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烏取県混海駅前通り女児誘拐事件といえば、オカルト関連で有名な未解決事件だ。
彼女はナツガキさん、という存在を、実在する人物か、それともそう言う怪異の名前なのか、と、考えていて、最終的に母親のことを指すと思ったようだ。彼女自身の名前が夏垣であり、母親が言い逃れのできない状況証拠を見つけてしまった。この二点が大きな理由だろう。
ただ、ネットでは、『ナツガキさん』という怪異は、存在するものとなっている。そういう、都市伝説の名前。
子供をさらう女性の怪異。『ナツガキさん』に連れていかれた子供は、永遠にその姿のまま、現世をさまよう。
そういう、都市伝説。
彼女が見た動画の一つ、『十年以内に起きたオカルト未解決事件五選』、全て『ナツガキさん』の犯行によるもの、とネットでは噂になっている。当時、この動画を上げた投稿チャンネルの登録者がほんの十数人しかおらず、無名だったから、この噂は立たなかったものの、たまたまとある動画でバズり、登録者が増えてからは、『この動画、全部ナツガキさんが起こした事件なのでは?』という話がネットで出始めた。十年前に紹介されていた時点で未解決だった事件が、今もなお、解決せず、一向に新情報が出てこないことも、噂をかきたてる大きな要因だろう。
僕もこのチャンネルがバズったときに面白そうなものをいくつか見て、今回、夏垣の日記を公開し始める直前にも件の動画をチェックしている。
夏垣は全部の動画を見ず、烏取県混海駅前通り女児誘拐事件の事件概要しか確認していない。しかも、そのパートすら、全て見ていない。だから、この選ばれた五つの事件が、全てつながっているかもしれない、という結論に至らなかったのだろう。
「……まあ、見てても気が付いたとは限らないけど」
このときの夏垣の精神状態を考えれば、関連性を見出すこともできなかったと思う。僕だって、身内が犯人かもしれない、と怪しんでいる状況では、余計な情報は目に入らないだろう。
「例の五大オカルト誘拐事件の概要とかをまとめて……子供の目撃情報と……あとはまだ母親が捕まっていない、とか、まだ通報してくれないんですか? みたいなパートを入れて……適当に考察できそうな、なんかを書いて終わりでいいかなあ……」
僕は独り言をつぶやきながらメモを取る。数冊、本を出したことがあるとはいえ、所詮は動画のノリ。文字だけではなく、絵や写真、図などを多用に使ったものだった。
仮にただ朗読するような動画であっても、ここは絵で見せた方が面白いかな、効果音はセリフじゃなくてSEで、と、微妙に小説とは考えることが違う。
完全に、頭から最後まで小説として書いたのはこれが初めて。多少、文章量が少なくとも、文字だけで構成される作品を書くのに慣れていない以上は、下手に高クオリティを目指すよりもまずは完結を目指したほうがいいだろう。
動画を作り、投稿し始めるときはいつだってこれを意識して、それで成功したのだ。
「あの事件は――、ええと、この辺にまとめてあったっけ」
僕はパソコンの前から本棚の前へと移動し、ずらりと並んだファイルの中から目的のものを探す。




