲプ』
「満足したかにゃー?よしよし、暖かくして眠るんだぞ」
「ハナー?」
『ニャーン』
猫は尻尾を立てながらご主人様まっしぐらです。
頭をかいてもらい大満足。でも、猫はゴロゴロ言いません。
「お前はゴロゴロ言わない猫だなぁ。どうしてなのかね?ん?どうちてなのー?」
ご主人様は大概赤ちゃん言葉になります。猫はれっきとしたレディなのに。失礼しちゃうわ、なので左パンチを繰り出します。
「おっ、機嫌悪いのか?全く、ハナはそんなところも可愛いよー」
「どんぐり拾ってきたのかい。好きだねぇ、どんぐり」
「しかしお前は夏なのに乗ってくるねぇ。暑くないのかい?俺は暑いけど」
「爪立てないで乗ってきてくれるのね。可愛い奴め」
ご主人様と猫は毎日幸せでした。大きな生き物と猫は、まるで恋人同士の様に季節を重ねていきます。
大きな生き物はひとりぼっちになりました。
あんなに飲んでいたお酒も断ち、まるで別人のようです。
『コトッ』
「ん?」
「どんぐり……」
「何でこんな所に」
「ハナ?」
「ふふっ、そうだな、そうだよな、元気にならなきゃな…」
今は大きな生き物より、ずっとずっと上にいるからいつも見てるんだよ。毎日毎日見てるんだよ。
窓際に置いていたどんぐりから小さな芽が出ていました。




