12話
そこにいたのは、日本で時々通っていたアニソンカラオケバーの店員『サラちゃん』だったのです。
そこは三千円で無制限の飲み放題だし、歌わなくてもカウンターでダベっているだけで和める店なんだよね。なので、オタクな話をしに行っていた訳ですが。
「お客様……何でここにいるんです………?」
「何でって、こっちが聞きたいよ。アニソンカラオケバーのサラちゃんだよね? 今更顔をそらしても無駄ですよ、あんなに魔女っ子とお酒の話で盛り上がったんだし」
サラちゃんとはアニメの話と酒の趣味が合って、店に行くごとに新発売の缶チューハイだの、オープンした立ち飲み屋の話だので盛り上がれて楽しかったのだ。
「え、サラちゃんも日本人だったの?」
ラムも驚いた表情だ。
「えーと…私はこちらの住人です。ラムさんて黒髪で目も茶色で……その、とても素敵だったので、知り合った日に後をついて行ったんです。そうしたら地面に魔法陣が浮き出てきて、ラムさんがそれに乗ったので、私も好奇心から魔法陣が消える間際に乗ったんです……」
「なるほど…ラムについて行ったら日本に行っちゃったのね」
「そうなんです。それでアタフタしていると、出勤途中のアニソンバー店長と出会って、こんな格好でしょ?魔女っ娘いいねぇ、とかなんとか言われて連れて行かれちゃったんです。初めて目にするアニメに興味を惹かれ、かなり勉強しました。アニメソングは店員の娘からCDを借りて、聴いていたら自然に覚えました」
「こっちに戻る時はどうやってたの? あの魔法陣は私にしか出せない特別なものだから、行ったっきりになるはずなのに」
「私も当初はもう戻れないと覚悟を決めていましたけど、何故か七日目の朝になるとこっちの自宅に戻っているのです。なので、日本に行く時はラムさんをつけさせてもらいました」
「全然気付かなかった……そうそう、彼女が店で水魔法や火魔法で手伝ってくれる魔法使いよ」
「そうなのか……何だか知り合いが魔法使いだったんで驚いていますが、ここで立ち話しをしていても始まりませんし、早速だけど修道院に向かいましょう」
我々は挨拶を済ませ、マイヤーズさんと共に修道院へ向かった。
修道院ではマリーナさんを始め、今回の依頼を快く承諾してくれた修道士達が出迎えてくれた。
皆、エールの新しい作り方には興味津々だったようで、皆さん早く醸造結果を見たくてウズウズしています。もちろん、こちらサイドもワクワクしながらドキドキしていますよ。失敗も考えられますからね。
「それでは参りましょう。こちらです」
前に来た時には賑わっていた廊下はシーンと静まりかえっていて、緊張感に包まれているようでした。
醸造場に着くと、他の修道士達は皆ここに集合していて、大きな拍手で迎えられました。
そして、注目の視線の中、僕達はエールの入った樽に近付いていきます。
「それではこれから中身を酒場用の小さい樽に詰めます。そして、ここにいる魔法使いの魔法で冷やしながらジョッキに注ぎます」
ごくりと唾を飲む音がそこかしこからしてきて、緊張感は最高潮です。
「サラちゃん、氷魔法をお願いします!」
氷の魔法で瞬間的に冷やされながらジョッキへ注がれます。
一見普通の小さな樽とサーバーが、これから始まる酒の歴史に新たなページを作る事になるはず。
用意してきたガラスジョッキにも魔法をかけてもらってキンキンに冷やします。注いでもエールなので泡はほとんど出ません。
ジョッキに結露ができて、見た目にも美味しそう!
「皆に行き渡りましたね……それでは兎にも角にも飲んでみましょう!乾杯!」
僕がジョッキを高く掲げると、皆も同じ様に掲げてくれます。そして、冷えたジョッキから喉へとエールを流し込みます!
思ったよりも香り高くできてる!
これは美味い!大成功だ!
周りを見ると盛り上がるどころか、何故かシーンとしていたのです。
「あれ?美味しくないですか……? 口に合いませんか?」
その時です。清楚なマリーナさんが被り物を脱ぎ捨ててジョッキを煽ります。
「ああああ、ケンジさん、何て物を私達に作らせたんですかぁあああ!」
作業台にダンッ!とジョッキを置き、号泣しながら抱きついてきたんです。ちょ、ちょっと、皆見てますよ!
それからは大騒ぎで味や香りについて話し込んだり、冷やすことの重大さに気付いた修道士達がサラちゃんに仕事の依頼をしたりと、結局、造ったエールの半分を消費してしまいました。
「ケンジさん、これで店が開けますね」
ラムはニコッと笑いながら頬にキスをしてきたのでした。
2話で主人公がつい、女の子の前で『僕』と言ってしまった手前、何となく『俺』から『僕』と言うようになってしまいました。




