13話
自身を持って言おう、この世界初めてのホップを使ったエールは大成功だった。
あの後、全ての大樽でホップが使われ、醸造が始まった。それに伴い、酒場の準備も大急ぎで作業されていたのだ。
「マイヤーズさん、すみません。予定より広く使わせていただいて」
雑貨屋の通りから向かって左側を、当初より一メートル程幅広く使わせてもらえた。
酒場としては間口は狭めだけど奥に長い、うなぎの寝床スタイルで、入り口にモスグリーンの暖簾を置いて、そこをくぐると左の壁から逆Lの字にカウンターがドドーンとあります。右の壁側には小さ目のテーブルを配置して、少しのスペースでもスタンディングで飲めるスタイルにしました。
今のところはエールしかないけど、今後儲かれば他の酒も造りたいと思っています。まずはアンバーの人達を驚かせないとね。
「店長がラム。調理はナターシャ。じゃ○ン子チエ的マスコットはチコリちゃん。僕はアドバイザーという名の客って事で」
「店員でしょー。まぁいいけど…飲んだらお金は払いなさいよ〜」
「その辺はキッチリしてるのね……。えーと、それじゃあナターシャさん、プレオープンの為の食材を買い出しに行きましょうか」
「はい、私ならいつでも大丈夫です」
「ん」
「ははは、チコリちゃんも行くかい?」
こうして、チコリを真ん中に手を繋いで買い出しに行く事となった。何だか温かな視線を多々感じてこっ恥ずかしいですな。結婚して子供ができたらこんな感じなのかなぁ、と妄想していたら、あっという間に商店街に着いちゃいました。
「最初は肉だな。メインの串は何肉がいいのかなぁ」
「屋台などは鶏肉が多いみたいですが、きちんとした店なので、扱われている鶏、牛、豚、羊を買っていきませんか?一番出るメニューでメインの肉を決めたらいいと思います」
「そうだね、そうしよう。後は鶏と豚のモツに牛の胃もお願いしようかな。オジサン、多く買うからまけてくれない?」
「おぅ!モツはオマケにしておくよ。俺もラムちゃんからプレオープンにお誘い受けてるしな。楽しみにしてるよ」
肉屋のオヤジも招待されてるのか。そりゃそうか、一番多い仕入先になるしな。
「ありがとうございます。期待に添えるよう頑張ります」
「次は野菜だな」
八百屋は何軒かあるみたいだった。
「ここは見た事がない野菜が沢山あるな。デカイ!…芋かなこれ」
「それはマル芋だよ。蒸して食べるんだよ。ほら、蒸したのがあるから食べてみな」
フムフム、ジャガイモよりはねっとりしていて味は少し甘めだな。なんか癖になりそうな味だ。
「よし、これは買っておこう。それと玉ねぎ、ネギ…アスパラにトマトだな」
東京の価格がアホかというほど安い。
「ケンジ殿、きのこ類もお願いします。串焼きにすると美味しいですし」
「あっ、そうだね、忘れてたよ。しかし立派なきのこばかりだねぇ」
こちらのきのこは日本のと違うようで、全てが見たことの無いものだった。松茸のようで黒黒として、香りは香ばしいエビのような物とか、舞茸みたいに大きく育った粘る物とか。
「こんなものかな」
肉に野菜、後は魚なんかもあると黒板メニューにいいかも知れない。隣は丁度魚屋だ。
海に面している訳ではないので川魚だ。
「うーん、そうか、川か…魚は次回だな。今日は川エビを買っていくか」
課題を少し残しつつ、他の店も回ってみた。
「何でも屋?」
チコリが袖を引っ張って止めるので店先の看板を見る。
「ここに寄りたいの?」
「んふぅ」
変な笑顔で中に入っていく。
トタトタと走っていく先には例の紙パックが置いてあったのです。




